公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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57話 闇社会への実力行使

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 ティリアが屋内で少女達の相手をしている時、ライルは広い庭で少年達の相手をしていた。

「へぇ。それで、ライル兄ちゃんはサーベルタイガー・ロードを倒したの?」
「ああ。倒したよ」
「すげぇ!」
「ロード級の魔物倒すって、勇者みたいじゃん!」

 少年達は尊敬の眼差しだ。口々にライルを称賛している。

「いいなぁ。見たかったなぁ」
「うーん。でも子供には刺激が強いからね。危険でもあるし」
「でも見れた人は沢山いるんだよね? 羨ましいなぁ。いいなぁ」
「そんなに見たかったのかい?」

 ライルは小柄な少年に問い掛ける。

「うん。だって僕達さ、ライル兄ちゃんが大陸覇者闘技で優勝したところも、ワイバーンを倒したところも、S級冒険者に勝ったところも見れてないし。今日だって、サーベルタイガー・ロードを倒したって話を聞いて『凄い。凄い』って言うだけなんだもん」

 少年は口を尖らせる。周囲にいる少年達も、先程までの盛り上がりもどこへやら、少し残念そうな顔だ。
 その様子を見たライルは、少しの間考えてから「よし」と言って立ち上がった。

「冒険者になりたい子は、いるかい?」

 約3分の1となる5人の少年が手を挙げると、ライルは薪用の材木を魔法で細く削り、それを5本作った。

「《身体能力強化フィジカルブースト》」

 自身に魔法を使ったライルは、冒険者志望の少年達に細い木の棒を手渡した。

「どこからでも掛かってきていいよ。俺の方からは攻撃しないから」
『えっ!?』

 少年達は戸惑っている。

「ライル兄ちゃんが怪我するよ?」
「いや、大丈夫だ。その危険はないから心配しなくていい。それに俺は『ロード級の魔物を倒せる勇者』なんだろう? 怪我なんてしないさ」

 ライルが笑い掛けると、少年達は顔を見合わせる。

「じゃあ、行くよ?」と年長の少年が言うと、少年達は木の棒を構えた。

「せーの!」

 少年達は思い思いにライルへと殺到するが、ライルは地面を踏み締めて瞬時に
後方へと跳んだ。着地すると同時に身体を切り返し、今度は高速で少年達に迫った。

「うわぁっ!?」

 突如として目の前に現れたライルに驚き、少年2人が腰を抜かして座り込んだ。

『す、すげぇ!』

 ライルの力を垣間見た少年達は大喜びだ。それからは、せがまれるままに技を披露したり、少年達に稽古をつけたりした。

 特に好評だったのは、ライルが逃亡役となる本気追い駆けっこだ。捕まったら「好きな子に告白する」という罰ゲームだった為、ライルは大人気ないながらも《身体能力強化フィジカルブースト》を使って敷地内を全力で逃げた。

 15人近くの少年は誰もライルに触れることが出来なかったが、全力で遊べた事で満足そうだった。

 そんな時、孤児院の周囲が騒がしくなった。ガラの悪い冒険者崩れの男達が、大挙して押し寄せたからだ。

「神父さんは、いるかい?」

 ドスの利いた声でリーダー格の男が喋ると、ライルは少年達を遠くに避難させた。

「何か御用ですか? 御用件があるなら、俺が代わりに聞きますが」
「誰だお前? 関係ねぇならすっこんでろ!」

「俺ですか? 俺はライルです。ちなみに此処には寄付をしておりますので、無関係ではありません」
「お前まさか、ライル・グローツかっ!?」

 男は驚いた顔をした後に歯噛みする。

 この街の上空は、しばらく前までワイバーンの通り道だった。いくら人間に危害を加えないとはいえ、千体近くの竜種が上空を飛ぶのは誰だって恐ろしい。

 それが、この街の地価を押し下げる要因となっていた。しかしワイバーンが殲滅された今、王国第2都市であるこの街の地価は上がる事が確定している。

 その為、この孤児院は恰好のターゲットとして複数の権力者から狙われていた。老朽化した建物の建て替え費用など、金のない神父には工面出来ないからだ。

 ある権力者は、神父にそれなりの金を握らせて、孤児院をまとめて田舎に追いやるつもりでいた。それだけで確実に儲かるはずだった。

 だが、そうはならなかった。ライルがワイバーン討伐の報奨金を全額寄付したからだ。建て替えは魔法も使った短納期建築だった為、孤児院の建て替え工事は既に終わっている。

「ここの権利を譲って、黙って出て行くなら許してやる。そう神父に伝えとけ」

 そう言って踵を返そうとした男の肩を、ライルは掴んだ。

「待て」
「ああ?」
「何故、お前に許してもらう必要があるんだ? お前に何の権利がある?」

 ライルは凄むが、男はニヤニヤと笑っている。

「イテテテ。肩がいてーなぁ」
「そりゃあマズイ。このままじゃ殺されちまう」
「つーわけで正当防衛だからな? オラァ!」

 ライルは大振りの拳を難無くかわす。未だにライルの功績を「詐術だ」と言って、頑なに信じようとしない者もいる。それが、今目の前にいる男達だ。

「なっ!? 避けただと!?」
「一斉に掛かれ!」
『おおおおおお!』

「《身体能力強化フィジカルブースト》」

 武器を持って襲い掛かる20人超の男達を、ライルは次々に沈めていく。全て一撃だ。

 腹を殴り、首裏に回し蹴りを放ち、背中に掌底をあて、宙に跳んで着地と同時に高速の肘打ちで吹き飛ばす。

 ライルは素手のままで、武器すら必要としていない。高速の体技だけで、あっと言う間に残りはリーダー格の男だけとなった。

 しょせん男達は「冒険者崩れ」でしかない。何人集まろうとも、冒険者の最高峰に位置するライルの敵ではなかった。

「お、お前には女がいるらしいなっ!」
「何が言いたいんだ?」
「えれぇ綺麗な女だって聞いたぜ?」
「……」

 すると下卑た笑みを浮かべる男は、言ってはいけない言葉を口にした。

「へへっ。俺等が本気出しゃあ、女の1人くらいどうにでも出来るんだぜ? 裏社会をなめるなよ? お前の大事な女を、人に見せられない姿にしてやってもいいんだ」

 瞬間、ライルの殺気が膨れ上がった。

「うぐぅっ!?」

 冒険者をやっていた男は、触れてはいけないものに触れてしまったと自覚した。男が冒険者を辞める切っ掛けとなったのは、強い魔物から放たれる殺気に恐れをなしたからだ。

 しかしライルが放つそれは、男が過去に経験した魔物の殺気を遥かに上回っていた。目を合わせなくても「殺すぞお前」と言われているのが分かる。

「わ、悪かった! 悪かったぁあああああああああ! もう手を出さない! 近寄らないから許してくれ!」

 ライルは冷静さを失っていたが、どこからともなく聞こえてきたティリアの歌声で我に返った。

 ライルは男に詰め寄り「二度目はない」と脅す。安堵した男は平身低頭謝ってから、他のならず者達を順次起こして去っていった。

 この件の後、闇社会でもライルの名が広まっていく事になる。
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