公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

文字の大きさ
77 / 77

77話 護衛騎士は元公爵令嬢と幸せになる

しおりを挟む
 青空が広がっている。今日はライルとティリアの結婚式だ

 白いタキシードを着たライルは、教会の外でギルドメンバー達と共に待機していた。今はギルドマスターのヴェイナーと雑談をしている最中だ。

「ティリア様は、さぞかし御美しいのでしょうね」
「アンタも十分格好良いんだから自信持ちなさい。気後れしてると、また気絶するわよ?」
「……気を付けます」

 すると、S級冒険者に昇格したばかりのリンドルがヴェイナーへと迫る。

「ヴェイナー」
「ん? 何?」
「お前も……今日は綺麗だと思う」
「何? 聞こえないんだけど?」
「くっ! なんでもねぇよ!」
「何て言ったの?」
「うっせぇ! なんでもねぇって言ってんだろが!」
「気になるじゃない。教えなさい」

 逃げるリンドルをヴェイナーが追って行くと、入れ替わるようにゼンじいが話し掛けてくる。

「リンドルはヘタレじゃな。ところでライル」
「はい?」
「立派な跡取り息子を育てろよ?」
「跡取り息子っ!?」

 結婚式後の初夜を想像してしまったライルは、どうにか平常心を保ってゼンじいへと向き直る。

「ゼ、ゼンさん。息子が生まれるとは限りませんよ。娘かもしれませんし」
「そんな訳あるかい! 絶対に息子が生まれるはずじゃ!」
「ゼンさん。まさか……」

 ピンときたライルはジト目でゼンじいを見る。

「ギャンブルですか?」
「決まっておろうが! もちろん全額ぶっ込んどるわ!」

 ゼンじいはどこからともなくギャンブル資金を調達し、ヴェイナーの目をかい潜って賭けていた。

「ライル。期待しとるからな!」
「人の家庭で賭けないでください」

 溜息を吐いた。

「ライル・グローツ子爵様」
「はい?」
「婚約者様の支度がお済みになりましたので、控室までご案内させていただきます」

 教会のシスターに連れられたライルは、控室へと入る直前に深呼吸をした。

(ティリア様は美しい。想像を絶する程に美しい。正気を保てよ)

「ティリア様。失礼します」

 緊張しながらドアを開けると、

(!?)

 ライルは呼吸をするのも忘れて魅入ってしまった。白銀に煌めく髪に神秘的なアメジストの瞳。純白のウェディングドレスを着たティリアは、この世のものとは思えない程に美しかった

「ライル様」
「ライル様」
「あ、ああ。すまない」

 傍で控えていた執事長と侍女長が、呆けていたライルを正気に戻す。

「ティリア様。なんと御美しい。月の妖精だと言われても、俺は信じてしまいそうです」
「ラ、ライルの方こそ。とても素敵よ」

(ティリア様が俺の妻に)

 赤くなったティリアを感無量で見つめていると、

「このような素晴らしき日を迎えられた事、ライル様に仕える者として大変喜ばしく思っております」

 年嵩の執事長が胸に手を当てて礼をする。執事長や侍女長も含めた使用人達は、元は祖国のグローツ子爵家で働いていた者達だった。

「マーカス。ティリア様には敬意をもって接してくれ」
「もちろんでございます」

 ティリアは公爵令嬢だった時代、使用人達から軽く扱われて冷遇されていた。なのでライルは、情報通でもある親友アーバンの伝手を使って、元使用人達に連絡を取り、邸で働いてもらう事にしたのだ。

 ライルの幸せを願っていた気の良い使用人達であれば、ティリアを冷遇しようなどとは思わないだろう。

「ティリア様。どうかライル様の事を末永くよろしくお願い致します」

 執事長と侍女長が恭しく頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

 執事長と侍女長は、ティリアの返答を聞いて笑顔を向ける。

「では、行きましょうかティリア様」
「ええ」

 そして二人は教会で永遠の愛を誓った。

 魔女がフラワーシャワーを降らせる中、参列者達に祝福されながら夫婦となった。

 △

 4年後。晴れた日の庭園。

「お父様ぁ。お母様ぁ」

 白銀の髪と紫の瞳を持つ一人娘が、少し離れた場所で大きく手を振っている。顔立ちはティリアに良く似ているが、性格は正反対でなかなかのお転婆だ。

「リリー。ドレスで走っては駄目よ? 転んでしまうわ」
「はぁーい」

 と言いつつ、幼いリリーは広い庭園を走り回る。それを侍女達が慌てて追っていく様子を見て、ライルとティリアは苦笑した。

「私、毎日がとても幸せだわ」
「俺もですティリア様」

 ティリアは溜息を吐く。

「ライル。今日は結婚記念日よ?」
「そうですね」
「約束、もしかして忘れてる?」
「いえ。忘れてなどおりま……忘れてないよ。ティ、ティリア」

 ライルはドギマギしながら答えた。長年染みついた「ティリアに仕える者」としてのクセが、いつまで経っても抜けないからだ。

 ティリアに対して気軽に接しようとしても、ライルの精神がどうしても拒絶してしまう。そこで妥協案として、結婚記念日だけはライルも努力して、普通の夫婦のように振舞うという事で落ち着いた。

「あの……ティリア」

 ライルは咳払いをしてティリアを見つめる。

「愛してる。今までも、これからもずっと」
「私も。貴方を愛しているわ」

 柔らかな風が吹き、二人は静かにキスをする。
 恥ずかしそうに微笑むティリアを、ライルはそっと抱き締めた。



 お読みいただき、どうもありがとうございました。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

まり
2023.08.01 まり

一気読みさせていただいたのですが、すっごく面白かったです!
ティリアもライルも真面目なだけに、ちょっとズレたやり取りが微笑ましくて。
天井に張り付く魔物のくだりとか笑ってしまいました!
ティリア可愛すぎます✨
ギルドのメンバーも魅力的ですね。
素敵なお話をありがとうございました!

解除
ohanasisakura
2022.10.25 ohanasisakura

今 ティリアはどうしてるんだろう

2022.10.25 アスライム

感想ありがとうございます。
ライルを待つティリアの様子は、近々投稿予定です。

解除

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。