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76話 再会
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「ここは?」
目覚めると、そこは王城にある見慣れた一室だった。
「何故?」
死んだはずなのに生きている。ライルは訳が分からなかった。
「あ、ライル君起きた? ちょっと待ってね」
魔女のアリサがドアの隙間から顔だけを出し、パタパタと走り去って行く。しばらく経つと、アリサに連れられてシーダ姫が入室してきた。
「おおライル。起きたか」
「シーダ姫殿下?」
「よくやったな。一時はどうなる事かと思ったが」
にこやかな顔で「終わり良ければというやつだ」と話すシーダ姫を見るに、全てが良い方向に進んだのだと理解した。
「ティリアも健在だ」
「本当ですか!」
朗報を告げられたライルは心から安堵する。
「お疲れ様ライル君。避難誘導も上手くいったよ。人的被害はゼロだから」
アリサは「ああ、めっちゃシンドかったぁ」と言いながら大きく伸びをする。
「アリサさんもシーダ姫殿下も、本当にありがとうございました」
礼を言いつつ頭を下げた。すると、
「ライル」
「ティリア様!?」
侍女に押されながら、車椅子に乗ったティリアが入室して来た。ライルは呆然としてしまう。健康体になっているはずのティリアが、このような形で現れるとは思っていなかったからだ。
「ライル!」
ティリアは2人の侍女に両肩を支えられながら、倒れるようにライルの胸へと飛び込んだ。
「ティリア様」
感無量でティリアを抱き締める。数分抱き合って「帰って来た」という実感が湧いてきた頃、ライルはおそるおそる疑問を口にした。
「あ、あのティリア様。歩けなくなった……のですか?」
(俺は女神様への願いを間違ったのか?)
ライルは「ティリアの命を救ってほしい」と願い、それは確かに叶った。しかし車椅子に乗るティリアを見てしまった今、ライルの心臓はバクバクと早鐘を打っている。
「いいえ。身体に問題はないわ。今は疲れて、歩くのが少し辛いだけだから」
「そうだったんですか」
安堵しているとシーダ姫が喋り出す。
「分かっておるだろうが、其方はティリアの蘇生魔法で蘇ったのだ」
「えっ?」
(ティリア様は蘇生魔法を使えないはずでは?)
「まさか其方、こうなると予想して自死したのではないのか?」
「……」
口籠るライルを見て、シーダ姫は呆れている。
「ティリアの命を救う為には、魔力の器を正常な状態に戻さねばならんかった。それは分かるな?」
「はい」
「其方の願いにより、ティリアの魔力の器は修復されたのだ。そして魔力の器が修復されれば、ティリアは蘇生魔法を再度使えるようになる。簡単な道理ではないか」
(なるほど)
ライルは納得した顔で頷いた。
「まあ蘇生魔法を使ったティリアは、魔力の器にまた穴が空いてしまったがな」
「ではティリア様は、これからも魔力が溜まらないままなのですか?」
するとアリサが「それがねぇ」と言って笑う。
「ライル君の魔力の器とティリアちゃんの魔力の器だけど、前回同様にバイパスされて繋がっちゃったみたい」
アリサは「余程相性が良いのね」と言って苦笑した。
「パンドラの箱は役目を終えたから、これからはライル君の器にも魔力が溜まっていくわ。オーバーフローした分はティリアちゃんの器に溜まるから、ティリアちゃんも魔法が使えるの」
「そうですか」
ライルは満面の笑顔だが、ティリアの表情は冴えない。
「何も問題なく終わってよかったですねティリア様」
「何も……問題なく?」
ライルの背筋は凍る。こんなにも冷たいティリアの声を聞いたのは初めてだった。
「ライル。助けてくれてありがとう。とても感謝しているわ」
言葉とは裏腹に、ティリアの視線は厳しいままだ。
「けれど貴方は、私が蘇生魔法を使えるとは思っていなかったのよね?」
「いえ、あの……」
しどろもどろになっている。
「自分の命についてどう考えていたの?」
「……」
「貴方が何を願ったのか、私は聞いて知っているのよ」
「え?」
何も言えずに固まるライルに、シーダ姫が説明を始める。
「其方が『女神様』と呼んでおった御方は、わたしやアリサの上司でもある」
「は?」
「よってわたしは其方が何を願ったのかも当然知っておるし『俺の復活など不要です』と言い放った事も知っておる」
だからこそティリアは、自らの命を軽く考えて「問題ない」と言い切ったライルに憤りを感じていた。
「ライル。どういうつもりだったの?」
「俺は……」
ライルはゴクリと息を呑んだ。
「ティリア様には生きてほしかったんです」
「ライルの命を犠牲にしてでも?」
「はい」
「もしもライルに先立たれていたら、私は幸せになれたと思う?」
「最初は……苦しいかもしれませんが、心の傷は時が癒してくれますから」
ティリアは小さく震えている。
「ティリア様は素晴らしき淑女ですから。いずれは俺よりも相応しい男が目の前に現れて――」
「勝手な事を言わないで!」
アメジストの瞳から涙が零れ落ちた。
「どうしてそんな事が言えるの!」
ティリアは泣きながら、ライルの胸を力なく叩く。
「貴方以上に私を愛してくれる人なんているはずないじゃない! それなのに、それなのに貴方は……」
ティリアは泣き崩れ、嗚咽を漏らしながら本音を吐露し続ける。昔からライルに想いを寄せていた事も、祖国の王太子との婚約に絶望した事も、ライルと婚約した時の喜びも。
ライルは今初めて、ティリアがライルと同じように絶望し、歓喜し、長く想い合っていたのだと知った。
「お許しくださいティリア様」
自身の考えが独りよがりでしかなかったと痛感した。
「貴女を残して死ぬような真似は、今後絶対に致しません」
ライルはティリアを静かに抱き締める。
そして1年が過ぎ去った。
目覚めると、そこは王城にある見慣れた一室だった。
「何故?」
死んだはずなのに生きている。ライルは訳が分からなかった。
「あ、ライル君起きた? ちょっと待ってね」
魔女のアリサがドアの隙間から顔だけを出し、パタパタと走り去って行く。しばらく経つと、アリサに連れられてシーダ姫が入室してきた。
「おおライル。起きたか」
「シーダ姫殿下?」
「よくやったな。一時はどうなる事かと思ったが」
にこやかな顔で「終わり良ければというやつだ」と話すシーダ姫を見るに、全てが良い方向に進んだのだと理解した。
「ティリアも健在だ」
「本当ですか!」
朗報を告げられたライルは心から安堵する。
「お疲れ様ライル君。避難誘導も上手くいったよ。人的被害はゼロだから」
アリサは「ああ、めっちゃシンドかったぁ」と言いながら大きく伸びをする。
「アリサさんもシーダ姫殿下も、本当にありがとうございました」
礼を言いつつ頭を下げた。すると、
「ライル」
「ティリア様!?」
侍女に押されながら、車椅子に乗ったティリアが入室して来た。ライルは呆然としてしまう。健康体になっているはずのティリアが、このような形で現れるとは思っていなかったからだ。
「ライル!」
ティリアは2人の侍女に両肩を支えられながら、倒れるようにライルの胸へと飛び込んだ。
「ティリア様」
感無量でティリアを抱き締める。数分抱き合って「帰って来た」という実感が湧いてきた頃、ライルはおそるおそる疑問を口にした。
「あ、あのティリア様。歩けなくなった……のですか?」
(俺は女神様への願いを間違ったのか?)
ライルは「ティリアの命を救ってほしい」と願い、それは確かに叶った。しかし車椅子に乗るティリアを見てしまった今、ライルの心臓はバクバクと早鐘を打っている。
「いいえ。身体に問題はないわ。今は疲れて、歩くのが少し辛いだけだから」
「そうだったんですか」
安堵しているとシーダ姫が喋り出す。
「分かっておるだろうが、其方はティリアの蘇生魔法で蘇ったのだ」
「えっ?」
(ティリア様は蘇生魔法を使えないはずでは?)
「まさか其方、こうなると予想して自死したのではないのか?」
「……」
口籠るライルを見て、シーダ姫は呆れている。
「ティリアの命を救う為には、魔力の器を正常な状態に戻さねばならんかった。それは分かるな?」
「はい」
「其方の願いにより、ティリアの魔力の器は修復されたのだ。そして魔力の器が修復されれば、ティリアは蘇生魔法を再度使えるようになる。簡単な道理ではないか」
(なるほど)
ライルは納得した顔で頷いた。
「まあ蘇生魔法を使ったティリアは、魔力の器にまた穴が空いてしまったがな」
「ではティリア様は、これからも魔力が溜まらないままなのですか?」
するとアリサが「それがねぇ」と言って笑う。
「ライル君の魔力の器とティリアちゃんの魔力の器だけど、前回同様にバイパスされて繋がっちゃったみたい」
アリサは「余程相性が良いのね」と言って苦笑した。
「パンドラの箱は役目を終えたから、これからはライル君の器にも魔力が溜まっていくわ。オーバーフローした分はティリアちゃんの器に溜まるから、ティリアちゃんも魔法が使えるの」
「そうですか」
ライルは満面の笑顔だが、ティリアの表情は冴えない。
「何も問題なく終わってよかったですねティリア様」
「何も……問題なく?」
ライルの背筋は凍る。こんなにも冷たいティリアの声を聞いたのは初めてだった。
「ライル。助けてくれてありがとう。とても感謝しているわ」
言葉とは裏腹に、ティリアの視線は厳しいままだ。
「けれど貴方は、私が蘇生魔法を使えるとは思っていなかったのよね?」
「いえ、あの……」
しどろもどろになっている。
「自分の命についてどう考えていたの?」
「……」
「貴方が何を願ったのか、私は聞いて知っているのよ」
「え?」
何も言えずに固まるライルに、シーダ姫が説明を始める。
「其方が『女神様』と呼んでおった御方は、わたしやアリサの上司でもある」
「は?」
「よってわたしは其方が何を願ったのかも当然知っておるし『俺の復活など不要です』と言い放った事も知っておる」
だからこそティリアは、自らの命を軽く考えて「問題ない」と言い切ったライルに憤りを感じていた。
「ライル。どういうつもりだったの?」
「俺は……」
ライルはゴクリと息を呑んだ。
「ティリア様には生きてほしかったんです」
「ライルの命を犠牲にしてでも?」
「はい」
「もしもライルに先立たれていたら、私は幸せになれたと思う?」
「最初は……苦しいかもしれませんが、心の傷は時が癒してくれますから」
ティリアは小さく震えている。
「ティリア様は素晴らしき淑女ですから。いずれは俺よりも相応しい男が目の前に現れて――」
「勝手な事を言わないで!」
アメジストの瞳から涙が零れ落ちた。
「どうしてそんな事が言えるの!」
ティリアは泣きながら、ライルの胸を力なく叩く。
「貴方以上に私を愛してくれる人なんているはずないじゃない! それなのに、それなのに貴方は……」
ティリアは泣き崩れ、嗚咽を漏らしながら本音を吐露し続ける。昔からライルに想いを寄せていた事も、祖国の王太子との婚約に絶望した事も、ライルと婚約した時の喜びも。
ライルは今初めて、ティリアがライルと同じように絶望し、歓喜し、長く想い合っていたのだと知った。
「お許しくださいティリア様」
自身の考えが独りよがりでしかなかったと痛感した。
「貴女を残して死ぬような真似は、今後絶対に致しません」
ライルはティリアを静かに抱き締める。
そして1年が過ぎ去った。
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