公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

文字の大きさ
75 / 77

75話 決着

しおりを挟む
「はぁ……はぁ……」

 限界が近付いてきたライルの息は荒い。しかし4日間にも及ぶ死闘で、ようやく終わりが見えてきている。そんな時、

『……コロス』

(何だ?)

 突如聞こえた重々しい声に、ライルは警戒心を強めた。

『ヴォァアアアアアアアアアア』

 魔物達から一斉に声が発せられる。すると何かに吸い寄せられるように、魔物達が集まり始めた。

 それを好機と見たライルは、魔法トラップの全展開を決める。

「エクスパンション!」

 温存していた魔法トラップが一斉に起動した。

 数多の魔法陣が地面や空中に現れ、そこから様々な魔法が発せられる。魔物達は槍で貫かれ、岩に圧し潰され、閃光に包まれ、氷で固められ、灼熱の炎で燃やされ、闘いは終わる――はずだった。

(笑っている?)

 瘴気に包まれた黒い狼が、燃やされそうになりながらもライルを見ていた。その口の端は異様に吊り上がっている。

 瘴気を得た魔物は、殺戮願望以外の意志を見せたりはしない。これはシーダ姫やアリサから教えられた事だ。だが黒い狼は、常識に反して笑っていた。

(おかしい)

 魔物達は一致団結して、瘴気の壁を作って抗っている。まるで感情をもった集団として動いているようだった。そしてそんな瘴気の壁は、魔法トラップに対して絶大な効果があったらしい。

「あれを……耐え抜いたのか?」

 魔法トラップを防ぎ切った魔物達は、黒い狼を目指して集まり始める。それらはやがて見えざる力で一つの流体となり、巨大な竜巻となって回転を始めた。

『コロス』

 世界中の瘴気が集まったにも関わらず、何日経とうとティリアに近付く事さえ出来なかった。そういった異常な状況が長く続いた事により、瘴気に自我が芽生えたのだ。

「《威力増幅ダメージブースト》」

 最後の敵だと認識したライルは魔力の温存を止めた。

「《雷光の射手ライトニングシューター》」

 左手に神々しい弓が、右手には光の矢が現れる。光の矢に内包されている魔力には、凄まじい殺傷力が込められていた。

 ライルは光の矢をつがえて弓を弾き絞り、

「滅せよ!」

 勇ましい声と共に矢を放った。雷光となった矢は瞬時に目標へと到達し、竜巻の中で弾ける――が、

『コロス』
「なっ!?」

 何事もなかったように、黒い衝撃波がティリアへ向かって放たれる。

「ティリア様ぁあああああああ!」

 ライルは防御魔法を己に掛けつつ飛び出す。光騎士やゴーレムもライルと共に盾となり、どうにか衝撃波を霧散させたが、

『コロス』

 絶望的な状況だった。光騎士やゴーレムは消滅してしまっている。これ以上はもう防げない。

 パンドラの箱に魔力を吸い上げられているライルは、ティリアから魔力を供給される形で魔法を使っている。

 ティリアの魔力はライルの器に蓄えられるが、その魔力はもう使い切ってしまった。

(……ティリア様)

「貴女と会えて、俺は幸せでした」

 ライルは魔導に関して天才だった。己の全生命力を魔力へと強制変換する術を知っている。

 それを行えば、生成される魔力量が吸い上げられる魔力量を一時的に上回り、強力な魔法を使う事も出来るだろう。

「どうかお元気で」

 覚悟を決めたライルは、自身の魔力生成を調整するリミッターを、禁忌の魔法で破壊した。

(ぐっ!)

 かつてない程の魔力の奔流を感じ、身体の中であらゆる器官が悲鳴を上げる。残された時間が僅かだと悟ったライルは、一切の迷いなく印を切って、最後の魔法を唱えた。

「《深紅の殲滅炎クリムゾンフレア》」

 膨大な熱量をもった炎の柱が天を突く。瞬間――凄まじい衝撃波が巻き起こった。風が唸り空気が軋む。

 世界を救う為に選ばれたライルが、全生命力と引き換えに得た魔力だ。その力に抗える存在などいなかった。

(ティリア様。お慕いしております)

 ライルの意識は薄れゆく。同時に、この世界から瘴気が全て消滅した。

 △

『ライル』

 ベッドの上にいたライルは、呼び掛けに応えて目を開ける。ゆっくり身を起こすと、そこは白い空間だった。目の前には赤髪の美しき女が立っている。

「ここは?」
『神へと繋がる場です』
「神へと繋がる場?」

 ライルは改めて目の前の女を見る。神に仕える者というよりは、神そのものと言って差し支えない神々しさだった。

「もしや貴女様は、女神様でございましょうか?」
「そう捉えてもらっても構いません」
「そうですか。座ったままで失礼いたしました」

 ライルはベッドから降りて立ち上がると、女神に向かって恭しく頭を下げた。

『貴方の功績により、世界から瘴気が消え去りました』
「そうですか」
『大局的に見るならば成功と言えるでしょう』

 女神は悲壮感を漂わせながらライルを見た。

『世界から瘴気を滅した者よ。貴方は褒章として何を望みますか?』

 その問いに対して、ライルに迷いはなかった。

「女神様。どうかティリア様の命をお救いください」
『いいのですか? 貴方は自らの復活を望む事も出来るのですよ?』
「俺の復活など不要です」

 ライルの決意は変わらない。無謀ともいえる今回の戦いは、ティリアの命を救う為に始めたものだからだ。

 ライルの願いが叶えば、ティリアは健康を取り戻すだろう。ただし、蘇生魔法の使い手が蘇生魔法を使えるのは人生で一度きりだ。そしてティリアは、ライルに対して蘇生魔法を既に一度使用している。

『未練はないのですか?』
「……」

 未練はあった。泣き崩れるであろうティリアに何もしてやれないのが辛い。もしかしたらティリアは、悲しいだけの人生が長く続くかもしれない。それでもライルは、ティリアに生きてほしかった。

(ティリア様を癒してくれる者が、いつか必ず現れる)

 ライルが出会ってきた中で、ティリアは最も素晴らしい女性だからだ。いずれは相応しい男が現れ、傷付いたティリアの心を癒やしてくれるだろうと思えた。

(これでいい)

 ティリアが知らない男と寄り添う姿を想像すると胸が苦しくなるが、ライルは小さく首を振って自身の想いを断ち切った。

「お願いします」
「分かりました。貴方の願いを了承します」
「ありがとうございます」

 そしてティリアの魔力生成の暴走が収まった翌日、ライルの姿は白い部屋から忽然と消えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

処理中です...