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75話 決着
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「はぁ……はぁ……」
限界が近付いてきたライルの息は荒い。しかし4日間にも及ぶ死闘で、ようやく終わりが見えてきている。そんな時、
『……コロス』
(何だ?)
突如聞こえた重々しい声に、ライルは警戒心を強めた。
『ヴォァアアアアアアアアアア』
魔物達から一斉に声が発せられる。すると何かに吸い寄せられるように、魔物達が集まり始めた。
それを好機と見たライルは、魔法トラップの全展開を決める。
「エクスパンション!」
温存していた魔法トラップが一斉に起動した。
数多の魔法陣が地面や空中に現れ、そこから様々な魔法が発せられる。魔物達は槍で貫かれ、岩に圧し潰され、閃光に包まれ、氷で固められ、灼熱の炎で燃やされ、闘いは終わる――はずだった。
(笑っている?)
瘴気に包まれた黒い狼が、燃やされそうになりながらもライルを見ていた。その口の端は異様に吊り上がっている。
瘴気を得た魔物は、殺戮願望以外の意志を見せたりはしない。これはシーダ姫やアリサから教えられた事だ。だが黒い狼は、常識に反して笑っていた。
(おかしい)
魔物達は一致団結して、瘴気の壁を作って抗っている。まるで感情をもった集団として動いているようだった。そしてそんな瘴気の壁は、魔法トラップに対して絶大な効果があったらしい。
「あれを……耐え抜いたのか?」
魔法トラップを防ぎ切った魔物達は、黒い狼を目指して集まり始める。それらはやがて見えざる力で一つの流体となり、巨大な竜巻となって回転を始めた。
『コロス』
世界中の瘴気が集まったにも関わらず、何日経とうとティリアに近付く事さえ出来なかった。そういった異常な状況が長く続いた事により、瘴気に自我が芽生えたのだ。
「《威力増幅》」
最後の敵だと認識したライルは魔力の温存を止めた。
「《雷光の射手》」
左手に神々しい弓が、右手には光の矢が現れる。光の矢に内包されている魔力には、凄まじい殺傷力が込められていた。
ライルは光の矢をつがえて弓を弾き絞り、
「滅せよ!」
勇ましい声と共に矢を放った。雷光となった矢は瞬時に目標へと到達し、竜巻の中で弾ける――が、
『コロス』
「なっ!?」
何事もなかったように、黒い衝撃波がティリアへ向かって放たれる。
「ティリア様ぁあああああああ!」
ライルは防御魔法を己に掛けつつ飛び出す。光騎士やゴーレムもライルと共に盾となり、どうにか衝撃波を霧散させたが、
『コロス』
絶望的な状況だった。光騎士やゴーレムは消滅してしまっている。これ以上はもう防げない。
パンドラの箱に魔力を吸い上げられているライルは、ティリアから魔力を供給される形で魔法を使っている。
ティリアの魔力はライルの器に蓄えられるが、その魔力はもう使い切ってしまった。
(……ティリア様)
「貴女と会えて、俺は幸せでした」
ライルは魔導に関して天才だった。己の全生命力を魔力へと強制変換する術を知っている。
それを行えば、生成される魔力量が吸い上げられる魔力量を一時的に上回り、強力な魔法を使う事も出来るだろう。
「どうかお元気で」
覚悟を決めたライルは、自身の魔力生成を調整するリミッターを、禁忌の魔法で破壊した。
(ぐっ!)
かつてない程の魔力の奔流を感じ、身体の中であらゆる器官が悲鳴を上げる。残された時間が僅かだと悟ったライルは、一切の迷いなく印を切って、最後の魔法を唱えた。
「《深紅の殲滅炎》」
膨大な熱量をもった炎の柱が天を突く。瞬間――凄まじい衝撃波が巻き起こった。風が唸り空気が軋む。
世界を救う為に選ばれたライルが、全生命力と引き換えに得た魔力だ。その力に抗える存在などいなかった。
(ティリア様。お慕いしております)
ライルの意識は薄れゆく。同時に、この世界から瘴気が全て消滅した。
△
『ライル』
ベッドの上にいたライルは、呼び掛けに応えて目を開ける。ゆっくり身を起こすと、そこは白い空間だった。目の前には赤髪の美しき女が立っている。
「ここは?」
『神へと繋がる場です』
「神へと繋がる場?」
ライルは改めて目の前の女を見る。神に仕える者というよりは、神そのものと言って差し支えない神々しさだった。
「もしや貴女様は、女神様でございましょうか?」
「そう捉えてもらっても構いません」
「そうですか。座ったままで失礼いたしました」
ライルはベッドから降りて立ち上がると、女神に向かって恭しく頭を下げた。
『貴方の功績により、世界から瘴気が消え去りました』
「そうですか」
『大局的に見るならば成功と言えるでしょう』
女神は悲壮感を漂わせながらライルを見た。
『世界から瘴気を滅した者よ。貴方は褒章として何を望みますか?』
その問いに対して、ライルに迷いはなかった。
「女神様。どうかティリア様の命をお救いください」
『いいのですか? 貴方は自らの復活を望む事も出来るのですよ?』
「俺の復活など不要です」
ライルの決意は変わらない。無謀ともいえる今回の戦いは、ティリアの命を救う為に始めたものだからだ。
ライルの願いが叶えば、ティリアは健康を取り戻すだろう。ただし、蘇生魔法の使い手が蘇生魔法を使えるのは人生で一度きりだ。そしてティリアは、ライルに対して蘇生魔法を既に一度使用している。
『未練はないのですか?』
「……」
未練はあった。泣き崩れるであろうティリアに何もしてやれないのが辛い。もしかしたらティリアは、悲しいだけの人生が長く続くかもしれない。それでもライルは、ティリアに生きてほしかった。
(ティリア様を癒してくれる者が、いつか必ず現れる)
ライルが出会ってきた中で、ティリアは最も素晴らしい女性だからだ。いずれは相応しい男が現れ、傷付いたティリアの心を癒やしてくれるだろうと思えた。
(これでいい)
ティリアが知らない男と寄り添う姿を想像すると胸が苦しくなるが、ライルは小さく首を振って自身の想いを断ち切った。
「お願いします」
「分かりました。貴方の願いを了承します」
「ありがとうございます」
そしてティリアの魔力生成の暴走が収まった翌日、ライルの姿は白い部屋から忽然と消えた。
限界が近付いてきたライルの息は荒い。しかし4日間にも及ぶ死闘で、ようやく終わりが見えてきている。そんな時、
『……コロス』
(何だ?)
突如聞こえた重々しい声に、ライルは警戒心を強めた。
『ヴォァアアアアアアアアアア』
魔物達から一斉に声が発せられる。すると何かに吸い寄せられるように、魔物達が集まり始めた。
それを好機と見たライルは、魔法トラップの全展開を決める。
「エクスパンション!」
温存していた魔法トラップが一斉に起動した。
数多の魔法陣が地面や空中に現れ、そこから様々な魔法が発せられる。魔物達は槍で貫かれ、岩に圧し潰され、閃光に包まれ、氷で固められ、灼熱の炎で燃やされ、闘いは終わる――はずだった。
(笑っている?)
瘴気に包まれた黒い狼が、燃やされそうになりながらもライルを見ていた。その口の端は異様に吊り上がっている。
瘴気を得た魔物は、殺戮願望以外の意志を見せたりはしない。これはシーダ姫やアリサから教えられた事だ。だが黒い狼は、常識に反して笑っていた。
(おかしい)
魔物達は一致団結して、瘴気の壁を作って抗っている。まるで感情をもった集団として動いているようだった。そしてそんな瘴気の壁は、魔法トラップに対して絶大な効果があったらしい。
「あれを……耐え抜いたのか?」
魔法トラップを防ぎ切った魔物達は、黒い狼を目指して集まり始める。それらはやがて見えざる力で一つの流体となり、巨大な竜巻となって回転を始めた。
『コロス』
世界中の瘴気が集まったにも関わらず、何日経とうとティリアに近付く事さえ出来なかった。そういった異常な状況が長く続いた事により、瘴気に自我が芽生えたのだ。
「《威力増幅》」
最後の敵だと認識したライルは魔力の温存を止めた。
「《雷光の射手》」
左手に神々しい弓が、右手には光の矢が現れる。光の矢に内包されている魔力には、凄まじい殺傷力が込められていた。
ライルは光の矢をつがえて弓を弾き絞り、
「滅せよ!」
勇ましい声と共に矢を放った。雷光となった矢は瞬時に目標へと到達し、竜巻の中で弾ける――が、
『コロス』
「なっ!?」
何事もなかったように、黒い衝撃波がティリアへ向かって放たれる。
「ティリア様ぁあああああああ!」
ライルは防御魔法を己に掛けつつ飛び出す。光騎士やゴーレムもライルと共に盾となり、どうにか衝撃波を霧散させたが、
『コロス』
絶望的な状況だった。光騎士やゴーレムは消滅してしまっている。これ以上はもう防げない。
パンドラの箱に魔力を吸い上げられているライルは、ティリアから魔力を供給される形で魔法を使っている。
ティリアの魔力はライルの器に蓄えられるが、その魔力はもう使い切ってしまった。
(……ティリア様)
「貴女と会えて、俺は幸せでした」
ライルは魔導に関して天才だった。己の全生命力を魔力へと強制変換する術を知っている。
それを行えば、生成される魔力量が吸い上げられる魔力量を一時的に上回り、強力な魔法を使う事も出来るだろう。
「どうかお元気で」
覚悟を決めたライルは、自身の魔力生成を調整するリミッターを、禁忌の魔法で破壊した。
(ぐっ!)
かつてない程の魔力の奔流を感じ、身体の中であらゆる器官が悲鳴を上げる。残された時間が僅かだと悟ったライルは、一切の迷いなく印を切って、最後の魔法を唱えた。
「《深紅の殲滅炎》」
膨大な熱量をもった炎の柱が天を突く。瞬間――凄まじい衝撃波が巻き起こった。風が唸り空気が軋む。
世界を救う為に選ばれたライルが、全生命力と引き換えに得た魔力だ。その力に抗える存在などいなかった。
(ティリア様。お慕いしております)
ライルの意識は薄れゆく。同時に、この世界から瘴気が全て消滅した。
△
『ライル』
ベッドの上にいたライルは、呼び掛けに応えて目を開ける。ゆっくり身を起こすと、そこは白い空間だった。目の前には赤髪の美しき女が立っている。
「ここは?」
『神へと繋がる場です』
「神へと繋がる場?」
ライルは改めて目の前の女を見る。神に仕える者というよりは、神そのものと言って差し支えない神々しさだった。
「もしや貴女様は、女神様でございましょうか?」
「そう捉えてもらっても構いません」
「そうですか。座ったままで失礼いたしました」
ライルはベッドから降りて立ち上がると、女神に向かって恭しく頭を下げた。
『貴方の功績により、世界から瘴気が消え去りました』
「そうですか」
『大局的に見るならば成功と言えるでしょう』
女神は悲壮感を漂わせながらライルを見た。
『世界から瘴気を滅した者よ。貴方は褒章として何を望みますか?』
その問いに対して、ライルに迷いはなかった。
「女神様。どうかティリア様の命をお救いください」
『いいのですか? 貴方は自らの復活を望む事も出来るのですよ?』
「俺の復活など不要です」
ライルの決意は変わらない。無謀ともいえる今回の戦いは、ティリアの命を救う為に始めたものだからだ。
ライルの願いが叶えば、ティリアは健康を取り戻すだろう。ただし、蘇生魔法の使い手が蘇生魔法を使えるのは人生で一度きりだ。そしてティリアは、ライルに対して蘇生魔法を既に一度使用している。
『未練はないのですか?』
「……」
未練はあった。泣き崩れるであろうティリアに何もしてやれないのが辛い。もしかしたらティリアは、悲しいだけの人生が長く続くかもしれない。それでもライルは、ティリアに生きてほしかった。
(ティリア様を癒してくれる者が、いつか必ず現れる)
ライルが出会ってきた中で、ティリアは最も素晴らしい女性だからだ。いずれは相応しい男が現れ、傷付いたティリアの心を癒やしてくれるだろうと思えた。
(これでいい)
ティリアが知らない男と寄り添う姿を想像すると胸が苦しくなるが、ライルは小さく首を振って自身の想いを断ち切った。
「お願いします」
「分かりました。貴方の願いを了承します」
「ありがとうございます」
そしてティリアの魔力生成の暴走が収まった翌日、ライルの姿は白い部屋から忽然と消えた。
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