神獣ヤクザ ~もふもふ神獣に転生した世話焼きヤクザと純粋お嬢の異世界のんびり旅~

和成ソウイチ

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57話 本の力の編纂

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 目ぼしい本をファンマに抜き取ってもらい、異空間書庫を出る。ファンマは霊体だからなのか、それとも別に理由があるのか、両手一杯に本を抱えても平気な顔をしていた。

「もう戻ったのですか?」

 俺たちが書庫への出入口から姿を現したとき、レフテは館長席に座りながら驚いた表情を浮かべていた。俺は首を傾げる。
 実際に測ってないからわからないが、体感ではそれなりに時間は過ぎているはずだ。
 そのことを逆に問いかけると、レフテは言った。

「確かに、あの書庫は特殊な異空間。時間の流れが本来と違うことはあります。ただ、大図書館全体が休眠状態になった今では、その機能もほとんど失われていたと思っていました」

 レフテが俺たちのところまでやってくる。

「それはつまり、異空間書庫が本来の力を少し取り戻したということ。いったい、どうやったのですか? 神獣様」
「語り聞かせだよ」
「語り聞かせ……?」
『母様。ほんとう。神獣様、話したら変化起きた』

 相変わらずつたない口調で証言をするファンマ。しかし、レフテはそれで真実を悟ったようだ。
 俺は異空間書庫の出入口を振り返る。

「ここは俺とお嬢のアーカイブ。俺がこの姿になる前、お嬢に語り聞かせていた物語が本の形となって眠っているんだ。その証拠に、俺は異空間書庫の中で昔の懐かしい光景を見た。あれは俺が物語を創っていたときのことだ。言ってみれば、ここの本は俺とお嬢の合作みたいなもんだ」

 力強く断言する。
 そうでなければ、あんな不可思議な出来事は起こらないと俺は思っていた。
 そうだからこそ、この場所はお嬢の拠点に相応しいのだと思うようになっていた。

 俺の話にレフテは考える仕草をする。

「書庫にある本は、そのような語り聞かせ用の物語ではなかったように思うのですが」
「あ? じゃあ、俺が体験したあの光景は何だったんだよ。嘘だっつってんのか?」
「いえ、そうではなく。本の内容は別の記述がされていても、『本そのもの』は神獣様の力によってできたということは考えられるかもしれません」

 レフテは、ファンマが持っていた本の一冊を手に取る。

「アル・パストラ大図書館の本は、ただの文字や絵の連なりではありません。そこに特殊な力を秘めているからこそ、ここは聖女の聖地として存在できたのです。今でもそう。本の力を借り、あるいは抑えることで我々自身を存続させています。本を本たらしめている力の源が、神獣様なのかもしれません」

 よくわからん。
 要するに、俺がいなきゃ大図書館は存在すらしなかったということか?
 そうはいっても、俺がお嬢に読みきかせを始めたのは数年前からの話。こいつらやシーカが存在してきたという何百年も前からじゃない。
 そんなことができたら、マジで神獣を越えて神だろう。

 まあ、今は由来なんてどうでもいい。
 俺がやるべきこと、俺が望むことは、お嬢の『今』だ。
 お嬢がこの世界の旅を満喫するのに大図書館の力が必要なら、それを開放するだけだ。
 そのための方法が、『語り聞かせ』である。

「異空間書庫の中でもそうだったが、こっちにいるときも何度か見た。本は俺の物語に反応して、活性化する。それにともなってぐうたらだった奴らの目にも活が入った。だったら、この図書館全体の目が覚めるような話をどんどん考えて、語っていけばいい。それが、あの異空間書庫で俺がつかんだヒントだ」
「なるほど。でしたら、私にもお役に立てることがあるかもしれませんね」

 レフテはそう言うと、手に取った本を開く。
 手をかざすと、ページ表面に文字が浮かび上がり、それらが目まぐるしくシャッフルし始める。

「な、なんだこれは」
「本を『編纂』――調えているところです。正確には、本の内容ではなく、そこに込められた力の最適化です」

 ぱたん、と本を閉じるレフテ。
 彼女の手にかかった本は、心なしか存在感が増したような気がした。

「私を始めとした大図書館を統括する人間には、本の力を整えるスキルが備わっています。神獣様が物語として力を吹き込むのであれば、私はその吹き込まれた力が正しく反映されるように整えましょう。多くの本が本来の力を取り戻せば、また再び、大図書館で聖女の鍛錬を行うことができるでしょう」
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