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80話 大図書館の小さな家
しおりを挟む『ご主人、ご主人』
「今度は何だ、シーカ」
『抜けないです!』
「まったく……おいイティス」
舎弟を呼んで引き抜かせようとするが、上手くいかない。イティスが困ったように言った。
「どうしよう兄貴様。めっちゃがっちり食い込んでてホントに抜けない」
「おいおい」
『あわわ……! どうしましょう。このままじゃアタシ、永久にぶっ刺さったまま……! ご、ご主人! ここまでぶん投げたのご主人なんですから、責任とって下さいよ!』
「お前、さっきは俺のこと流石とか言ってたじゃねえか」
俺は呆れるものの、イティスで抜けなかったのなら難しい注文である。あれだけの成長を見せたイティスに剣の一本もないのは確かに痛い。
「人間形態に変身すればいいじゃねえか」
『無理なんですー! 何でか知らないけど、がっちりロックされているというか! いったい何なんですかこの空間ー!』
「俺が知るかよ」
『たぶんわかる』
半泣きのシーカに、ファンマがぽつりと呟いた。
『これ、母様のいた部屋の書庫と同じ』
「異空間書庫のことか。ああ、なるほど。それっぽいな」
『だったら、神獣様と一緒で何とかなるかも』
そう言うと、ファンマが俺をひょいと抱え上げた。まんまイッヌの扱いで少々不服である。
だが、こいつの言いたいことは理解した。
ファンマが俺を抱えたまま、聖剣の前に立つ。俺は聖剣の柄をくわえた。
「ちょっと我慢しろよ」
『うへへ。久々にご主人に使って貰える』
「ファンマ。別の方法を探そうか」
『わーっ。嘘、嘘です! お願いしますご主人』
喚くポン刀聖女を尻目に、ファンマは落ち着いて片手をかざした。
俺とタイミングを合わせ、力を注ぎ込んでいく。
ぱき……とガラスが割れるような音がした。
空間に走る亀裂。
それからはあっという間だった。
結界が破れ、何もなかった屋上空間に突如として木造一軒家が現れる。同時にシーカも自由になった。人間形態になって『ああ、よかった!』とか言いながら抱きついてきたので、俺は前脚でポン刀聖女を遠ざける。
「ファンマ。ここが何の施設か知ってるか?」
『知らない』
「封印されていたくらいだからなあ」
『あの、わんちゃん? 元館長の僕に聞くということはしないの?』
「おめえは知ってたらいの一番に自慢すんだろ。知ったかぶりするならどやすぞ」
『よくわかってる!』
ブロンテンを放置し、俺は木造小屋に近づく。耳をそばだて、気配を探る。どうやら中に人が居るような気配はない。
「イティス」
「わかった」
指示を受けて、イティスが慎重にドアノブに手をかける。扉は封印されておらず、すんなりと開いた。長い間封印されていた割には、立て付けが悪くなってない。まるで時間が止まっていたようだ。
ゆっくりと開かれた扉から、独特の香りが漂ってきた。これは……真新しい生地の匂い?
一歩踏み込んだ俺は思わず言葉を漏らす。
「な、なんじゃこりゃあ」
中でずらりと並んでいたのは――服であった。
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