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82話 守るしおりの本性
しおりを挟む俺も自分で何を言っているのかわからない。
わからないが――やはりこう言うしかない。
「でけぇしおりが……喋った?」
目の前に現れたソイツは、体長がおよそ2メートル。人間だった頃の俺よりデカイ。その代わり幅はスリムだ。
まるで精緻に織り込まれたカーペットのような表面。単に固い紙を切っただけのものとは違う、手の込んだしおりだ。
時々、書店や洒落た雑貨屋で、こんな見た目の手のひらサイズしおりを見たことがある。本好きとしてはエキゾチックで割とそそられるデザインだ。
頭(と呼んでいいのかわからないが、とにかく天辺部分)に長いリボンみたいなしおり紐が付いている。そいつが感情を表すみたいに、時々ひゅんひゅんと動いている。
何というか。非常に図書館らしいシュールな魔法生物である。魔法だよなコレ。
ふと、魔法しおりが語り出した。
『我はこの神聖な地を守るしおりである! ここはそなたたちのような薄汚い連中が立ち入って良い場所ではない! 立ち去れ!』
威厳のあるアルトボイス。こいつ、中身は女か。で、名前が『しおり』。……名前?
まあ確かに、ここに並んでるのは全部女性服だからな。ブロンテンみたいな野郎が管理してたら大変だ。
が、言い方は気に入らん。
言うに事欠いて、薄汚い連中だ? てめぇ、ウチのお嬢に向かって吐いていい言葉じゃねえぞコラ。
「あ? 今なんつったこのヒモ」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
苛立ちをぶつけたら、あっさり折れた。文字通り90度ぺこんと折れた。これも言行一致か。
しかも、俺たちが唖然としている間に凄まじい速さで飛翔し、天井近くの壁にくっついた。
え、お前それ、タペストリーに擬態したつもり?
しかも暴風にさらされる旗みたにブルブルバタバタ震えまくってるし。
何、お前ビビってんの?
「おい」
『ヒィッ!? ごめんなさいごめんなさい、しおちゃんは無害なしおりです許して下さい』
「ビビってるな……」
『こんな風に無害アピールをすればいずれ呆れて出ていってくれるだろうなんて思ってません、許して下さい!』
「ビビってる、のか?」
またアクの強い奴が現れたもんだ。今度は人ですらないが。
すると、イティスがファンマを手招きしてしおりの元へ。ブルブル震える奴の足(というかしおりの端っこ)をふたりで掴むと、ぎゅーっと下に引っ張った。
途端に悲鳴を上げるしおり。
『ひいいいっ! 我を千切ってもささいなしおりにしかなりませんよぉーっ!』
「いや、そんなにバタバタしてたらシワになって大変かなと思って」
『へ?』
『せっかく綺麗な見た目なのに、もったいない』
『あ、お気遣いどうも』
ぴたりとガクブルを止めるしおり。何だコイツ。
例によって、お嬢が皆を宥めた。
「もう。そんないきなり引っ張っちゃダメだよ。イティス、ファンマさん。しおちゃん?さんが可哀想だよ」
『おお。何とお優しいお言葉』
しおりの頭ヒモがぴょんぴょん左右に揺れる。顔がない分、感情はソコに表れるようだ。
ようやく落ち着いたしおりに、お嬢が尋ねた。
「しおちゃんさん。ここはいったい、どういうお部屋なの?」
『ここは聖女様の衣装部屋です。我はここに引きこもっ――守っている魔法生物です』
今引きこもってるって言ったか?
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