神獣ヤクザ ~もふもふ神獣に転生した世話焼きヤクザと純粋お嬢の異世界のんびり旅~

和成ソウイチ

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86話 ガバ判定にさせないために

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『ですが、どの服にするか選ぶだけなら問題ないでしょう』

 俺やお嬢の視線を気にしたのか、しおりのヤロウがそんなことを言い出した。お嬢をきっぱり切り捨てたのを気に病んでるのかもしれない。

 お嬢はしおちゃんの言葉があまり気になっていないようで、「どれがいいかな」と部屋の中を回り始めた。

「ヒスキさん、どれがいいかな?」
「お嬢ならどれでも似合いますよ」
「えへへ。こういうの初めてだから、すごく楽しい。こんな素敵な衣装が着られるのなら、頑張って力付けないとね」

 天使の微笑み、何というポジティブ思考。
 俺はしおりのヤロウに詰め寄った。

「おいコラ。こんな聖女らしい聖女のお嬢を見て、まだ実力不足なんてふざけたこと抜かしてんのか。おおん?」
『り、理由はさっき説明したじゃないですかぁ。下手に扱うと本当に危ないんですってば』
「チッ。ダメか」

 舌打ちする俺。
 すると、お嬢と一緒に服を見ていたイティスが声を上げた。

「しおちゃん。あたしはあっちの鎧が欲しいんだけど!」
『ああ、はい。どうぞ』
「ホント!? やったあ!」
「軽いなオイ!」

 お嬢と扱いの差は何だ。事と次第に寄っちゃあ、またしばくぞ。

 すると、しおちゃんはあっさり言った。

『あちらの鎧はあくまで護衛の方々用のものですので。確かに強い力を発するものもありますけど、聖女の衣装ほど資格は問いませんから』
「納得いかねえ……お嬢よりイティス優先だなんて。そんな世界、間違ってやがる」
「兄貴様。さすがにそれはひどくない?」

 イティスが頬を膨らませるが、当然のように俺は無視した。
 それから喜々として鎧が陳列された部屋に駆け込んだイティスだったが、すぐにスゴスゴと戻ってきた。

「サイズがない……」
『あらまあ』
「まあお子様には仕方ないわな」
「むううううっ!」
「諦めろ。年月には勝てん。いつかあの鎧がバッチリ着こなせるように修行を続けるんだな」

 不満そうなイティスだったが、やがて気を取り直してお嬢と一緒に服を選び始めた。
 ふたりがキャッキャしている様子を、変態二人がえびす顔で見守っている。まあ無害ならよし。

 それよりも――。

「おい、しおり」
『ななな、何でしょう? えと、神獣ヒスキ?』
「お前さっき、お嬢の力量判定をてめぇの身体で計ってたよな」
『はい。この身体は聖女の歌声を捉える繊細なものですので』
「ほう。……で? お前はいったい何年、ここにこもってた?」

 しおちゃんが『え?』と栞紐をくたっとさせる。
 俺は言った。

「何十年、ことによっちゃ何百年もここに籠もってたなら、お前の身体、めちゃめちゃ汚れてるんじゃねえのか? 埃とかでよ」
『う!?』
「そんな身体で、お嬢の力量を正確に測れるのか? ん?」

 俺が下から睨み上げながら言うと、しおちゃんはスルスルスルっと天井に登っていった。

 このヤロウ。逃げやがった。
 つーか、そんな天井に張り付いてる奴がばっちくないわけないだろ。

「洗濯すんぞ、栞! さっぱりしてから再判定だ!」

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