神獣ヤクザ ~もふもふ神獣に転生した世話焼きヤクザと純粋お嬢の異世界のんびり旅~

和成ソウイチ

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89話 しおちゃん洗濯

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 俺の号令一下、舎弟どもがしおちゃんに群がる。
 簀巻き状態のしおちゃんを水路に放り投げると、イティスとシーカとブロンテンがゴシゴシとやり始めた。
 お嬢も結構乗り気のようで、腕まくりをしてしおちゃんの丸洗い作業に手を貸している。

『あああああー』

 虚無の悲鳴を上げ続けるしおちゃん。
 うーむ。何か足りない。

『神獣様。これ』
「ん? もしかして石鹸か、これ」
『あっちに在庫があった。表面を削ったらまだ使えそう』
「でかした、ファンマ」

 さすが出来るメイドだ。
 ファンマから石鹸を受け取ったお嬢が、「じっとしててね」と言いながら石鹸を押しつける。

 すると途端に泡が溢れ出し、しおちゃんの身体を覆った。しおちゃんを取り囲んでいる舎弟たちも泡に包まれた。

「うわっぷ! ふふっ、皆泡まみれだ」
「あはははっ。何か楽しー!」
『本当ですね! 泡の中で戯れる美少女たちとその嬌声。天井高い石造りの部屋に反響して、こう、何とも言えない響きが。ハァハァ……』
『おおお。この光景、浄化されるっ』

 はしゃぐお嬢やイティスたち。どうかブロンテンはそのまま綺麗に浄化されてほしい。幽霊だし、お前。
 俺とファンマは、しおちゃん大洗濯の様子をのんびりと観察している。

 ふと、ファンマが踵を返した。

『タオル、探してくる』
「おう。気が利くな。頼むわ」
『ん』

 このままお嬢のメイドとして定着してくれねえかなと俺は思った。

 水路を見る。
 流れる泡は白く、綺麗だ。懸念していた汚れはさほど見られない。うーむ、しおちゃんの自己申告通りだったのか。

「……ん? 何だあの光」

 泡を乗せて流れる水。その色が微妙に変化していたのだ。汚れの色じゃない。油を垂らしたみたいな、虹色の光なのだ。
 これはお嬢のお肌によくないかもしれない。

「お嬢。そこは舎弟どもに任せて、お嬢はお上がりください」
「え? どうして? 私もしおちゃんさんの洗濯を手伝うよ」
「そいつの身体には、変なアブラが付いてるようです。お嬢の白い肌にダメージがあってはいけません。どうか避難を」
「兄貴様、あたしは?」
「身を挺するのが舎弟の役目だろうが」
『ていうか、これって油なんですか?』

 シーカが手を止めて水路を見る。虹色の光は、確かに汚くは見えない。まあ、しおりのヤロウの出汁だと考えるとすげえ嫌だが。

 俺はしおちゃんに言った。

「おい。お前の身体から出てくるアレはなんだ」
『ぶくぶくぶく……』
「ちっ。使えねえ栞だ」
「そろそろ引き上げた方がよくない? これもしかして溺れるんじゃ?」

 イティスの進言で、仕方なく俺は作業の手を止めさせる。
【カシワブラッド】で作ったツタを使い、ぞうきんのようにぎゅーっと絞る。『あああああ』と虚無の悲鳴が聞こえてきた。だが気にせず栞紐部分を引っ掴んでバンッバンッと振った。いい音がした。

 完全にグロッキーになったしおちゃんを天井から吊して乾かしていると、ファンマが戻ってきた。
 なぜか手ぶらだ。タオルを取りに行ったはずなのに、ファンマにしては珍しいチョンボ。

 すると、無表情メイドは言った。

『神獣様。ちょっと来て』
「どうした?」
『大変なことになってる』

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