聖女の死後は引き受けた ～転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる～

【３６】お帰りはあちらです

　――と、いうことで。
　城が来た。

「城が来た！！？？！？？」
「おつかれー」

　ディル君が手を振る、先。
　見上げるほど大きな城が、六本の足を使って器用に岩場を歩いてきた。

　もう一度言います。
　六本の足を使って。
　器用に岩場を歩いてきた。

「なんで！！？？」
「そりゃそういう機能があるからでしょう。主様の感情の昂ぶりに呼応して、力が蘇ったみたいですね」

　ずしーん。ばきゃーん。
　がらがら。ぐおおおん。

　――もう一度、言います。

「なんで！？」
「あ、あれは……伝説の大聖女の城」

　かれこれ十数分くらいは我を失っていた誘拐犯が、肩を震わせながらつぶやいた。
　私、このときばかりはあいつらに感謝した。おかげでバカみたいな動揺から立ち直る。
　やはり、私の家こそ彼らが狙っていたもの――！

「魔王の影響力を拡大させないため、あらゆる加護、機能を備えた、まさに神が聖女のために作った恐るべき遺物……！　なんと怖ろしい姿だ……！」

　ぎぎー……どしーん。

　――思わず誘拐犯の言葉にうなずきそうになった。

　狼形態のディル君に、背中をつつかれる。

「反論してあげてくださいよ。城君がかわいそうじゃないですか」

　どしん、どしん……ぎぎー。

「ああうん。ソウダネ。ワルグチハヨクナイネ」

　心なしか落ち込んだように思う足音を聞きながら、私は誘拐犯たちに向き直った。

　砂塵が舞う。チート城が間近まで来たため、一歩踏みしめるごとに風が吹く。振動が襲う。
　ついに太陽が、遮られる。
　誘拐犯たちの視線が皆、上に向く。城に向く。
　心を縛られたアムルちゃんだけが、光の失った目を私に向けている。

　ああ。もう、細かいことはいいや。

　身体が動く。
　一息でアムルちゃんまでの距離を詰めると、誘拐犯の拘束を振りほどいて、アムルちゃんを抱きしめる。
　それから、反転、ジャンプ。ディル君の隣に着地する。

「鮮やかです。主様」
「うん」

　アムルちゃんをディル君の背中に乗せ、私はもう一度、誘拐犯に向き直った。
　我ながら冷たい冷たい――微笑みを、浮かべる。

「ようこそ、我が家へ。お帰りはあちらです」

　――チート城が、足を振り上げた。