58 / 118
【58】う、うむ
しおりを挟む「まあ、私たちのような下々の者の名前など聖女様にはノイズでしかないですよね。失礼しました」
のんびりとした口調と微笑みで自虐するお父様。
え、本当に名乗らないおつもり?
いえ、失礼ではないのでぜひお名前を。
「左様ですか。それでは改めて、私は――」
「ははは! 細かいことはいいではないですか聖女様ーッ!」
「――妻もそう申しておりますので、どうか我らのことはお父様、お母様と」
あ、これ頭が上がらないパターンだ。
私は眉間を押さえた。
これさ。歓迎されてるの? ディスられてるの? どっち?
アムルちゃんが腕に抱きついた。
「お姉様、本当はお付きの方々も呼びたかったのですが、わたくしの力不足で申し訳ありません」
「お付きの……ああ、冒険者の人たちね」
「お母様のしゃてい? ですわ」
幼き少女の疑問形がことさら怖ろしい。
でも納得。
つまり、アムルちゃんの一家はお母様が前面に立ち、お父様が補佐をするという力関係なのだろう。いかつい見た目の冒険者さんはお母様繋がり、と。
……普段なにをしている方なのだろう、この人たち。
思い出した。
お付きの冒険者さんが言っていた。お嬢――アムルちゃんは由緒正しき教会の血筋だと。
「まったくうちの腰抜けどもはどいつもこいつも情けない。腕の一本や二本、頭の一つや二つどっかいったって死にはしないのにさ! どう思う夫よ」
「そうだね。聖女様は生け贄は望んでいなかったと思うな。あと、それだと生きてる人間の方が不可思議な存在だと言えるね妻よ」
「そっか。そりゃそうだ。あはは! 後で目一杯自慢話してやろう!」
由緒正しき。
教会の。
血筋――とは?
「さて、と」
ひとしきり笑って満足したのか、お母様が私を見た。
そして――優雅に、まるで万雷の拍手に応える舞台役者のように、礼をした。
「聖女カナデ様。このたびは我が娘をお救い頂き、誠にありがとうございました。我ら一族、そしてレギエーラの信心深き者たちを代表して、篤くお礼申し上げます」
言葉を失う私に、今度はお父様が腰を折る。
「貴女様に忠誠をお誓いするため、馳せ参じました。我らの命、どうかお好きにお使いくださいませ」
最後に、アムルちゃんが大人びた仕草でひざまずく。
「すべてはお姉様……聖女カナデ様の御心のままに」
ほんの数秒前まで。
騒ぎに騒ぎまくっていた彼らの変貌ぶりに、私はすっかり呑まれてしまって……。
思わず、応えてしまった。
「う、うむ」
――後ろでディル君が吹き出していた。おい、今の忘れないからな。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
神々の寵愛者って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる