聖女の死後は引き受けた ~転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる~

和成ソウイチ

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【88】思う存分ご活躍くださいませ

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 渋々、皆のところに戻る。
 カナディア様から賜った聖杖を見た皆は、案の上な反応を見せた。

「素晴らしいです、聖女様!」
「聖女様にぴったりですわ!」
「だー!」
「俺、今からワクワクしてきました!」

 とりあえずディル君だけ軽くつねる。
 ふんだ。少しは理不尽さを味わうといいわよ……ふんだ。

 ――重い気持ちを引きずりながら、レギエーラへと向かう。
 ヒビキを抱っこしているのが唯一の精神安定剤だ。

「そういえば主様。カナディア様から頂いた杖、自由に出し入れできるんですね」
「そうだね……これも神様の力なのかな。まあ、便利は便利だけどさ。あまり目立ちたくないし」
「何を仰いますか。せっかくカナディア様が期待してくださったのですよ。しっかり目立ちましょうよ」

 くっ……言わせておけば。

 ――その後、レギエーラに到着した私たちはそのままギルド本部へ向かった。

 ディル君によると、闘技大会の受付は本部で行っているらしい。
 レギエーラの一大イベントであることは間違いないらしく、街は熱気に包まれていた。ギルド本部前にも長蛇の列ができている。
 時間と空間が少々ねじ曲がっているように感じるのは私の気のせいだろうか。どこにいたんだよ、この人たち。

「おい……見ろよあれ」
「聖女様だ。噂の聖女様だぞ」
「何と神々しい。やはり、聖女様の銅像がすべての魔物を追い払っているという噂は本当だったようだ」
「おお……後ろには聖女様と同じお姿をした美人がいるぞ。そうか、これが本物の使徒か」
「今年の闘技大会は例年以上に厳かな、意味あるものになりそうね。無様な姿は見せられないわ」
「ありがたや、ありがたや」

 泣きたいです。

 噂には尾ひれが付くというけれど、皆好き勝手言ってくれてるね。
 今すぐ逃げ出したいよ。
 けど、皆の視線は間違いなく好意的なもので。
 今更、後には引けない感がすごい。

 ああ、カナディア様。
 私が望んだのは、こうした空気に敢然と立ち向かえる意思の強さだったのです。
 攻撃力的な意味じゃないんですよお……わかって。

「ほら主様。胸を張ってください。カラーズたちの方がしゃんとしてますよ」
「うう……」
「俺は主様の愉快な姿を見られれば何を言われても構いませんが、彼女たちの名誉は守るべきですよ。カラーズの主として」
「良いこと言ってる風に私の神経逆撫でするの、やめてくださる?」

 小声で文句を言いながら、ギルド本部の列に並ぼうとする。
 すると、集まった皆がさーっと列を分けた。
 どうぞどうぞと、皆して先へ行かせてくれる。
 私はディル君とカラーズを引き連れながら、傍目から見たら実に堂々とした陣容でギルド本部に入った。

「お姉様。ご苦労様ですわ」

 アムルちゃんがいつもの口調で出迎えてくれる。
 今の私には、それすらも有り難い。

「ディルお兄様からうかがいました。ヒビキちゃんも出場するとか」
「それなんだけどね……」
「わかっていますわ。さすがにわたくしよりも小さな子を、たったひとりで出場させるわけにはいきません」
「アムルちゃん……」
「今大会では特別に、団体戦を用意しました。ヒビキちゃんと共に、思う存分ご活躍くださいませ」
「Oh……」
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