聖女の死後は引き受けた ~転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる~

和成ソウイチ

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【90】その目標って

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「まあ……素敵なお姿ですわ。お姉様」

 アムルちゃんがうっとりした口調で褒めてくれる。

 ――私は、アムルちゃんの一家が用意したテントで、戦闘用の衣装に着替えていた。
 戦闘用と言っても、魔法使い用みたいな白いローブに、金色の刺繍を施した簡素なものだ。胸元に申し訳程度の金属鎧が着けられている。
 まあ、あまり派手派手しいのは遠慮したかったので、これはこれでいいかなと思う。何だか、女神カナディア様のイメージにも合うし。

 聞けば、この衣装はアムルちゃんたちが丹精込めて用意したものらしい。ディル君も魔力付与に協力していて、見た目よりもずっと防御性能は高い。ゲームでいう後衛キャラの最終装備みたいな奴だ。
 ディル君め。やっぱり私を闘技大会に放り込む気満々だったのね……。

「お姉様。さっそく試合が始まりますわ。まずは特別戦ですわよ」
「……え? いきなり?」

 私は面食らう。
 特別戦って名前だから、てっきり最終日の大トリに行うメインイベントだと思っていた。
 アムルちゃんはうなずく。

「特別戦は、この神聖なる大会の開始を告げるものであり、かつ最も重要な種目ですわ。大勢の戦士たちが全力をぶつけ合う。それはそれは壮観な戦いですの。参加者、観客が、この特別戦によって闘技大会の特別な空気に酔うのです」
「いや、でも。そんなすごい盛り上がるのを一番に持ってきて大丈夫なの?」
「お父様たちによると、特別戦を最終日にすると、それまでに消耗し傷付いた参加者が多くなって、いまいち盛り上がらないそうですの」

 まあ、一理あるっちゃああるけど……。
 何だか、参加者に優しくないスケジュールだね。

「それに、特別戦は儀式の側面もありますの。戦いの様子を神様に捧げる。それによって闘技大会そのものが神の儀式になる。お母様がウッキウキで話してくれましたわ」
「そ、そう」

 確かにお母様は楽しいだろうなあ、この話題……。

「それで、この特別戦には私とヒビキが一緒に出場するのよね」
「はい。少々変則的な集団戦――と考えていただければ」

 私はため息をつく。
 集団戦の一種……ってことは、ま、隅っこで目立たないように立ち回れば何とかなるかも。
 適当なところで脱落すれば、アムルちゃんたちも文句は言うまい。
 ヒビキを危ない目に遭わせるのは避けたいものね。

「ルールは、全参加者と主催者が選んだ代表者とのサバイバルバトルです」
「……ん?」
「皆がただひとつの目標のために結束し、挑みます。最終的に残ったひとり、あるいはひとグループが、わたくしたち神の遣いの言祝ぎを受けながら、再度、目標と一騎討ちする。神様の眷属となった古の戦士を模した形ですわ」
「ただひとつの、目標……」
「このルールから、特別戦を開催できる年はごく限られるのですが……今年は最高の闘技大会になりそうですわね!」
「はい質問」
「どうぞお姉様」
「その目標って、誰?」
「お姉様です」
「聞こえなかった。その目標って、誰?」
「お姉様です」
「聞こえなかった……その目標って……誰……?」

 駄目だ。目眩がしてごまかせない……!
 すると後ろから、私と色違いの衣装を着たカラーズたちがやってきて、整列した。
 皆の視線が、私に集まる。

 アムルちゃんが、にっこりゆったり死刑宣告した。

「お姉様です。さあ、行きましょう」
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