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【114】謎の感動に包まれた
しおりを挟む「魔王様はかつて暗黒龍の血を浴び、不死身の能力を得られたと聞いている」
すっかり打ち解けた様子で、埋まり人の長さんは話す。
部屋を出て、長閑な砂利道を散歩しながらだ。
ちなみに、彼らは移動時も埋まったまま。まるで顔だけ出して泳いでいるかのように、スイスイと進んでいく。障害物があろうとお構いなしだ。
意外に便利かもしれない。
そして大事なことを聞き逃したかもしれない。
アムルちゃんが驚く。
「あの者が、暗黒龍の血を? 失礼ですが、わたくしたちが見たときはそれほどの力があるとはとても……」
「うむ。不死身の能力と引き換えに、戦闘能力の多くを失ってしまったやもしれないな。詳しいことは私もわからぬが、聞くところでは、不死身になる前の魔王様は、濃い闇を好み、居城からお出になることがほとんどなかったとか」
それ何てニート。
パーさんのイメージとはぜんぜん合わない。
ヤバいな、暗黒龍の血。何が入ってるんだろう。
「暗黒龍の血を浴びて不死身になったのなら、むしろ主様とは相性が悪いのではないかと思うのだが」
ディル君が眉をひそめる。
根暗ニー……ごめんなさい、闇の権化だった上に暗黒龍の血を浴びたパーさん。
私は自分を聖女だとはなかなか思えないけれど、私が聖なる力の使い手で、パーさんは聖なる力にとても弱そうなことは想像できる。
それなのに、どうして私を求めるのか?
アムルちゃんが深刻な表情でつぶやく。
「もしかして……超が付く被虐趣味?」
「ヤだそれ」
げんなりした。
これまでを振り返ると、あながち間違いでもなさそうなことにさらにげんなりした。
せめてもうちょっとまともな理由があることを望みたい。
「主様。他人事みたいに考えてますが、奴の一番の目的はあなたですからね?」
私は頭を抱えた。
「まあ、ここまでの状況になっても奴を切り捨てないところが主様らしいのですが」
「そうですわね。もしかしたら、闇が深かったからこそ、お姉様の優しさに惹かれたのかもしれませんわ。まったくあの蛾が」
最後の一言が辛辣。
「とにかく、あの者をさらに知るには暗黒龍とやらがポイントになりそうですわね」
「え……もしかして行くの? 暗黒龍のところ」
「当然ですわ。お姉様の名を広める絶好の機会ですし」
ワクワクした様子のアムルちゃん。やはりメンタルが怪物級だ。
――とりあえず情報は得られたということで、私たちは城に戻ることにした。
巨大なチート城君の側まで来たとき。
「おや?」
なんか、城君が巨大な足をもぞもぞしている。
何かあったのかと見守る私たちの前で、チート城君が足を上げる。
城の重みでぼっこりとへこんだ地面の底に、見覚えのある男が仰向けになって埋まっていた。
おお……パーさん。なんでこんなところに……!
満足げな表情で、何かを成し遂げたようにサムズアップしている彼。
それを見た(どうやって?)埋まり人の長さんが、感極まった声を挙げた。
「おおっ! 我らと同じお姿を見せて下さるとは、感激です! 魔王パーレグズィギスゥトゥ様!」
「おおっ……!」
私とディル君とアムルちゃんも、謎の感動に包まれた。
「そういえばそういう名前だったね!」
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