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第11話 ラクターからのプレゼント

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 レオンさんの応急処置を済ませ、俺たちは一度、野盗の洞窟を出た。
 洞窟前に転がるごちゃごちゃした諸々を、俺は腕を組んで見つめた。
 改めて考えると、自分が監禁されていた場所に住むって、あまりいい気分じゃないよな。

「レオンさん。ここの洞窟で本当にいい? 何なら、もっと良さそうな別の場所を探すけど」
「いえ、そこまでしていただくわけには」

 首を振るレオンさん。遠慮なのか、楽園を創ることにまだ半信半疑なのか。
 まあ仕方ない。
【楽園創造者】の力は、どうやら世界で俺だけが持っているものらしい。
 見たことも聞いたこともない力なら、疑うのも無理はない。俺だって逆に立場ならそうする。

 けど、もう助けると決めたからな。
 少々面倒なことになろうとも、最後まで見届けるさ。

 レオンさんは辺りを見回した。

「この場所は水源も近いですし、街道までの道も険しくありません。しばらく行き来して、危険な動物や魔物に遭遇しませんでしたし」
「当然」

 リーニャが横から割り込んで、胸を張る。

「下等な魔物がリーニャたちの縄張りを荒らすの、ぜったい許さないから。皆で全部倒してた」
「はあ……」
「む。信じてない?」
「いえそんな!」

 慌てて否定するレオンさん。ま、これも無理ないか。パッと見、リーニャは可憐なケモ耳美少女だもんな。
 まさか野盗を瞬殺した上、あわや食っちまいそうになったなんて、すぐには信じられないだろう。

 とにかく、場所はここで決まり。あとは――。

「アルマディア」

 呼びかけると、すぐに『はい』と返事があった。

「確認だが、例えば一度【楽園創造者】の力で創った楽園に手を加えることはできるのか?」
『可能です。追加で新しいモノを創造したり、新たに力を加えたりできます。もちろん、一から楽園を創り直すことも問題ありません』
「よし」

 俺はうなずいた。

 楽園創造はイメージが大事。
 だが俺は建築の専門家じゃない。ましてや、研究者が暮らす家など理解の外だ。
 だからまずは、できるところからやる。
 レオンさんにとって、住みやすい場所にするのだ。

 ――楽園創造。

 俺の身体から神力があふれる。一晩ぐっすり休んだおかげか、今までで一番の力を実感した。
 洞窟周辺を、綺麗な円形光がすっぽりと包む。

 すると、みるみるうちに洞窟前の光景が変わっていった。椅子代わりに転がっていた石やら木柵やら不格好なかまどやらが、次々と光に飲まれて姿を消していく。
 凹凸が激しくぬかるんでいた地面は、綺麗な砂利道に。その両脇にはガーデニングが行き届いた、目に鮮やかな緑が。
 木製の扉で雑に蓋がされていた洞窟入り口は、まるで外国にある風変わりなホテルのようにお洒落な外観になった。そうそう、いつかネットで見たんだよ。こういう場所。
 ……ん?

「おおっ!?」

 レオンさんだけでなく、リーニャまで驚きの声をあげる。
 そして俺も。

「マジか」

 洞窟の上部。
 さっきまではただ土がこんもりと盛り上がった地形でしかなかったのに、そこに巨大な樹がにょきにょきと生えてきたのだ。
 まるで楽園の存在を誇示するかのように。

 あ、よく見たら枝になってる実、オルランシア族の聖地のものとよく似てる。
 そっか。あれが食べ物になるんだ。
 すげ。自分で創っておいてアレだが、これ一生街に出なくてよくない? 普通に最高なんだが。

 ――光が収まる。

「さて。レオンさん、中を確認してくれるか? 俺じゃ使い勝手がわからなくて――レオンさん?」

 口を開けたまま呆けている研究者の男を揺すって、我に返らせる。

「あの」

 信じられないという顔で、彼は言った。

「ここを本当に、僕たちの拠点として使ってよいので……?」
「ああ。ここは今日から、あんたたちの家だよ」

 レオンさん、また泣いた。

 しっかりした作りの玄関の前に立つ。
 突然、リーニャが扉に正拳突きをかました。

「お、おいこらリーニャ!?」
「頑丈。これなら外敵も安心。さすが主様」
「お、おう。だが次はやる前に声をかけてくれ」
「うにゃ」
『うふふっ』

 リーニャの一撃にもびくともしなかった扉を開け、中に入る。
 木の良い香りがふわりと漂う。

 正面に広いリビング、隣接してキッチン。その隣に風呂とトイレ。
 キッチンの反対側には合計三部屋。いわゆる三LDKだ。寝室と、子ども部屋と、書斎兼研究室ってトコか。
 窓がないのは唯一の欠点だが、通気口は設けているし、日々の暮らしには問題ないはずだ。
 普通に俺が住みたい。

「あ、しまった」

 三和土たたきで靴を脱ぎかけ、頭を抱える。
 しまったな、つい転生前の感覚で間取りをイメージしてしまった。この世界の人たち、屋内で靴を脱ぐ習慣なかったわ。

「ごめんレオンさん。ここの段差、また後で埋めるから……って、レオンさん?」
「こ、これはすごい……。いったい、どういう仕組みになっているのでしょう」

 言うなり、室内に駆け込むレオンさん。
 リビングで天を仰ぎ、

「天井に照明器具! これは魔法なのでしょうか!?」

 次いでキッチンで蛇口をおっかなびっくり操作し、

「水が出る! これも魔法なのですか!?」

 そして風呂場に行き、

「個人所有の浴場!? こ、ここは貴族の館ですか!?」

 と叫んだ。風呂場なのでちょっと声がこもってたね。

「ラクター君! 本当に、本当にここに住んでいいですか!? 僕には、何も払えるものがないのに……本当に!?」

 息切らして戻ってきたレオンさんに、俺は苦笑した。

「お代は結構。それが、俺自身で決めた力の使い方だからね」

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