追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ

文字の大きさ
13 / 77

第13話 〈side:勇者〉路地裏の出会い

しおりを挟む
 ――俺様は、勇者だ。
 勇者はミスなどしない。
 だから、アレは俺のせいじゃない。

「ああ、まったく。イライラする」

 俺は路地を歩きながら何度もつぶやいた。今はひとり。だから返事がくるわけはないのだが、それでも愚痴らずにはいられない。

 ダンジョンで、罠にはまった。
 ただそれだけの、些細なことだ。

 パーティが全滅したわけでも、目的が達成できなかったわけでもない。むしろ過去最速クラスで魔物をぶっ倒して帰ってきたくらいだ。
 だが、そんな些細なことにエリスもアリアも含み笑いをしていたことが気に入らない。
 これならさっさと新しい女性メンバーを入れればよかった。俺好みの、従順な女だ。なかなか出くわさない。王都もつまらない街になってきた。

 こんなとき、あの能なし野郎ラクターがいればちょっとは気晴らしできたのに。

「そうだ。あいつが悪い。俺は勇者で、あいつはスカウトだ。だったら俺が恥をかかないように、あらかじめ準備をしておくものだろうが」

 たとえ、追放された後であってもだ。
 それこそ勇者パーティだった者の忠義であり義務だろうに。
 今からでも連れ戻そうか――と、ふと思い浮かぶ。

「ハッ。何を馬鹿なことを考えている、スカル・フェイス。お前は勇者だろう。ラクターの奴は、あれで正解だったんだよ」

 ラクターが俺たちの力になっていたなど、絶対に認めない。

 それにしても、いらだちが消えない。酒場から裏路地に出たのは正解だった。人の多い目抜き通りを歩いていたなら、俺の愚痴を聞かれていたかもしれない。勇者たるこの俺が、追放した男の名前を口走るなんて、イメージに関わる。
 まったく、いなくなってからも俺をいらだたせやがって。

 ――ふと、別の路地から人影が出てきた。

 みすぼらしい平民服。ガタついた手押しの荷車。さえない中年のおっさんに小娘がひとり。引っ越しか。
 ご苦労なこった。俺なら一声かけるだけで何十人も動いてくれるだろうがな。貧乏人は大変だねえ。
 まあ、ガキはちょっと見所がありそうだ。薄汚れているが、じゅうぶんにかわいらしい。十年もすれば、そこそこ見れる女になるのではないか。

 ――奴らと目が合った。

「おい」

 俺は思わず、声をかけていた。

「今、俺を見て顔をしかめたな?」
「……」

 黙りやがった。おっさんの方は眉間にしわを寄せてる。
 ガキに目をやる。すると父親の背中に隠れた。

 おい、違うだろ。この街の、この国のガキたちは、俺を尊敬の目で見るべきだ。俺のようになりたいとな。

「なあ、おっさん。名前は?」
「……レオン・シオナードです。勇者スカル」

 へえ。

「ちゃんと俺の名前を言えるじゃないか。だがな」

 レオンとかいうおっさんの胸ぐらをつかむ。ひょろい。まったく相手にならない男だ。

「俺が勇者だとわかっているなら、それなりの敬意の表し方ってもんがあるんじゃないのか? なんだよ、その苦々しい表情は」
「……僕は、あなたに会いたくなかった。あなたの顔を見るのも嫌だったんだ」
「あ?」

 おいおい。おいおいおい。いま、こいつ何を言った?

 俺に会いたくなかった?
 顔を見るのも嫌だって?

 おいおいおいおい、おい!

 いや……ふぅ。まあ、落ち着け、俺。
 俺は勇者だ。そして今、いつもより気が立っている。
 こういうときこそ冷静に、寛容な心で接するのが勇者というものだ。

 そうだ。このガキ――いや、かわいらしいお嬢さんなら、その純粋な目で正しく俺を見るに違いない。
 俺は優しい声で言った。

「そこの可憐なお嬢さん。君からおっさ――お父上に教えてあげてくれないかい? 勇者スカル・フェイスにどう接するべきか」
「…………ヤ」

 俺は首をかしげる。声が小さすぎんだよガキ。
 おっさんの背中から顔を出したガキは、俺と目を合わせて、言った。

「わたし、あなたのこと、きらい」
「な……んだ……って?」
「きらい。こわい。イヤなひと」
「ほ……ほう。そうかい」

 そうなのかい。ふーん。
 ほーぉ。

 ふーん……! そうかい、そうかよ!

「!? 勇者スカル、何を!?」
「俺に恥をかかせやがってこのガキッ!!」

 聖剣の柄に手をかける。
 そのとき。

「おやめなさい!」

 凜とした声が路地に響き渡る。
 恥をかかされた怒りがそんなもんで収まるハズはない。
 ……が、俺の勇者としての本能が聖剣を鞘から抜き放つのをためらわせた。

 ゆっくりと振り返る。
 数歩先に、白いローブをすっぽりと被った女性が立っていた。その隣には、大きな白いオオカミがいる。

 あの獣。何より、あの声。間違いない。

「引きなさい、スカル・フェイス。罪もない一般人に剣を向けようとする、それでも勇者ですか」
「イリス……姫様」

 フードを目深に被ったままだから、表情は見えない。
 強い口調。だがしかし、姫殿下の手は自らのローブをぎゅっとつかみ、その手は震えていた。
 怯えている。
 俺はなぜか、その御姿を見て心地よく思った。

 御下命のとおりレオンを解放し、数歩下がってひざまずく。
 勇者として、主張はせねばなるまい。

「失礼いたしました。しかし姫、罪ということであれば、この者こそ『不敬』という罪を犯したのではないでしょうか? あなたもご覧になったでしょう」
「私はそのような罪を見ていません」
「そうですか。ところで、なぜこのようなところに? お忍びであれば、言ってくだされば喜んでお供したのですが」
「あなたには関係ありません」

 このわがまま娘め。

 イリス姫は大きく息を吸うと、さっきよりも声を張った。

「もうあなたと話すことはありません。下がりなさい」
「この者たちは、俺に恥を――」
「下がりなさい!」

 俺は唇をかんだ。

 ――かろうじて「失礼しました」と口にしたことは覚えている。
 だがその後、どうやって館まで戻ったかは覚えていなかった。


◆◇◆


 勇者スカルが立ち去ったのを見届け、イリスは大きく息を吐いた。

 まさかこんなところで彼に出くわすなんて……。

 イリスは、数日前の自分の決意を実行に移すため、王宮を抜け出したところだったのだ。

「あの」

 呼吸を整えていたイリスの元に、絡まれていた親娘おやこがやってきた。

「助けていただき、ありがとうございます。あなた様は、本物のイリス姫でいらっしゃいますか?」
「はい、そうです」

 疑うことなく素直に答えるところが、イリス・シス・ルマトゥーラが穢れなき白花と呼ばれる所以ゆえんだった。
 再び一礼した父親――レオンは、心配そうに声をかけた。

「勇者スカルの言葉ではありませんが……どうしてこのような場所に」
「人を、探しに行きたくて」
「姫様、御自おんみずら? それは、大変でございますね。どなたをお探しなのですか」

 深く事情を聞いてこないレオンに、信用が置けるとイリスは感じた。思い切って、たずねる。

「あの、あなたはラクター・パディントンという方をご存じないですか。北東に向かったと耳にしたのですが」
「姫様が、ラクター君を!?」
「ご存じなのですか!?」

 思わず前のめりになったイリスを、護衛のホワイトウルフ、パテルルがやんわりと押しとどめる。
 レオンは驚いた表情をしていたが、息を呑んで返答を待つイリス姫を見て、彼は表情を和らげた。

「姫様。どうかローブを被り直してください。そのままでは目立ってしまいます」
「あ……ごめんなさい」
「ラクター君はカリファの聖森林にいます。僕――いえ、私たちはこれからそこへ向かうのですが――共に行かれますか?」

 それは、イリス・シス・ルマトゥーラにとって天恵のような誘いだった。
 彼女は表情と声に喜びを爆発させて、うなずく。

「はい! ぜひ!」
 
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...