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第40話 国王の証
《ラクターさん。お元気ですか? 私は相変わらずなんとか元気です》
そんな書き出しで始まるイリス姫の手紙。
すっかり慣れてあまり違和感を覚えなくなったが、改めて考えると一国の姫君とこんなフランクなやり取りをするなんて、だいぶ畏れ多いよな。
『なにをおっしゃるのですか、ラクター様。今のあなた様はカリファ聖王国の立派な君主。むしろ格としてはあなた様の方が上とも言えます』
「『なにを言ってるのか』はお前だ、アルマディア」
手紙を読みながら呆れる俺。
――大神木の精霊ルウの立ち会いのもと、カリファ聖王国の王となって十日ほど。
要塞のような巨木――アルマディアは『王が住む植物の城』ということで『王樹』と名付けた――に生活の拠点を移し、ここからカリファ聖森林全体の保全に努めている。
アリアの結界魔法による森の枯渇問題は解決した。だが、まだ勇者パーティの爪痕はところどころに残っているようなのだ。
王の役目、というわけでもないが、俺は森の各地に飛んで【楽園創造者】や魔法を使い、森の完全復活を目指している。
そのおかげか、森には以前のように動物たちの姿を見るようになってきた。
……まあ、ちょっと辟易することがなくもない。
いつの間に話が伝わっていたのか、動物たちと会うたびに鳴き声の大合唱で迎えられたり、なんかよくわからない虫とか草とか持ってきたり、やたらとまとわりつかれたりする。
一番参ったのは、兎や鹿といった草食動物たちが数匹やってきて、焚き火の前に座ったことだ。
リーニャ曰く――『どうぞ食してください』ということらしい。
現地人ならいざ知らず、現代日本の常識が残っている俺にとっては空を仰ぎたくなる申し出だった。とりあえず、『楽園創造』で手に入る食べ物の実でなんとかなるから、と丁重に群れまでお帰り頂いた。
人間の俺から見てもすげーしょんぼりした後ろ姿だった。どうすりゃいいんだコレ。
――そんなこんなありながら。
俺は新しい王国での暮らしに馴染んでいった。姫様の言葉じゃないけど、『なんとか元気でやってます』だ。
「……ん?」
姫の手紙を読んでいた俺は、ふと眉をひそめた。
途中、大賢者アリアについて触れている箇所があったのだ。それも、かなりの分量で。
読み込んでいた俺は、来訪者にしばらく気づかなかった。
「ラクター君。ラクター君!」
「……ん、ああ。レオンさんか。悪い。集中してた」
「あたしもいるよー!」
「おお、いらっしゃい。アン」
抱きついてくるアンを受け止める。
もともと病弱だったという話だが、今ではすっかり元気だ。肌つやも血色もいいし、会うたびに子どもらしいパワフルさを全開で見せてくれる。
そのおかげで、アンが来るときは微妙にリーニャが距離を取っている。まるで親戚の子が遊びに来たときの家猫だ。
いじめたりしないから出てこいっつってるのに。むしろ生物的強さじゃリーニャの方が遙か上にいる。なにを恐れることがあるんだろうな。
「すっかりここでの暮らしに馴染んだようですね。大神木の大精霊に認められ、王となったと聞いたときは、またとんでもないことになったと心配したのですが」
「はは。王と言っても、動植物たちが良くしてくれてるだけさ。領民なんていないし。自称だよ、自称」
「それでは、僕が最初の領民というわけですね。鼻が高いです」
軽口に笑い合う。
それからレオンさんは、持ってきた荷物から布に覆われたなにかを取り出した。
「頼まれていたものです。貴重と表現するのもおこがましいほどの品でしたから、作業中ずっと手が震えましたよ……」
「無理言って済まなかった。報酬は――」
「いりませんよ。こうしてここに住まわせてもらっているだけでも、じゅうぶん過ぎます」
居心地が良すぎですから、ここ――とレオンさんは微笑む。
俺は布を取る。
美しい琥珀色の樹脂に包まれた『大神木の新花』が現れた。
王の証を雑に首から提げておくわけにはいかない――そう思って、レオンさんに相談したのだ。そうしたら、レオンさんが王樹内に保管できるように加工すると申し出てくれた。
いわゆる『レガリア』って奴だな。
琥珀に包むってところが、いかにも研究者畑のレオンさんらしい。まあ、事前にルウに意見を聞いていたようだが。人間と精霊の合作だな。
琥珀に閉じ込めたことで、美術品のように自立できるようになった。俺は大神木の新花をテーブル代わりの枝の上に置く。すると、枝がひとりでに形を変え、まるで宝を安置する台座のようになる。
「ラクター君。あと、これもお渡ししておきます」
そう言ってレオンさんがペンダントを差し出す。
同じく琥珀で薄く包んだ花びらが数枚、ペンダントトップに付けられている。
「大精霊ルウ様のお話だと、大神木の新花にはじーぴー……えっと、ラクター君の力を回復する効果があるそうで。常に身につけておく分として、作っておきました」
「それは助かる。ありがとう」
さっそく首にかける。初めて大神木の新花を身につけたときのような、『神力が繋がる感覚』がした。うん、問題ない。
ところで、とレオンさんがたずねてくる。
「その手紙、イリス姫様からですよね。いつになく険しい顔で読んでいましたが……なにかあったのですか?」
「ああ……」
俺は手紙に視線を落とす。
「どうやら、大賢者アリアが自分の地位や財産をすべて王国に返上し、姿を消したらしい。しかも、身体に呪いを抱えたままで、だ。その件で相談をしたいので、近いうちに俺の元を訪れたいと姫は言ってる」
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