69 / 77
第69話 王 VS 勇者 ⑤〈side:勇者〉
しおりを挟む――時は少し遡る。
「ひざまずけ! ラクター・パディント……ン……?」
なんだ。
なにが起こったんだ?
俺は正面を見た。忌々しいラクターの奴が姿を消している。それだけじゃない。アリアや、奴らの仲間たちが軒並みいなくなっている。
空いた手で、顔を押さえる。記憶を探る。
確か、そうだ。俺様はあいつをぶっ飛ばすために、全力で技を……それで視界が真っ白になって。
そっからの記憶が、ぶっつり途切れている。
歯ぎしりした。手にした聖剣が震えてカタカタ鳴る。
「あの野郎……! また邪魔しやがったな……!」
なにをしたかはわからない。だが、ラクターが力を使って俺を抑え込もうとしたのは予想できる。
俺を、一瞬で止められる力を。
あいつが。
「ちくしょうがっ!」
認めない。認められるわけがない。
あいつを知ってるだろ。ラクター・パディントンだぞ。俺が、この俺が追放した無能者だぞ。
それが、この俺のやろうとしていることを、こんなにも堂々と邪魔するなんて――!
青筋が浮かんでいるのが自分でもわかる。
俺は聖剣の鍔を額に当て、大きく深呼吸した。三回、息を吐いてようやく落ち着いてくる。
まあ、いい。奴のことは後回しだ。
今は俺の目的を果たそう。勇者としての使命の方が百倍大事だ。
――そこで、気がついた。
俺は、人々を脅かす強大な魔物を打ち倒した勇者となるために、ここに来た。
なのに……この静けさは一体、なんだ。
視線が、ゆっくりと上に向く。
瓦礫となった俺の館。
雄々しく立つ巨大なリビングアーマー。
それを包み込む、白い光の柱。
「封印、されている……!?」
この一帯は貴族どもの住処で、やたらと敷地の広い建物が並ぶ。
つまり、ゴミゴミした中心部よりも見晴らしが良い。
王都スクードのあちこちで、同じように光の柱が立っているのを見た。
俺がスライム状リビングアーマーを放った場所とだいたい一致している。どれも、これも。
――さらに重大な事実に気づいた。
俺は街を走った。
人の気配が消えている。路地からも、商店からも。
行きつけの酒場からも。
入り口扉の前には、白い塗料で雑に印が付けられていた。こんなときだけ、知識が蘇る。
これは、避難が終わったことを確認した証だ。
柱に拳を打ち付ける。
おい、嘘だろ。
この街から住人が消えてしまったら……俺の計画はどうなるんだ。
華々しく魔物を退治するところを皆に見せつけ、喝采を得るっていう、俺の完璧な計画は。
ぞくり、と背筋があわだった。
視線や気配を感じたからじゃない。
ここに誰もいないと肌で感じたからだ。
汗が噴き出てくる。おい、やめてくれよ。これで終わり? んなわけないじゃないか。なあ、おい。
まだ、俺は終わっちゃいないんだ。リビングアーマーどもだって無事なんだ。封印されちゃいるが、ちゃんとここに在るんだぜ?
誰か……どこか……俺がいることを証明できる場所は……。
顔を上げた。
街のどこからでも見えるところが、一カ所、ある。
「王城……」
そうだ王城だ。あそこなら、まだ誰か残っているのではないか。
そうだ、そうだよ。王道じゃないか。巨大な魔物たちに包囲される城。窮地に立つ姫君。そこへ颯爽と現れる救世主。
いける、いけるじゃんよ。はは、ははは……。
こうしちゃいられない。
「クソ忌々しい奴の封印なんざにハマってるんじゃねえぞ、デカブツども」
俺は聖剣を高々と掲げた。
ありったけの魔力と意志を込める。
「さあ動け! 俺の人形どもめ!」
放出。
波紋となって王都中に広がった魔力は、ラクターの光柱をブルブルと震わせた。
リビングアーマーどもが、動き出す。
光の柱を消滅させることはできなかったが、俺の人形どもの動きに押され、不自然に歪む。動き出す。
「はは……ざまあみろ」
個体によっては王城まで目と鼻の先の距離。
後は俺が城へ向かうだけだ。急がなければ。
駆け出そうとした俺は、足がとんでもなく重くなっていることに気づいた。
ちっ……魔力を使いすぎたか。
だが、構うものか。人形どもは俺の魔力の虜だ、どうとでもなる。
舞台に、たどり着きさえすればいい。
棒のような足を叱りつけながら王城へ向かう。
こんなに城が遠いと感じたのは初めてだった。
余計な感情が湧いてくる。
――もし、誰もいなかったら?
――もし、目的が果たせなかったら?
――もし、すべてが徒労に終わったとしたら?
「ありえねえ」
俺は勇者だ。スカル・フェイスだ。この俺が聖剣を持っている限り、すべては上手くいく。
それは当然の運命なんだ。誰にも邪魔できない。邪魔させない。
王城が見えてきた。
リビングアーマーどもより先に敷地に入る。
巨大な門扉をくぐる。
そして――俺は笑った。
「ほらみろ。いるじゃねえか」
中央階段の踊り場。
相変わらず美しい金髪と、むしゃぶりつきたくなるようなスタイルを持った美人が、俺を待っていた。
ルマトゥーラ王国王女、イリス・シス・ルマトゥーラ。
待っていたのだ。この俺を。勇者スカル・フェイスを!
それでこそ、責任ある王族の姿だ。
俺はその場で膝を突き、恭しく礼を取った――が、予想外に足に力が入らず、よろめく。抜き身の聖剣でバランスを取ったせいで、金属が床を打つ音がやたら高く、はっきりと響いた。
誤魔化せ。
「麗しきイリス姫。あなたの勇者、スカル・フェイスが参りました。この俺が来たからにはもうご安心ください。見事、王都を脅かす凶悪な魔物どもを退けてみせましょう」
すらすらと口上を述べ、剣を掲げる。
「この、聖なる剣と勇者の力で!」
どうだ、イリス・シス・ルマトゥーラ。
これでもお前は、ラクターを選ぶつもりか? 違うだろ?
お前が、お前たちが選ぶべきは、お前たちが見るべきは、この俺、勇者スカル・フェイス――。
「お黙りなさい」
「は?」
「あなたはもはや、勇者などではありません。私はあなたを勇者とは認めない。絶対に」
……は?
8
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる