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聖女様専用苦情受付係
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ヒースウッド家は、顔のいい人間が多い。当主のクラウスは渋い紳士という感じで、長男のニコラスは爽やかで甘い感じ、三男のロナウドは男らしく意志が強そうな感じに整っている。女性も、夫人は若い頃は求婚者が列をなしたという伝説があるほどだし、長女のミリアリアはその頃に生き写しと言われるほどの美人だ。
その中でパッとしないのが、二男のユリウスだ。ユリウスの母はヒースウッド家に勤めていたメイドだったが、クラウスが酔ったはずみか気まぐれかで手を付けてしまい、ユリウスを妊娠してしまったのだ。その後母親は追い出されそうになったが、母親の元の勤め先の娘が王妃で、母親の仕事ぶりを気に入っており、母親は第二夫人として、ユリウスは二男として、家に置いてもらえることになった。それで、母親の違うユリウスだけが、単独で見れば悪くはないが、ヒースウッド家の者と見ればパッとしない、冴えない顔立ちになったのだ。
その後母親は、「楯突いてはいけない、大人しくしていなさい、手に職をつけなさい」と口を酸っぱくしてユリウスに言い聞かせ、ユリウスが6歳の時に病気で亡くなった。
そうしてユリウスは、小さくなりながら、ヒースウッド家で成人まではと面倒を見てもらっているのである。
「はああ」
大きな溜め息をついたユリウスを、友人のセルジュが気遣った。
「大丈夫かい?何か疲れてそうだけど」
セルジュは隣国アラデルからの留学生だ。爽やかなハンサムで頭もよく、武術の腕もいい。それに優しいのでもてそうだが、「田舎から来た田舎貴族」という扱いで、「時限貴族」のユリウス共々、他に友人はいない。
まあ、ユリウスもセルジュも、お互い以外に親しくしたい生徒もいないし、2人でいる事に不都合はないので、これでいいかと呑気にしていた。
「ああ、セルジュ。おはよう」
「例のお客様?」
声を潜める。
そう。ユリウスの家に来る事になった聖女エミリだが、大変だった。
何せ異世界から来たのだ。当然文化や習慣が違うのはわかってはいた。
だが、「SNSがチェックできない」「テレビがない」「トイレが無理」「ドライヤーがないなんて」と文句の連発なのだ。
聞いた事もないそれらについて訊いてみると、「カデン」だという。
魔道具のようなものだと解釈した皆は、ヒースウッド家に
「何とかしろ。聖女様には快適に過ごしていただき、増える魔を押さえられるように早くなっていただかなくてはならないんだからな」
と命令し、ヒースウッド家の面々は、
「ユリウス、何とかしろ」
と命令した。
命令の孫請けだ。しかしユリウスは、ヒースウッド家の皆もわかっていないが、魔術の才能があった。それも、攻撃やら何やらではなく、魔道具の開発や魔式の解析と構築に特化していた。それと、錬金術の才能も。それで、母の教えに従って「魔道具職人」となるべく努力していたが、周囲は「多少便利な趣味」という認識であり、丁度いいとばかりに聖女の問題担当とされてしまったのである。
「そうなんだよ」
「今回は何だったの?」
「うん。レンジがないって」
「レンジ?」
「何か、箱に入れてボタンを押したら暖かくなるものらしいよ」
セルジュは想像してみた。
「凄いな、異世界は」
「ああ」
「で、できたのか?」
「どうにかね。熱と風で温めて、乾燥するから少し水も加えて。
でもそうしたらお皿まで熱くなって怒られたんだよ」
ユリウスはげっそりとし、セルジュは眉をハの字にした。
「それで、生物の細胞にだけ反応するように術式を付与したんだ。ああ、面倒だった。キッチンで温め直すとかじゃだめなの?」
言って、ユリウスは机の上に伸びた。
「お疲れ様。何だかんだ言って、そのリクエストに応えられるユリウスは凄いよ」
セルジュが思わず頭を撫でてそう言うが、その時には、徹夜明けのユリウスは、ウトウトとしていた。
(君が天才だって、どうしてわからないのかな、皆。不思議だよ。
まあ、君自身が気付いてないんだけどね)
セルジュは苦笑して、教師が来るまでは寝かせて置いてやろうと、静かに小説を開いた。
その中でパッとしないのが、二男のユリウスだ。ユリウスの母はヒースウッド家に勤めていたメイドだったが、クラウスが酔ったはずみか気まぐれかで手を付けてしまい、ユリウスを妊娠してしまったのだ。その後母親は追い出されそうになったが、母親の元の勤め先の娘が王妃で、母親の仕事ぶりを気に入っており、母親は第二夫人として、ユリウスは二男として、家に置いてもらえることになった。それで、母親の違うユリウスだけが、単独で見れば悪くはないが、ヒースウッド家の者と見ればパッとしない、冴えない顔立ちになったのだ。
その後母親は、「楯突いてはいけない、大人しくしていなさい、手に職をつけなさい」と口を酸っぱくしてユリウスに言い聞かせ、ユリウスが6歳の時に病気で亡くなった。
そうしてユリウスは、小さくなりながら、ヒースウッド家で成人まではと面倒を見てもらっているのである。
「はああ」
大きな溜め息をついたユリウスを、友人のセルジュが気遣った。
「大丈夫かい?何か疲れてそうだけど」
セルジュは隣国アラデルからの留学生だ。爽やかなハンサムで頭もよく、武術の腕もいい。それに優しいのでもてそうだが、「田舎から来た田舎貴族」という扱いで、「時限貴族」のユリウス共々、他に友人はいない。
まあ、ユリウスもセルジュも、お互い以外に親しくしたい生徒もいないし、2人でいる事に不都合はないので、これでいいかと呑気にしていた。
「ああ、セルジュ。おはよう」
「例のお客様?」
声を潜める。
そう。ユリウスの家に来る事になった聖女エミリだが、大変だった。
何せ異世界から来たのだ。当然文化や習慣が違うのはわかってはいた。
だが、「SNSがチェックできない」「テレビがない」「トイレが無理」「ドライヤーがないなんて」と文句の連発なのだ。
聞いた事もないそれらについて訊いてみると、「カデン」だという。
魔道具のようなものだと解釈した皆は、ヒースウッド家に
「何とかしろ。聖女様には快適に過ごしていただき、増える魔を押さえられるように早くなっていただかなくてはならないんだからな」
と命令し、ヒースウッド家の面々は、
「ユリウス、何とかしろ」
と命令した。
命令の孫請けだ。しかしユリウスは、ヒースウッド家の皆もわかっていないが、魔術の才能があった。それも、攻撃やら何やらではなく、魔道具の開発や魔式の解析と構築に特化していた。それと、錬金術の才能も。それで、母の教えに従って「魔道具職人」となるべく努力していたが、周囲は「多少便利な趣味」という認識であり、丁度いいとばかりに聖女の問題担当とされてしまったのである。
「そうなんだよ」
「今回は何だったの?」
「うん。レンジがないって」
「レンジ?」
「何か、箱に入れてボタンを押したら暖かくなるものらしいよ」
セルジュは想像してみた。
「凄いな、異世界は」
「ああ」
「で、できたのか?」
「どうにかね。熱と風で温めて、乾燥するから少し水も加えて。
でもそうしたらお皿まで熱くなって怒られたんだよ」
ユリウスはげっそりとし、セルジュは眉をハの字にした。
「それで、生物の細胞にだけ反応するように術式を付与したんだ。ああ、面倒だった。キッチンで温め直すとかじゃだめなの?」
言って、ユリウスは机の上に伸びた。
「お疲れ様。何だかんだ言って、そのリクエストに応えられるユリウスは凄いよ」
セルジュが思わず頭を撫でてそう言うが、その時には、徹夜明けのユリウスは、ウトウトとしていた。
(君が天才だって、どうしてわからないのかな、皆。不思議だよ。
まあ、君自身が気付いてないんだけどね)
セルジュは苦笑して、教師が来るまでは寝かせて置いてやろうと、静かに小説を開いた。
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