やっぱりねこになりたい

JUN

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事故

「太陽が黄色い」
 空を見上げてうつろに呟く。
 敷島悠理、30歳。この研究所に勤める研究者だ。祖母がロシア人というクウォーターの為顔はエキゾチックに整い、記憶力は抜群にいい。しかし、彼女はいない。忙しいからだと本人は言うが、知人達は違う意見を持つだろう。
 まあ、誰しも、自分より美人な彼氏などと歩きたくはないという事だ。それに、研究所が住居となり果てた男など、彼氏にしたいものか。
「日本では太陽は真っ赤っかって言うんだぞ」
 同僚が、死んだような目で栄養ドリンクを飲みながら言う。
「日本で太陽が黄色いのは、彼女とやり過ぎた朝だけらしい」
「覚えがないけど、知らないうちにやり過ぎたんだろうか」
「ないな」
「そうだな」
 この生活がどのくらい続いているのか、確かな記憶はない。だが、将来のエネルギー資源となるものを研究していると、それが大虐殺できるほどの不安定な物質だと判明し、どうにかそれを安定化させようと躍起になっているところだった。
 ふと、眼下の猫が目に入った。
 何とも呑気そうに欠伸をし、ひだまりで居眠りをしている。
「この前ぐっすりと布団で寝たのって、いつだっけ?ああ。猫が羨ましい」
 苦笑し、並んで栄養ドリンクを飲み干し、徹夜から、本日の通常業務に入る。
 この日もいつもと同じ、忙しく過ぎて、倒れるように深夜に仮眠するはずだった。
 しかし、それは起こった。
 新しいエネルギー源に経済的なシェアを奪われるのを恐れたある団体が、事故を装って物質を消去し、また、その惨事を理由に再び開発できないようにしようと画策したのだ。
 突然、避難訓練でもないのにサイレンが鳴り出し、それでも
「あれえ?何だろうなあ?」
と呑気に構えているうちに隔壁が閉まり、研究員達はやっと、大変な事態に陥っていると自覚した。
 が、自覚した時には、その物質が爆破されて撒き散らされそうな寸前になっていた。
「ヤバイ、ヤバイ!どうすんだよ!?」
「これが爆破されれば、不安定な状態のこの物質は撒き散らされて、日本の半分に大ダメージを与える惨事を引き起こすぞ」
 誰もが顔を引きつらせる。
「退避!退避してください!」
 ガードマンが言い、館内放送が今すぐ退去しろと繰り返す。
 しかし、悠理は制御盤に向かった。
「おい、敷島!?もうすぐここ、爆発するらしいぞ!?」
「行ってくれ!タンクのカバーがかからないから、手動でシャッターを閉めてから行く!」
「くそ!みんな、手分けするぞ!」
 本当は物質の入ったケースをどんな衝撃からも守られるケースで包んで守るはずなのに、犯人が全ての電源と回路をズタズタにしたせいで、動かなかったのだ。
 それで、今度は部屋を火災や衝撃から守るためのシャッターを下ろして、この部屋を安全ケースにしようという考えだ。
 手動で、シャッターを閉め、鍵をかける。そして急いで廊下に出て、最後の一枚、ドア部分のシャッターを下ろそうとした。
 だが、歪んでいて下ろせない。
「くそ!中から下ろすしかないか」
「何やってんだよ、どこの責任だよ、これは!始末書で済まんな!」
 悠理は中に入り、ドアの前のシャッターを下ろし始めた。
「おい!?」
「行け!」
 同僚が廊下から呼びかけるが、中にいないとロックがかからない。
「また黄色い太陽でも拝もうぜ」
「くそ!」
 閉まって行くシャッターの隙間から、走って行く同僚が見え、すぐに見えなくなった。
 ロックし、悠理は壁にもたれた。
「はあ。何て人生だよ。次はのんびりと、そうだなあ、猫になりたいな」
 クスリと朝方に見た猫を思い出した次の瞬間、爆発が起こり、方々が恐ろしく揺れるのとガラスケースが割れて中の化学物質が部屋中に飛散するのと体中が打ち付けられるのとがほぼ同時に起こり、敷島悠理は死んだ。

 そして、悠理は目を開け、上体を起こした。
「あれえ?何だここは。爆発で、俺は――」
「危ないぞ坊主!!」
「へ?」
 辺りを見回すと、見た事のない妙な生き物が自分目掛けて飛びかかって来るところだった。
「うおおおおお!?」
 物凄い音がして、熱い液体がかかり、
(あ、やっぱり俺、死んだ)
と悠理は思いながら気を失った。




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