やっぱりねこになりたい

JUN

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 押されて倒れていくのを、スローモーションのように悠理は感じていた。
 確かに前世でも美少女扱いされはした。勘違いした男から告白された事もあるし、男とわかっていて男に告白された事もあった。それでも、きちんと断ればわかってもらえたものだ。
(なのに何でだ!?ここが全寮制の閉じられた男子校だからか!?)
 血走った目を向けて来る彼らに呆然とし、次いで恐怖を感じ、それから怒りを感じた。
 積んでいたダンボール箱に当たり、1つが落下して来て破損した。
 それに「ヤバイ」という顔を一瞬だけ浮かべたが、彼らはそのまま、悠理に伸ばした手を引っ込めようとはしなかった。
 制服のシャツのボタンに指がかかり、すぐ近くで聞こえる息遣いが、妙に大きく感じられる。指が脇腹を撫で、鎖骨を辿り、鳥肌が立った。
 経験はなくとも、何をしようとしているのかは悠理にもわかる。
 怒りのせいか恐怖のせいか体がカッと熱くなったが、悠理は反射的に目を閉じた。
(くっそお!あの腐女神めええ!!)
 心の中で悪態をついた悠理だが、「ギャッ」という声の後、指も息遣いも遠のき、恐る恐る目を開けた。
「な、なんじゃこれは!?」
 目の前、視界いっぱいに広がるように、銀色の板のようなものが立っていた。
 いや、浮いていた。

 服部と沖川は、念の為に射撃場と武道場を覗き、やはりこちらかと武器制作室の方へ来た。
 制作室は鍵がかかっており、ノブを掴んだ沖川は苛立たし気に舌打ちをした。
「こっちだ」
 服部は準備室の方へ行く。
「材料の搬入があったから、開いているかも知れん」
 言いながらドアノブを掴み、回す。
「開いた!」
 言ってドアを開き、服部と沖川は中を覗き込んだ。
「敷――何だこれは!?」
 呆然とするように生徒4人が床に座り込んでおり、台車と、空のダンボール箱が転がっている。そして彼らの前には、ゼルカでできた大きな盾のようなものが浮かんでいた。
 準備室に飛び込んだ服部と沖川はそれらを見て、盾の向こう側を覗いた。
「敷島?」
 悠理はその盾を凝視していたが、服部がかけた声に、服部と沖川の方を見た。
 その途端、悠理の緊張感が切れたのか、盾はザアッと崩れて砂状になり、床の上に山を作った。
 それを全員で見つめた。
 最初に口を開いたのは服部だった。
「このゼルカを動かしたのは敷島か?」
 それで悠理は、その山に顔を近づけた。
「これがゼルカ!?本当に!?こんなに放り出しても安全なくらいに安定化してあるのか!」
 そして、粉の山を突き、少量を指に取ってじっくりと眺める。
「敷島、落ち着け。
 新しいおもちゃを見付けた猫か、こいつは」
 服部は嘆息し、沖川に言う。
「沖川、ゼルカを頼めるか」
「はい」
 沖川がゼルカ粉末の山を転がっている破損した箱の中に戻し入れるのを、悠理がじっと見ていた。
「素手!無造作に素手!」
「敷島、落ち着いて。シャツのボタンが外れてるぞ」
 沖川が言って、悠理は自分の恰好を思い出し、シャツのボタンをとめ、裾をズボンの中に押し込んだ。
 服部はそれに構わず、4人の方に向き直った。
「何があったか説明しろ」
 生徒達はギクリとしたように顔を強張らせ、しどろもどろに説明を始めた。
「その、突然盾が」
「そもそもなぜここにいる。それに至った経緯を訊いている」
 彼らはチラチラと視線をかわしていたが、
「敷島をここに連れ込んだ理由は」
と服部に訊かれ、俯いた。
「誤魔化せるわけがないだろう。チッ、面倒を起こしやがって。
 ずっと隙を窺ってたのか」
 それに1人が小さい声で答えた。
「花園が、放課後は大概個室で1人で調べものをしてるって。それに、今ならここが盲点になりそうって言ってたのを思い出して」
 それに服部と沖川が反応した。
「花園にそそのかされたのか?」
「いえ。雑談で、別々に。なあ」
「ああ。『悠理なら今個室に』って話をして、それから中学の時のサボリの話になって」
 彼らは言い、服部と沖川と悠理は気付いた。
(花園に誘導されたか)
 悠理はゼルカへの興味はひとまず置いて、小さくなっている彼らを見た。




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