やっぱりねこになりたい

JUN

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花火

 迎えの船で島へ戻ると、悠理達は急いで上へ上がった。
 そして、悠理と沖川は校舎へ走り込み、残りは教官室や寮の皆に聞こえるように触れて回る。
「花火を上げるぞ!皆出て来いよ!」
「急げ急げ急げ!」
 服部と原田は寮に戻っていたが、自衛隊の建物の方へも知らせが来て、ほかの勤務時間外の隊員が何だと外へ出たのにつられて、外に出た。
 と、寮の屋上で、家庭用の打ち上げ花火がまず上がった。
「おお」
 何発か、続く。
「誰だ?走り回ってたのは鬼束と黒岩と鈴木と西條とそのファンクラブだったな」
 原田が言うと、服部が嫌そうに眉をひそめた。
「だとしたら、あそこにいるのは敷島と沖川か?何かあるのか?」
「沖川がいるし、大丈夫だろ」
「まあ、な」
 と、高い所で、それまでより大きな花火が咲く。
「あれ、家庭用か?」
 服部は眉を寄せた。その時、服部の携帯電話が着信を知らせた。
「何だこんな時に」
 服部は言いながら一応は確認する。
 と、添島からのメールだった。
 どうしようかと思いながらも、開いてみる。
 目の前にあるのと同じものの写真がある。
「え?」
 そして、添えられたメッセージを読む。
「服部?」
「いや」
 服部は携帯電話をしまい、上を見上げた。

 悠理と沖川は、せっせと花火を上げていた。
 手持ちの花火を束にして、マグネシウム粉末をプラスし、火を点けて打ち上げる。中学時代に弓道を齧っていたという沖川が、ゼルカで即席で作った弓を使って打ち上げていた。
「沖川さんが協力してくれるとは思ってもみなかった」
 花火を手渡しながら悠理が言うのに、沖川は軽やかに笑いながら応えた。
「もう、一緒の夏祭りは過ごせないかもしれないしな」
 言って花火を上げるが、胸の奥がわずかに軋んだ。
「でも、怒られないかな」
「たぶん、怒られるな」
「あ、やっぱり」
 そして一緒に笑って、次の花火を上げる。
「あいつらは気付いてないだろうけど、服部先生だろ」
「そうですね。先生が行かなかったという事は、本当に振られたんだと思うけど」
「突然で行けなかったとかじゃないのか」
「いえ、大分前から知ってましたよ。原田先生とそう言っているのを、聞いてしまったんですよ」
 また、上空へ打ち上げる。
「まあ、常識的な大人の取るべき道ではあるな」
「そうですね。卒業してからなら、まあ良しかも知れないけど」
「その時は、死んでるかもしれない」
「……なら、花火を一緒に見るくらいの思い出が、あってもいいじゃないですか」
「俺達も、わからないぞ。死ぬ時に後悔はしたくないな、お互いに」 
 沖川は言い、考えた。
(言うのと言わないのと、どっちの方が後悔するだろうな、俺は)
 悠理も考えていた。
(死ななくても今年で卒業、来年はいないのか。
 はっ!?俺、何を危ない事を考えてるんだ!?これではまるで──まるで……好きみたいじゃないか。
 ない。ないな。だって相手は男だぞ。俺はこれでも30だし)
 最後の一つが、打ち上げられた。
 それは上空で次々に引火して燃え、色とりどりの火花を散らし、消えた。

「ゼルカを使ったと?」
「いやあ、ちょっと、借りました」
 服部と原田は、悠理達を前にして説教タイムとなっていた。
「沖川が付いていながら、どうしてだ」
「済みません。知り合った添島さんに共感してしまった部分はありますが、危険はそう無いと思いましたし、ゼルカを固める事無く一時的に使用できるのは知っていましたので、まあ、イメージを作るための練習用のゼルカを借りるくらいならいいかと」
 添島の名が出ると、大人達はトーンダウンする。添島と服部の事は知らなくとも、いつ死ぬかわからない子の破れた恋のために、と言われると、弱いのだろう。
「まあ、なあ。あのゼルカは訓練用として誰でも使っていい事にはなってたからなあ。でもなあ。それで花火を上げようと、誰が思う」
「流石は悠理、着眼点が違うな」
「褒めるな、西條!」
 神妙にしてはいるが、足元の袋からいい匂いがして、生徒達だけでなく全員が気もそぞろだった。
「まあ、今回は大目に見るか。ただし、火の粉の始末とか色々あるんだからな。ただでさえここには弾薬もあるんだから。今度からは、変わった事をする前に、報告しろ。いいな」
 それで悠理達は放免され、買い込んだ食べ物や飲み物を下げていそいそと悠理と均の部屋へ行った。
 服部と原田はそれを溜め息をついて見送り、そして、苦笑した。
「やれやれ」
 服部は言って、携帯電話を開いた。
 望遠で撮られた写真には、バチバチと火花を飛ばす花火の束と、燃えているマグネシウムの眩しい光が写っている。
 添えられたメッセージは、
『ありがとうございました。お元気で』
 ひょいと画面をのぞき込んだ原田は、
「ああ!ちゃっかり写真撮ってるじゃねえか!」
と騒ぐ。
「うるさいな。たまたまだよ」
 消去ボタンに手をかけ、しばし考え、やめた。
「これも思い出か」
 添島の面影が、脳裏をよぎった。









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