やっぱりねこになりたい

JUN

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悪魔

 それは、どこまでも無慈悲で、あまりにも強大だった。
 悪魔。
 この校区に出ていないのはたまたまで、いつ出てもおかしくないとは、誰もが思っていた。いつか出るんじゃないかとも、誰もが予想していた。
 それでも、悪魔のイメージは甘かったのか。それとも、本当にはわかっていなかったのか。
 いつものようにサイレンが鳴り、2年生は授業を中断すると即座に出動準備に入った。それ自体はもはや慣れている。素早く的確に準備をし、自衛官と共にホバークラフトへ乗る。
 ホバークラフトが本州側の港へ着くと、今度は素早く下りて行き、自衛隊の回していたトラックに分乗して行く。着替えの最中に、発生ポイントが港から7キロほど離れた市街地で、ホバークラフトを下りたところにトラックが回されていると説明がなされているのだ。
 これがもっと遠くだと、最初からヘリが回されて来る。
 すぐに現場に着き、素早くトラックを降りると、班毎に集まる。そして各班の班長と沖川、自衛隊側の現場指揮官が集まり、持ち場を決めて、班毎にその持ち場へ行く。
 それがいつもの手順だった。
 その日は、トラックが現場に着いた時点で、そこにいた自衛官の雰囲気が違っていた。
(何だ?)
 沖川は訝しみながらも、班長達と一緒に、指揮官と合流した。
「特技校、到着しました」
 快活で、厳しくも頼もしい指揮官が、沖川達を見ると、一瞬いつもとは違う表情を浮かべた。悲しみ、狼狽、心配、逡巡、祈り。何がその表情に当てはまるのか。ただ、いつもと違うという事に、沖川達は気付いた。
 指揮官はスッといつもの落ち着きを取り戻して、卓上の地図を示しながら口を開いた。
「ここからこの辺り一帯に眷属が確認された。数はおよそ300。いつもの、鎌を飛ばすタイプと、手を振り回すタイプだ。
 それとここに、悪魔が確認された」
 誰かが、
「え」
と小さい声を上げた。
「狼狽えるな。訓練通りにやればいい。ほかの校区では既に悪魔が出現していて、対処されている。同じ年の、同じだけの、同じ訓練を積んで来たやつらがだ。俺達の番、ただそれだけだ」
 沖川がそう声をかけ、班長達は落ち着いた。
 沖川は冷静な様子を見せながら、小さく震えようとする手を、握りしめた。

 いつも通りに2年生が戻って来る。
 だが、雰囲気はいつもとはまるで違った。疲れ切り、言葉を発する者は少なく、笑顔がない。沖川は硬い表情をしているし、西條も沈んだ表情をしている事に悠理は気付き、何があったのか気になった。
 だが、その理由は、訊く前に噂で知った。
「悪魔が出たらしいぞ!とうとうここにも、さっきの出動で!」
 教官室に用事で行った生徒が、興奮して帰って来ると、そう言って注目を集めた。
 悠理も、心臓の鼓動が跳ねあがるのを感じた。
「出たか!」
「で、どうだったんだよ!?」
 ワッと皆が周囲に集まる。
「たまたま先生同士が話してるのを聞いただけで、詳しく教えてもらったわけじゃないからな。
 でも、悪魔が1体出て、重軽傷者が出たとか言ってたぜ」
 それを聞いて、フッと誰もが黙った。
「まあ、死者が出なかったのはよかったな」
 辛うじて1人がそう言う。
(それで、おかしな雰囲気だったのか)
 悠理はさきほど見た沖川達の様子を思い出して、重い息を吐いた。
(でも、今回は無事だったからよかった)
「悪魔が出たって事は、俺達も眷属相手の実戦に、今年中に出るって事か?」
 どこかワクワクしたように鬼束が言うと、不安そうにする者と生き生きする者、見事に反応が分かれたが、マイナスな事などはとても口にできる雰囲気ではなかった。
 



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