35 / 42
沖川の苦悩
沖川のケガは、数針縫って、しばらくは動かさずにいれば大丈夫という事だった。
しかし山田の傷は深く、命には別状がないが、出血量はそこそこ多かった。2週間程入院して戻って来る事になりそうだ。山田は深く反省し、戻ったらしっかりと訓練すると言っている。
涌井は、訓練とは違って、眷属の数も多いし、隠れた所から飛び出したりするし、山田はおかしくなるしでパニックになったらしい。訓練をしっかりとして、何があっても動じないようにすると反省していた。
問題は、沖川だった。
傷ではない。精神的なものが、だ。
「俺はまた、守れなかった」
そう言って真っ青を通り越して白い顔をした沖川は、ケガの応急処置もせずに眷属を狩りに飛び出して行こうとしたので、班長が腕力で止め、医官が鎮静剤を投与して眠らせたのだ。
「責任感は強いのはわかってたけど、強すぎるよね」
均が首を傾げた。
「何か過去にあったのかな。誰かを目の前で亡くしたとか」
悠理は言いながら、まだ眠ったままの沖川を窺った。
「こいつ、あんまり話さないからな」
西條はそう言って小さく嘆息した。
そうしていると、医官が小声で声をかけた。
「しばらくは目を覚まさないと思うよ。君達も戻りなさい。夕食の時間だろう?」
それで保健室を出て、寮に戻った。
入浴と食事を済ませ、悠理は再度保健室へ行った。
天井の明るい電気は消され、小さい枕元の灯りだけが点いていた。
(まつ毛長いなあ。それに顔立ちも整ってる。将来モテそうだな。くそ。
でもこうしてると、しっかりしててもやっぱり子供だなあ)
悠理は沖川の顔を見ながら、そんな事を考えていた。
と、長いまつ毛が震え、ゆっくりと開いた。そしてぼんやりと天井を見上げていたが、ハッとしたように見開かれた。
「沖川さん。大丈夫ですか。痛みますか」
悠理はそっと声をかけた。
沖川は悠理の方を見、起き上がりかけたが、肩が痛んで顔をしかめてそのままベッドに落ちた。
「何針か縫いました。しばらくは動かさないようにとの事です」
「そうか。すまん」
「いいえ。
山田は病院に入院中で、半月ほどしたら戻ってきます。かなり反省しているそうですよ。
涌井も、突然想定外の事が起こってパニックになったらしくて。反省していました」
「そうか。山田は、命は助かったか。良かった」
沖川はほっと安堵したように言ったが、すぐに表情を引き締めた。
「でも、また俺は守れなかった。
想定外か。訓練の方法を考え直さないといけないか。
いや、班の組み方を1、2年生合同にするか――いや、悪魔が出た時、それだと組み直しが上手く行かないかもしれないな」
考えだす沖川に、悠理は話しかけた。
「沖川さん。何でもかんでも沖川さんが責任を背負う事は無いですし、守る事も無いですよ」
それに沖川は、キッとした目を悠理に向けた。
「いや、俺は守らないといけないんだ。そうだろう」
「それは、生徒会長だからですか。それで沖川さんは守られないんですか」
「俺はいいんだ。それが俺の役目だ」
「だったら、よし。俺が生徒会長に立候補しよう。決めた。それで沖川さんを一般の生徒にしよう。それで万事解決だ」
言い出した悠理に、沖川はポカンとし、次いで、笑ってゆっくりとベッドの上に座った。
「敷島が生徒会長になるとしても、それは今年度の終わり、来年だ」
「生徒会長は生徒のまとめ役、学兵のまとめ役ではあっても、守る役目ではないだろうが。沖川だって同じ子供だろう。本来はまだ大人に守られるはずの」
悠理は身を乗り出して、怒った。
「違う、俺が守らないと――」
「あんたにその呪いをかけたのはどこのどいつだ」
沖川は視線をさ迷わせ、笑おうとして失敗し、俯いた。
「俺達は、不本意ながら悪魔と戦えと言われてここへ来た。全員が、誰かを守るために来た。守るための力があるからってな。
助けあってもいいけど、一方的に守る必要はない」
悠理が言うと、沖川は反論しようと顔を上げる。
「でも、俺は――!」
「全てを守る事は不可能だ。神様じゃあるまいし」
沖川は悠理の目を覗き込んだまま、言葉を探すようにしていたが、見付からないのか、唇を引き結んで俯いた。
そのまましばらくじっとしていたが、口を開く。
「俺は、妹を殺したんだよ、敷島」
しかし山田の傷は深く、命には別状がないが、出血量はそこそこ多かった。2週間程入院して戻って来る事になりそうだ。山田は深く反省し、戻ったらしっかりと訓練すると言っている。
涌井は、訓練とは違って、眷属の数も多いし、隠れた所から飛び出したりするし、山田はおかしくなるしでパニックになったらしい。訓練をしっかりとして、何があっても動じないようにすると反省していた。
問題は、沖川だった。
傷ではない。精神的なものが、だ。
「俺はまた、守れなかった」
そう言って真っ青を通り越して白い顔をした沖川は、ケガの応急処置もせずに眷属を狩りに飛び出して行こうとしたので、班長が腕力で止め、医官が鎮静剤を投与して眠らせたのだ。
「責任感は強いのはわかってたけど、強すぎるよね」
均が首を傾げた。
「何か過去にあったのかな。誰かを目の前で亡くしたとか」
悠理は言いながら、まだ眠ったままの沖川を窺った。
「こいつ、あんまり話さないからな」
西條はそう言って小さく嘆息した。
そうしていると、医官が小声で声をかけた。
「しばらくは目を覚まさないと思うよ。君達も戻りなさい。夕食の時間だろう?」
それで保健室を出て、寮に戻った。
入浴と食事を済ませ、悠理は再度保健室へ行った。
天井の明るい電気は消され、小さい枕元の灯りだけが点いていた。
(まつ毛長いなあ。それに顔立ちも整ってる。将来モテそうだな。くそ。
でもこうしてると、しっかりしててもやっぱり子供だなあ)
悠理は沖川の顔を見ながら、そんな事を考えていた。
と、長いまつ毛が震え、ゆっくりと開いた。そしてぼんやりと天井を見上げていたが、ハッとしたように見開かれた。
「沖川さん。大丈夫ですか。痛みますか」
悠理はそっと声をかけた。
沖川は悠理の方を見、起き上がりかけたが、肩が痛んで顔をしかめてそのままベッドに落ちた。
「何針か縫いました。しばらくは動かさないようにとの事です」
「そうか。すまん」
「いいえ。
山田は病院に入院中で、半月ほどしたら戻ってきます。かなり反省しているそうですよ。
涌井も、突然想定外の事が起こってパニックになったらしくて。反省していました」
「そうか。山田は、命は助かったか。良かった」
沖川はほっと安堵したように言ったが、すぐに表情を引き締めた。
「でも、また俺は守れなかった。
想定外か。訓練の方法を考え直さないといけないか。
いや、班の組み方を1、2年生合同にするか――いや、悪魔が出た時、それだと組み直しが上手く行かないかもしれないな」
考えだす沖川に、悠理は話しかけた。
「沖川さん。何でもかんでも沖川さんが責任を背負う事は無いですし、守る事も無いですよ」
それに沖川は、キッとした目を悠理に向けた。
「いや、俺は守らないといけないんだ。そうだろう」
「それは、生徒会長だからですか。それで沖川さんは守られないんですか」
「俺はいいんだ。それが俺の役目だ」
「だったら、よし。俺が生徒会長に立候補しよう。決めた。それで沖川さんを一般の生徒にしよう。それで万事解決だ」
言い出した悠理に、沖川はポカンとし、次いで、笑ってゆっくりとベッドの上に座った。
「敷島が生徒会長になるとしても、それは今年度の終わり、来年だ」
「生徒会長は生徒のまとめ役、学兵のまとめ役ではあっても、守る役目ではないだろうが。沖川だって同じ子供だろう。本来はまだ大人に守られるはずの」
悠理は身を乗り出して、怒った。
「違う、俺が守らないと――」
「あんたにその呪いをかけたのはどこのどいつだ」
沖川は視線をさ迷わせ、笑おうとして失敗し、俯いた。
「俺達は、不本意ながら悪魔と戦えと言われてここへ来た。全員が、誰かを守るために来た。守るための力があるからってな。
助けあってもいいけど、一方的に守る必要はない」
悠理が言うと、沖川は反論しようと顔を上げる。
「でも、俺は――!」
「全てを守る事は不可能だ。神様じゃあるまいし」
沖川は悠理の目を覗き込んだまま、言葉を探すようにしていたが、見付からないのか、唇を引き結んで俯いた。
そのまましばらくじっとしていたが、口を開く。
「俺は、妹を殺したんだよ、敷島」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。