スパイラルダンス

JUN

文字の大きさ
36 / 42

双頭の狂犬

しおりを挟む
 大破。ここまでやられたのは、何だかんだ言って初めてだ。
「それにしても、よく生きてたな」
 俺は自分の事ながら不思議に思いつつ、その戦闘を思い返していた。

 外れの基地を襲撃し、エネルギーの供給にダメージを与えるように仕掛けに行く中で、それと遭遇した。
「ノウラ兄妹、双頭の狂犬です」
 先行させている観測カメラの画像を見て、オペレーターが言う。
 2機のほとんど同じドールが、仲良く並んでいた。カメラを見付け、こちらを探しているらしい。
 と、生き残っていたこのカメラを見付けたらしく、片方がナイフを振りかぶって、そこで映像は途切れた。
「見つかるのは時間の問題だな。仕掛けが済むまで、ドールで惹き付けて時間を稼げ」
 その命令を実行すべく、俺達は出撃となった。
『双子の貴種の他は、普通のが30程だ。落ち着いていけ』
「はい」
 ヒデに返事をし、編隊を組んで接近する。
 ケルベロスにしては頭が1つ足りない犬のマークを描いた2機のドールが、向こうからも近付いて来る。
 すれ違いざまに、一斉射。お互いに躱し、反転。俺は同時にビットを射出。向こうも同じだった。
 が、片方が出したのはたくさんのナイフ。もう片方が出したのは丸い球。
 ナイフが、こちらを目掛けて飛んで来る。
「おわっ」
 避けたら、球が漂って来て接触する。そして、爆発。
「機雷か」
 避けるのも気を使う。
『キャハハハハ!!』
 甲高い笑い声が聞こえて来た。
『遊んであげる!』
『すぐには壊れないでね、詰まんないから』
 そして2機は、俺の周りをグルグルと回るように飛びながら、ナイフや機雷を投げつけて来る。
 ナイフを避けないとまずいが、避けたら機雷に当たる。
「ああ、もうっ」
 機雷に当たるのを前提に、とにかく包囲を抜け出す事にした。
 なるべく数の少ないルートを辿って、派手に爆発をまとって飛び出す。
 真理もユウも、こちらには来られない。ヒデも遠い。自分で何とかしないといけないようだ。高速でブンブンと周囲を飛び回る2機をかわしながら、飛んで来るナイフをビットで叩き落す。
 それでも対処に困るのは、地雷だ。
 ビットで迎撃すれば爆発するし、避け続けるには、数が多くて密度が高い。
 大きな損傷はないものの、少しずつ小さな損傷が増えて行く。
『ねえねえ、どうして家畜と一緒にいるの?』
『親とかも皆隷民なんでしょ?』
 うるさいな。蠅か、お前ら。
『ねえねえ。どうして?』
『ねえねえ。なんで?』
 2機はしつこくつきまとい、グルグルと周りを回って、3機で絡まり合うように飛び回る。
「しつこいなあ、もう!」
 加速し、隙を伺い、狙い、避け、爆破される。
 遅い!もっと早く!
『ぼくらとこんなに鬼ごっこが続いたやつ、初めてだね』
『生意気だね』
『まとめてやっちゃう?』
『そうだね。ちまちま狙って当たらないから、仕方ないもんね』
『仕方ない、仕方ない』
『どうせ一般人だろ。別にいいって』
 何をするつもりだ、こいつら。
 スピードを緩めた2機に警戒しながら、距離を取って構える。
 2機はダンスでも踊るように両手を合わせ、そして、2機の間から光の奔流が迸ったーー。

 半径数百メートル以上に扇形に巻き散らかされた爆弾は、敵も味方も区別なくズタズタにした。
 俺がとどめを刺されなかったのは、もう死んでいると思われたからだろうか。別動隊の仕掛けが上手く行って2機も呼び戻されて姿を消し、急に正規軍が減ったのも、彼らのこの攻撃が味方を盛大に巻き込んだせいだ。
 良かったのか、悪かったのか・・・。
「味方も巻き込んで平気って、恐ろしい奴らだな。流石、犯罪者と紙一重だ」
 溜め息をついて頬杖をつき、うっかり傷に触って手を離す。
「しかし、まあ、よく生きてたなあ」
 俺達は皆で戦闘データを検討していたのだが、ユウがしみじみと言った。
「今度またこの双子に会ったら、どうしたもんでしょうかねえ」
「必ず編隊で行動する事かな」
 ヒデが言う。
「それでもこの地雷みたいなやつ、範囲が広いし、逃げられへんのちゃうか」
 タカが言って、皆で考え込んだ。
「まあとにかく、無事で良かった。砌はフェアリーの大幅改造が済むまで、別の機体に乗っていてくれ。時間はそんなにかからずに仕上げるらしい」
「お急ぎ仕上げ?」
 明彦が心配そうに眉を寄せる。
「心配するな。急いでも手抜きは無い。却ってまるっと取り換えで、修理より早いらしい。それと、この機に、思い切ってフレイラの技術を組み込めると、いいテンションらしいぞ、氷川一尉と雨宮一尉」
「・・・ああ、目に浮かぶような・・・」
 全員、心配そうな顔になった。
「まあ、がんばれ」
「え!?」
 不安しか感じなかった・・・。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...