スパイラルダンス

JUN

文字の大きさ
37 / 42

混線

しおりを挟む
 フレイラ本星に意外と近い所にあるデブリの中にも、監視のためのカメラやセンサーが仕掛けてあるらしい。その1つのソーラーパネルが破損したので取り換えるのが、今回の任務だ。
 ばれないように、そうっと、こっそりとだ。
 そこそこの所までデブリに紛れて近付き、そこから宇宙遊泳だ。恐ろしいような、楽しいような。
 フェアリーが修理中なので、仕事が減った俺が、志願した。そちらのスタッフがフェアリーの改修に忙しいようなので、申し訳ないというのが半分だ。
 工具箱を下げて、ふわあっとそれに近付くーーとは言っても、かなりの距離だ。走れたら早いのに。
 無事に取り付いてそれを見ると、ソーラーパネルが割れていた。なので、パネルを外し、新しいパネルと交換して、スイッチを入れる。
「もしもーし。砌です」
 ザザッと音がして、女の子の声がした。
『まあ!どこかとつながったわ!』
 誰だろう。革命軍の応答ではない。
 下を見る。フレイラのアマチュア無線家だろうか。
『ミギリさんと仰るのかしら』
 慌てて、技術スタッフのムーロさんが相手をする。
「え?ええっと、はい、まあ。あの、そちらは?」
『レイと呼んで下さる?』
 この喋り方、いいとこの子かな?
「レイさんね」
『兄もいますのよ。兄はアルですわ』
「アルさん」
 レイとアル。あれ?聞いた事があるセットだな。
『お兄様。どこかのミギリさんとつながりましてよ』
『へえ。上手くいったな。こんにちは。アルです』
「あ、どうも。ミギリです。お2人は学生さんですか」
『ええっと、まあ・・・。
 ミギリさんもそうですか』
「そうですよ」
『無線を組み立ててみたんだけど、こんなに上手く行くなんてなあ』
 切り上げるタイミングを掴めないまま、俺達はこの兄妹と話を続けた。俺は時々ムーロさんに返事を囁きかけ、それをムーロさんがフレイラの言葉で喋るのだ。
『今何をしてらしたの?』
 修理ですけど。
「星を見ていました」
 嘘でもない。
『では、カテリオの方かしら。この前はエネルギー供給ラインが途切れて大変だったでしょう。ああ、今も復旧はまだなのね。ごめんなさい』
「いえ、そんな」
『争いなんて、やめればいいのに。そう思わない?』
『レイ』
『だって、ばからしいわ。昔みたいに戦ってるわけでもないんだから、皆平等でいいじゃない。戦いが得意な人も勉強が得意な人もいていい筈。ましてや地球人なんて、もう完全に別の星の人だわ』
 ほお。
『それは・・・王が決める事だし、遺伝子尊重はフレイラの伝統だよ。
 それに、いきなり平等にと言っても、実質的には新しい格差ができるだけだ。なら、今の方がまだましだろう』
「まし」
『ああ。食料も住居も仕事も、能力にあったものを、均等な給料を与えられている』
「それは、一般人の話ですよね」
『・・・ミギリさん、君・・・』
「ああ、すいません。ちょっと議論を吹っかけてみただけです。聞きかじったばかりで」
『あら。私はその意見に賛成でしてよ。隷民を国民に入れていないじゃない、いつも。おかしいわ』
 訊いてみようか。
「本当の所、どうなんでしょうねえ。このままずっと、遺伝子で人の価値を決めるやり方で行くのかな。貴種も減っていってる現状とか、どうなんでしょうねえ」
 しばらく無言が続いた。
『わたしは、波風を立てずに、このままがいいと思う』
『お兄様。私は、変革を求めますわ』
『急な変革は、混乱しか招かない』
『あら。ではいつ変革を?この戦争をやめる時、それがいいタイミングではないかしら』
 兄妹が睨み合っているのが目に浮かぶ。
『はあ。レイ、そろそろ時間だ。先生がいらっしゃる時間だ。それにミギリさんも、もう遅い』
「はい。では、おやすみなさい」
『おやすみ』
 無線を切ったらしい音がして、俺はもう一度足元のフレイラ本星を見た。
「使えるかな、これ」
 俺達ははやる気持ちを押さえつつ、小型機に向かった。

 革命軍でもこのやり取りを傍受していて、上の方が寄り集まって会議をしていた。
 レイ王女とアル王子で間違いないらしい。そして、レイ王女を王位につければ、こちらに都合がいい。そういう話し合いだろう。
「いやあ、面白い事になったなあ」
「終戦が見えて来たのか?」
「そこまでは、まだだよう」
 イチゴ味噌汁抹茶を飲みながら、俺達も話していた。
「取り敢えずは、あの双子だろ。どうせまた来る。適当に出て相手しとかないと、虱潰しに探し回って、この基地がばれたらやばい」
「ああ、ありそうだねえ」
「作戦、決まったのか、砌」
「いや・・・」
 俺は、深々と溜め息をついた。

 フェアリーの改修が終わった。
 見かけはそこまで変わっていないが、やはり色々と違う。地球とフレイラのハイブリットというやつだ。
「この前はごめんな。今度はあんなにやられないように、気を付けるからな」
 フェアリーに申し訳なくて、謝ってしまう。全てに神が宿ると考える日本人としては、そうおかしくもないと思うし、周りにも普通にいたが、フレイラ人にはおかしい事なのか、微笑ましい物を見るような目で見られた。
「砌、何やってるんだ?」
 ドエルが訊いて来たので、教えてやる。
「万物に魂が宿るんだぞ」
「魂が・・・え、呪術兵器か!?」
 腰が引けている。
 面白いのでそうだと言っておこうかとも思ったが、それはそれで問題が起こりそうな気がする。
「そういう意味じゃなくてだな、ええっと、そのくらい大事に何でも扱って、全てに感謝しろという考えだ」
 たぶん。
「ふうん」
「大事に扱え。お前らの命を預ける相棒だからな」
 氷川さんと雨宮さんが、背後に現れた。
「はい。ありがとうございました。
 お疲れみたいですね」
「ふはは。徹夜の3日くらいどうって事は無い」
「楽しかった」
「まだまだやれそうな気がする」
「気のせいです。休んで下さい」
 2人はゾンビのような足取りで、笑いながら去って行った。
「急いでしてくれたんだな、皆。ありがたい。
 いやあ。ますます、負けられないな。あの狂犬コンビ」
 作戦が頭の中で、形になりつつあった。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...