38 / 42
ケルベロスにはほど遠い
しおりを挟む
予想通り、あの双子は、この前の宙域でウロウロとしていた。
「いたぞ」
『誰も止めたりしないのかなあ』
『狂犬だもんな』
「いっそクラシカルに果たし状を送りつけたら喜ばれそうだな」
苦笑して、では作戦開始とばかりに飛び込んでいく。
「また会ったな」
『あ、来た!』
『この前は邪魔が入ったし、エネルギーも切れたから仕方なく帰ったけど、今日は最後まで遊ぶよ!』
「遊ぶ、ねえ」
そして唐突に、鬼ごっこが始まる。
スピードが増した。そして、今までは付いていたリミッターを外し、反応速度が跳ね上がった。ショックアブソーバーと、加速への耐性を上げる薬物を摂取したせいだ。元々フェアリーはパイロットの安全を考慮しない、天井知らずの反応速度が特徴だ。ヒトという柔らかで脆い弱点を克服出来た、これが本来のスペックと言ってもいいだろう。
『何か違う!』
『改造!?』
『カッコいい!』
『面白い!』
どんどんおかしなテンションになって行くようだが、それに比例して、彼らの攻撃も冴えて行く。
そしてこちらもそれに応じる。
他のドールがやり合うのを横目に、飛び回る。
真理や明彦達は、余計な奴らが来ないように、他の奴らを片付けてくれている。
ナイフも機雷も、この速さなら避けられる。ビットの攻撃も当てられる。
『当たらない!』
『クソッ、何で!?』
次第にイライラして来たようだ。
「ははははは!」
『腹が立つぅ』
『完全に仕留めるからな!』
「鬼さんこちら」
距離を開け、おちょくるように、先行して小惑星の向こうに回り込む。
おあつらえ向きに彼らの正面には穴があり、その向こうに俺は先回りしている。
『近道で追いつくよ!』
『見てろよ、バーカ!』
2機は、小惑星の中をくり抜いたトンネルに入った。
そして、ピタリと止まる。穴を出た先に、俺が通せんぼするかの如くいるからな。
『終わりだ、バーカ』
『こんな細いトンネルでも平気だもんね!』
「なあ。そのマークって何?」
『え?』
「地球にはケルベロスっていう、神話上の強い生き物がいてな。頭が3つある犬なんだ」
『?』
「ケルベロスよりも頭が足りないな。バカはお前らだろ」
『なんだと!?』
2機はトンネル内で、各々、ナイフと機雷を操ろうとしたが、狭くて上手く行かない事に気付いた。それで、ライフルを構え、撃った。
『ギャアア!?』
『何で!?』
トンネル内は大爆発を起こし、元固形燃料採掘のための小惑星ごと見事に吹き飛んだ。
「だから、頭が足りないって言ったんだよ。ガスが溜まってる事くらい予測しろよ。それが何の廃棄小惑星か、自分の庭ならわかるだろうに」
ノウラ兄妹がやられたのはすぐに知れたらしく、正規軍は撤退して行った。
あすかに戻って、くせになったイチゴ味噌汁抹茶を一杯飲む。
「はああ。でも、ずる賢いって言うか」
「作戦勝ちと言え」
「トンネルに来なかったらどうしたのぉ?」
「小惑星の陰から出た所をやれるだろ。スピードで後れを取った時点で、ほぼ勝ってたんだよ。
その分、あそこに上手くはめ込むまで、スピードコントロールとかは大変だったんだからな」
「いや、大変の方向はそれでいいのかなあ?」
「いいんじゃねえの?無事だったんだし」
「まあ、いいか」
真理は明彦に言い負かされて、いい事にしたらしい。
カップを返して歩き出した俺達は、その会話を耳にした。
「謎の儀式?」
「そう。なんでも地球では、ドールに感謝を捧げると、ドールに神が宿るとか」
「それで、あれか」
嫌な予感がした俺達は、オペレーターが通り過ぎると、格納庫を覗いてみた。
フレイラのパイロット達が、ドールに話しかけ、磨き、酒の代わりなのかオイルを捧げ、感謝のダンスを踊っていた。
「・・・あんな事は言ってないぞ、俺」
「おかしい。おかしいぜ、皆」
「でも、ボク達のせい?」
「・・・見なかった事にしよう」
そそくさと、その場を離れる。
その後、その儀式がどうなったのか、俺達は関知していない。
「いたぞ」
『誰も止めたりしないのかなあ』
『狂犬だもんな』
「いっそクラシカルに果たし状を送りつけたら喜ばれそうだな」
苦笑して、では作戦開始とばかりに飛び込んでいく。
「また会ったな」
『あ、来た!』
『この前は邪魔が入ったし、エネルギーも切れたから仕方なく帰ったけど、今日は最後まで遊ぶよ!』
「遊ぶ、ねえ」
そして唐突に、鬼ごっこが始まる。
スピードが増した。そして、今までは付いていたリミッターを外し、反応速度が跳ね上がった。ショックアブソーバーと、加速への耐性を上げる薬物を摂取したせいだ。元々フェアリーはパイロットの安全を考慮しない、天井知らずの反応速度が特徴だ。ヒトという柔らかで脆い弱点を克服出来た、これが本来のスペックと言ってもいいだろう。
『何か違う!』
『改造!?』
『カッコいい!』
『面白い!』
どんどんおかしなテンションになって行くようだが、それに比例して、彼らの攻撃も冴えて行く。
そしてこちらもそれに応じる。
他のドールがやり合うのを横目に、飛び回る。
真理や明彦達は、余計な奴らが来ないように、他の奴らを片付けてくれている。
ナイフも機雷も、この速さなら避けられる。ビットの攻撃も当てられる。
『当たらない!』
『クソッ、何で!?』
次第にイライラして来たようだ。
「ははははは!」
『腹が立つぅ』
『完全に仕留めるからな!』
「鬼さんこちら」
距離を開け、おちょくるように、先行して小惑星の向こうに回り込む。
おあつらえ向きに彼らの正面には穴があり、その向こうに俺は先回りしている。
『近道で追いつくよ!』
『見てろよ、バーカ!』
2機は、小惑星の中をくり抜いたトンネルに入った。
そして、ピタリと止まる。穴を出た先に、俺が通せんぼするかの如くいるからな。
『終わりだ、バーカ』
『こんな細いトンネルでも平気だもんね!』
「なあ。そのマークって何?」
『え?』
「地球にはケルベロスっていう、神話上の強い生き物がいてな。頭が3つある犬なんだ」
『?』
「ケルベロスよりも頭が足りないな。バカはお前らだろ」
『なんだと!?』
2機はトンネル内で、各々、ナイフと機雷を操ろうとしたが、狭くて上手く行かない事に気付いた。それで、ライフルを構え、撃った。
『ギャアア!?』
『何で!?』
トンネル内は大爆発を起こし、元固形燃料採掘のための小惑星ごと見事に吹き飛んだ。
「だから、頭が足りないって言ったんだよ。ガスが溜まってる事くらい予測しろよ。それが何の廃棄小惑星か、自分の庭ならわかるだろうに」
ノウラ兄妹がやられたのはすぐに知れたらしく、正規軍は撤退して行った。
あすかに戻って、くせになったイチゴ味噌汁抹茶を一杯飲む。
「はああ。でも、ずる賢いって言うか」
「作戦勝ちと言え」
「トンネルに来なかったらどうしたのぉ?」
「小惑星の陰から出た所をやれるだろ。スピードで後れを取った時点で、ほぼ勝ってたんだよ。
その分、あそこに上手くはめ込むまで、スピードコントロールとかは大変だったんだからな」
「いや、大変の方向はそれでいいのかなあ?」
「いいんじゃねえの?無事だったんだし」
「まあ、いいか」
真理は明彦に言い負かされて、いい事にしたらしい。
カップを返して歩き出した俺達は、その会話を耳にした。
「謎の儀式?」
「そう。なんでも地球では、ドールに感謝を捧げると、ドールに神が宿るとか」
「それで、あれか」
嫌な予感がした俺達は、オペレーターが通り過ぎると、格納庫を覗いてみた。
フレイラのパイロット達が、ドールに話しかけ、磨き、酒の代わりなのかオイルを捧げ、感謝のダンスを踊っていた。
「・・・あんな事は言ってないぞ、俺」
「おかしい。おかしいぜ、皆」
「でも、ボク達のせい?」
「・・・見なかった事にしよう」
そそくさと、その場を離れる。
その後、その儀式がどうなったのか、俺達は関知していない。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる