スパイラルダンス

JUN

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スパイラルダンス

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 フレイラ革命軍の本拠地はいつもの通り、警戒をしながら、非戦闘員は普通の生活を送っている。
 父達は彼らとにこやかに見学、交流をして、地球の中の日本という国の名前を刻み込もうとしているようだ。
「しっかりしてるなあ」
 港部分のデッキから見下ろしながら呟くと、隊長が軽く笑った。
「政治家としては有能だろ。日本の首相の中では、存在感を示す首相1位らしいぞ、アンケートで。あとは、任期いっぱいまで続投を望むかどうかで、イエスと答えた国民が8割らしい。
 日本に有利なカードが続いたからな。地球圏の中での日本の存在感も、かつて無いほど大きい」
「大したもんですねえ」
 パック入りのイチゴ味噌汁抹茶を、チューッと啜る。
「これ、帰っても欲しいな」
「いや、その時は抹茶でいいだろ」
 明彦が、子供達とカリドと一緒にボールで遊んでいるのが見える。
「砌は混ざらないのか?」
「俺は、受けが悪いんで」
 革命軍のコミュニティでは、当然ながら、貴種は警戒され、嫌われる傾向にある。明彦の明るさと人懐っこさのせいで仲良くできているが、あれは特別だ。
「改革が決まっても、なかなか難しいでしょうね。今まで虐げられていた方にも、逆向きの区別が根付いてる」
「心の中までは、勝手に改革できないからな。それでも徐々に、やれない事はないだろ」
 そこで、俺の方へ目を向ける。
「お前はどうだ。改革できてるのか」
「俺?」
 何の改革だ?首を傾けて見返すと、苦笑して、下をクイッと指した。
 そこには、談笑する父とフレイラの人がいた。
「ああ・・・」
 困って、苦笑する。
「ま、焦らなくていい」
 隊長は後ろ向きに手を振って、歩き去って行った。

 長く病床にあったリス・ラ・マール王が亡くなったのは、会談の前日だった。
 それによって会談は再度延期になり、父は地球への報告で余裕を見せながらも、内心ではイライラしているようだ。
 フレイラも、混沌としていた。
 次期王は、レイとアル、どちらか。それによって国のあり方が大きく変わるという事は、一般人でも理解している。寄ると触ると、その話になるらしい。
 そして国の中枢でも改革派と保守派に分かれ、国が二分されているようなものらしい。
 しかしそれも、今日で終息していくだろう。
 モニターの向こうで、全フレイラ国民に向けての放送が始まっている。
 レイとアルが並び、にこやかながらも厳かに、こちらに向かう。
『前国王の死去により、新国王に、わたくしレイ・リ・マールが就く事になりました。そして兄アル・ラ・マールが、宰相として補佐をして下さいます』
 そこで2人は目を見交わして、少し笑い合った。
『遠い昔、わがフレイラを取り巻く環境は過酷で、外敵に脅かされ、それに対抗しうる強い力を求めていました。それが、今日の遺伝子による階級区分です。
 しかし、その外敵ノリブを下し、飼いならす事まで成功いたしました。もう、戦いだけに目を向ける必要のない時代なのです。それぞれが、自由に、夢と適性に見合った未来を夢見て生きる時代になったのです。
 そこでわがフレイラは、従来の遺伝子による身分区別の廃止を決定いたしました。能力差はあるでしょう。そのせいで新たな問題も生まれるでしょう。ですが、わがフレイラならば、超える事ができないとは思いません。
 遺伝子に踊るのはおしまいです。遺伝子が未来を決めるのではありません。未来を決めるのは、あなたの、わたくしの、想いなのです。
 そしてもうひとつ。大昔にわがフレイラより旅立った同胞が、地球という新天地で、新たな文明を築き上げ、発展させてきた事がわかりました。彼らは新たな隣人として、迷う私達に多大なる協力をして下さいました。これからは共に手を取り合い、歩んで行けるものと期待しています。
 地球を代表していらっしゃいました、日本と言う国の武尊首相をご紹介いたします』
 画面に父が現れ、一礼すると、レイ、アルと固い握手をする。
「クーデターでも起こらない限り、取り敢えず地球は大丈夫だね」
 真理が言って、あすかの操艦室の空気がふっと緩む。
 会見の内容を知っていたとはいえ、反対派の横槍など、不安は消えてはいなかったからだ。だがこれで、安心できる。
 フレイラ国内の問題はフレイラ人が取り組みべきだし、俺達が口を出すべきでもない。
「ここに正式にゲートを設置したら、作戦終了だな。
 ああ。帰ったらしばらくは休暇の消化になるなあ」
 隊長が言って、一気に空気が緩んだ。
「しばらく実家に帰ってないな、自分」
「旅行に行きたいな」
「え、散々してるのに?こんなに遠くまで?」
「ザックを背負って、山歩きだよ」
 各々休暇の過ごし方などに花を咲かせていたが、俺達はどうするか。
「オレんちに来ないか、2人共」
「いいねえ」
「うん、そうだなあ」
「ああ?待て待て。お前らは多分、学校だろ」
 ヒデの言葉に、「え」と耳を疑う。
「何で?」
「何でって、学生だろ」
「いや、通信で、ずっと勤務で、あれ?」
「課題の提出、遅れてないだろうな」
 隊長が思い出したように言った。
「俺はまとめて既に片付けてありますよ」
「ボクは、一応計画通りに」
 俺と真理は、揃って明彦を見た。明彦は冷や汗を流してよそ見していたが、ガバッとこっちを向くと、必死の表情で縋り付いて来た。
「頼む、写させてくれぇ!」
「あ、何か懐かしいですねえ」
 峰岸さんがポツンと言って、操艦室は笑いに包まれた。

 ゲートを設置し、式典の中であすかとルナリアンは帰る事になっていた。
 操艦室に並びながら、その時を待つ。
「砌」
 父が話しかけて来た。
「ルナリアンとの事も今回も、意外とお前は役に立った。国祟は研究者だし、伊緒は外交官として上手くやっている。お前は帰ったら大学で政治をやって、私の後を継げ。大学と、付き合っておく学友は選んでおく。いいな」
 操艦室の中にはゲートをくぐるための確認と命令と復唱の声がしていたが、それに耳を傾けている暇はなくなった。皆の注意も、こちらに向いているのがわかる。
 俺は、口を開いた。
「嫌です。政治家にはなりたくありません」
 勇気がいった。
「何?お前に何ができるというんだ」
「できないかもしれません。でも、俺の未来は、俺が決める」
 モニターの中で、ゲート内部の鏡面が虹色に光った。
「勝手にしろ」
 父が離れて、窓からにこやかに手を振る。
 真理、明彦がニコニコとして、ヒデや隊長がニヤニヤとしていた。
 そしてあすかは、ゲートに突入した。
 


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みんなの感想(2件)

志賀雅基
2022.04.08 志賀雅基

射撃上手が「のほほん」や「おっとり」&「ふっくら体型」傾向なのは自分が知る限りでは事実でした。映画『フルメタル・ジャケット』で仇名が「ほほえみデブ」なる落ちこぼれが唯一射撃に適性を見出され教官を射殺する場面がありましたが、米国映画だけあって人選もステレオタイプにしたのかと。自衛隊内では短躯で無口な人が射撃検定で満点だったり特級射撃徽章つけていたり。自分は元自でも狭い世界しか知らないので、長身お喋りせわしないスナイパーもそりゃあ居るかも知れません。ただ「ふっくら」「短躯」だとリコイル(反動)に対して有利とは思われます。持たされる小銃は同じなのでリコイルを身体が吸収すれば、それに越したことは無いです。銃自体もリコイルを吸収するための意図もあり軽くないのですが、プラス身体が吸収すれば次弾を撃つ際に大きくブレていないので当たりやすいでしょうね。心をフラットに、はどうなんでしょうか。現在の某大国と隣国が小競り合いの頃は狙撃戦が主でしたし、ゲリラ戦的な応酬だったので考える間もなくトリガを引けるのは強みでしょう。しかし実際にスナイパーが計画投入される場合はスポッタなる観測手とバディで行動するのが基本ですし、互いに連携し遠距離狙撃なら緻密な観測と計算その他、欠かせないコミュニケーションを取った上で撃ち、修正射しながら当てて行きます。カナダ軍特殊部隊JTF-2のTAC-50での狙撃世界記録も数射は撃っていたように記憶しています。撃つ際は呼吸で銃口確度がずれると拙いので射撃前から調息し、息を止めて脳が酸欠にならない十秒間で、心臓の鼓動に邪魔されないよう鼓動と鼓動の間にトリガをつまむ。ですので撃つ寸前に余計なことを考える暇は殆どなく(思考は酸素の無駄消費)、フラットだと言えなくもないのでは。いついかなる時もというのは分かりません。緊張すべきオペレーションでは緊張し、緩むべき所で緩む。その切り替えが上手くできるのも警察SPや民間軍事会社PSCといった「出れば実戦」のプロの条件だと一冊+複数サイトで見かけました。連続での作戦行動の後は緩んでいいセーフゾーンに交替で戻る。緊張感を持続させるために時間交代制……が可能な間はマシなのでしょう。超長文、どっひぃ、すみません! 消したって下さいごめんなさい。それと自衛隊知識は少なく殆ど戦車以外限定のミリヲタ知識です。

2022.04.08 JUN

やっぱり!体格については同じ事を想像していました。あと、切り替え上手な人が多いというのは、一般兵士も含め、ベトナム戦争など過去の体験談などから何となく。しかし、こうきっちりとわかると気持ちがいいです。ありがとうございました!

解除
志賀雅基
2022.04.07 志賀雅基

読了致しました。ラストDNA構造に思い至り鳥肌モノでした、タイトルの妙。アクションシーンが格好良すぎてクラクラしますね。自分は銃好きなので真理のファンというか真理になってぶちかましたい。狙撃の上手い人は割と「のほほん」タイプが多いらしいのでキャラの性格設定にも唸らされ。本当に素敵な読書をさせて頂きました。ありがとうございます。

2022.04.08 JUN

ありがとうございます。問題児の落ちこぼれトリオですが、そう言っていただけるとありがたいです。確かに、スカッとしそうですねえ。でも、狙撃の上手い人がのほほんというのは、やっぱり、いついかなる時にも心をフラットにとかいう心構えの現れなんでしょうか?

解除

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