青い石

JUN

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ノリス

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 ノリスは、同じ馬車に乗り合わせて来た少年だった。青い石の部屋に閉じ込められた後、蛾の羽が生え、体が小さくなったのをセイは見ている。
「レミ!」
 レミがすかさず、超音波を発する。
「ああああー」
 ノリスは一瞬グラついたが、今度はノリスも
「キイイイイイ」
と声を上げながら通り過ぎていく。
 2つの声に挟まれたスレイとセイは、頭がクラクラした。
「あいつ、平気なのかよ?」
「もう一回やってみる!」
 反転したノリスの向かって、レミが再度声を上げる。
「ああああー」
「キイイイー」
 ノリスは数メートル先で停まって羽ばたきながら、声を上げている。
「あいつ、レミの声と同じような物を出せるんじゃないか?」
「そうだね。反対の周波数で、効果を打ち消すものなんじゃないかな」
「まずいぜ」
 ノリスはその場で3人を見ていたが、羽をばさりと動かすと、距離を詰めて来た。
「ノリス!やめろよ!」
 セイが叫ぶが止まらない。
「ちくしょお!」
 セイはナイフをしまい、手を伸ばした。
「セイ!?」
 スレイとレミは驚くが、ノリスは真っすぐにセイの頭上を目指した。
 セイの腕がノリスの体を掴もうとするが、届かない。
 しかし鱗粉はまかれて、セイの周囲の雑草を枯らす。
「キイ」
 ノリスは上空で反転し、無傷のセイに再び突っ込んで行った。
 セイは今度は飛びかかって行ったが、またも、手は空を切った。
「セイ!」
 スレイが足元の木の枝を放る。
 上空で反転したノリスが、意地になったようにセイに突っ込んで来た。
 セイは後ろ手に隠した木の枝を、頭上を通り過ぎる瞬間を狙って振った。それで木の枝はノリスの胴を叩き、ノリスは大きく体制を狂わせた。
 そこにセイが覆いかぶさるように捕まえに行く。
「スレイ!」
「キイ!キイ!」
 鳴くノリスの胸にスレイは手を当て、心臓を止めた。
「ギイイ!!」
 鳴き声を一声あげ、ノリスは死んだ。
 スレイ達はノリスを囲んで、座り込んだ。
「ノリス、少ししか話はしなかったけどよ。虫が好きって言ってたんだ」
「うん」
「花も動物も好きって」
「うん」
「こんな、花を枯らせて、動物を殺して回るようなのになんて、なりたくなかったに決まってる」
「うん。そうだよね」
「ちくしょおお!!」
 スレイとセイとレミは、木立の下に穴を掘り、そこにノリスを埋めた。
「ここなら寂しくないよ、きっと。ね、スレイ」
「ああ。森はまたすぐに再生する。動物だって戻って来るよ」
 セイは頷き、ノリスに被せた土をポンポンと叩いて、立ち上がった。
「行くか。ここにノリスを連れて来たやつが見に来たらまずいもんな」
 そして、荷物を背負い直し、連れだって歩き出した。
 山を下りたところで、ギョッとする。
「何だよ、あれ」
「シッ」
 フードを深くかぶり直して歩きながら、横目でそれらを見た。
 馬車の荷台に布を被せた檻が置かれ、その馬車を囲むようにして、軍人らが数人立っていた。
「帰って来ませんね、隊長」
 中の1人が山の中を見るようにして言う。
「まさか逃げたんじゃ」
「その心配はありません。一定の距離を離れると、首輪が絞まるのです。それで、それ以上は離れないで戻って来るように、学習していますから」
 白衣のヒョロリとした男が言い、エランがそれに頷いた。
「間違いないのならそれでいい」
 スレイ達は、横目でエランの顔を見た。エランもジロリとスレイ達を見た。
 しかし、髪の色が違うのと、「少年3人組」だから違うと判断し、すぐに目を山に戻した。

 すれ違い、町に入ったスレイ達は、獲物を売って、それで宿に宿泊した。
 そして、ベッドに座って口を開く。
「あいつが、追っ手か」
「まあ、その1人だろうね」
「あいつら、ノリスを道具みたいに言ってたよね」
 怒りが湧き上がるが、同時に、あのエランに対しては、注意しなければいけないという危険信号がともる。
「今に見てろよ」
 セイが壁を睨みつけて行った時、お腹がグウと鳴り、一拍置いて、3人はゲラゲラと笑い出した。
(今に見てろよ)
 笑いながら、スレイもセイもレミも、心にそう、強く誓った。




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