ギルティ・スノウ

JUN

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鹿の赤ワイン煮

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 一向に止む気配のない吹雪と、外界との連絡手段の無いこの状況に、不安が募り、それが苛立ちを加速させる。携帯電話を試してみたが、電波が入らなかったのだ。
 ここがどこなのかすらわからない。ホテル側も僕達が帰らない事に気付いて、警察に届けてくれているとは思いたいが、この悪天候じゃ捜索隊も出られないだろう。
 皆、段々言葉が少なくなっていき、黙ってストーブの前に座るだけだ。
 昨日、最後のカップめんを、皆で分けた。そうめんももうない。僕は風邪をひいたのか、熱まで出だしている。
「腹減ったなあ」
 草津先輩が言って、黒川先輩に、
「言うな。余計腹が減る」
と言われている。
「食料が無くなった。助けが来ないと、寒さより先に餓死するな」
 黒川先輩が言って、別府先輩は引き攣った笑みを浮かべ、
「ハードなダイエットねえ」
と言うが、合わせて笑う者はいなかった。
 翔子は僕の額に手を当てて、
「寝てた方がいいよ、健太君」
と言い、それには皆がその通りだとソファをストーブの前に運んでくれたので、ありがたくソファをベッド代わりに、横にならせてもらう。
「こんな時に、本当に役に立たないで、申し訳ないです」
「ばかね。風邪なんだから仕方ないわよ」
 翔子と別府先輩は笑ってそう言うと、毛布を被せ、ぼくはウトウトとまどろんだ。

 夢現に、声を聞いた。
「このままでは、全員死ぬ」
 黒川先輩が押し殺したような声で言った。
「救助に来てくれるんじゃないの?」
「ここにいる事を誰も知らないのにか?それにこの吹雪は、おさまりそうにない」
 すがるような別府先輩の声と、冷たく否定する草津先輩の声が続く。
「どうすればいいんですか」
 翔子の声は、震えていたか。
「……食料を、何とかしないとな」
「ああ。……足手まといから……」
 熱のせいで再び眠りに落ち、あとはもう、わからなくなった。

 額に触れる冷たい手の感触で、目が覚めた。
「大丈夫?まだ熱は下がらないみたいだけど……水分も摂らなきゃ」
 翔子だった。
「ありがとう」
 かすれた声で礼を言って、差し出された水の入ったコップを受け取り、飲む。自分で思っている以上に喉が渇いていたらしく、一気に飲んだ。
「はああ。美味しい」
「シチューができたぞ。
 お、山代。食べられそうか」
 草津先輩が、鍋を、黒川先輩が食器を運んで来た。
「はい。すみません。
 でも、材料はどこにあったんですか」
「鹿肉が保存してあったよ。庭の納屋に」
 黒川先輩が言い、草津先輩と、シチューをよそっていく。
 いい匂いに、空腹が刺激される。
「野菜は無かったんで、シチューというより、赤ワイン煮かな。野菜抜きの」
 草津先輩は言って、4枚の皿にシチューをよそった。
「あれ?別府先輩はどうしたんですか?」
「別府は、助けを呼びに、山を下りて行ってみると主張してな。行ったよ」
 黒川先輩が答え、草津先輩が継ぐ。
「まずは食べよう。冷めてしまう前に」
「そうですね。さあ、健太。スプーン」
「あ、うん」
「じゃあ、いただきます」
 皆で手を合わせ、皿にスプーンを突っ込む。
 温かくて、しっとりとした弾力の肉に、深い赤ワインのコクが馴染んでいた。
「ああ、美味しい」
 翔子がホッとしたように言った。
「何か、申し訳ないですね、別府先輩に」
 今頃、寒い吹雪の山中を歩いているだろうに。
 皆は手を止め、しばし考えるようにしてから、また食事を再開した。
「しっかり食べろ。熱量を失ったら死ぬぞ」
「はい」
 黒川先輩に返事をして、僕達は久しぶりに、温かい食事をお腹一杯に食べた。
 吹雪はまだ、やむ気配がない。




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