ギルティ・スノウ

JUN

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吹雪

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 毎日ビクビクと怯えていたが、ある日、先輩達の様子が変わった。
「は?何言ってるんだよ。死んだはずって、こうして生きているじゃないか。こんな元気な幽霊がいるか?」
 黒川先輩はシニカルに笑って、そう言った。
 そして草津先輩は、真っ青な顔で口元を抑えていた。
「そんな……」
 そして放課後、草津先輩は僕を拉致するが如く、家に連れて行った。
「これ、食ってみてくれ」
 そして、そう言って、冷蔵庫から出したタッパーを突き付ける。
「何ですか?」
「照り焼き」
「……」
「一口でいいから」
「……わかりました」
 嫌々、一口齧る。
「あれ……」
 しっかりとした食感ながら、ジューシーだ。タレの絡みもいい。
 気付くと、一枚、完食していた。
「これは一体!?」
 再び冷蔵庫を大きく開け、中を見ろと指し示す。
 塊肉があった。
「黒川だ」
「──!?」
「どういうわけかわからないが、この部の人間だけは味がするんだ。そして、食われた部員も甦る」
「く、黒川先輩まで……何で……」
「味がしないのかどうか、気になってな。向こうも同じで、限界だったんだな。お互いに、やりあった」
 淡々として、草津先輩が言った。
「黒川先輩も、今日、いましたね」
「ああ」
「スキーに行く前みたいな雰囲気でしたね」
「ああ」
 原理はわからないが、そういう事らしい。
「草津先輩。世の中には、他にもこういう人がいるんでしょうか」
 足が震えて来る。
 よく見ると、草津先輩も震えを腕組みで無理やり抑えていた。
「わからん。わからんが……普通に、葬式もあるだろ」
「死に方?死ぬ時の気持ちとか……」
「どうだろうな。でも、3人に共通してるのは、納得して死んだって事だな」
「納得……」
「この仮説を試してみないか?」
 草津先輩は、流し台に歩いて行って、出刃包丁を取り上げた。

 今日も、部室は賑やかだ。草津先輩と別府先輩が言い合いをして、黒川先輩がシニカルに切って見せる。それを翔子がケタケタと笑って、僕は気弱そうに笑って見ている。
 あの日、出刃包丁を振りかざして来た草津先輩に、僕は握りしめていたスタンガンを押し当てた。痙攣しながら動けないでいた草津先輩は、苦笑を浮かべていた。
 本当に、どういう事だろうな。この先僕は、どうしたらいいんだろう。
 

 ふと気付くと、翔子の冷たい手が額に当てられていた。
「え?」
「まだ、下がらないわね」
 辺りを見廻すと、そこは、別荘だった。
 窓の外では風の音がしていて、ストーブではパチパチと薪がはぜている。
「水分を摂らないとだめよ」
「う、うん」
 どういう事だ?混乱のせいか酷く喉が渇いていて、一気にコップの水を飲んだ。
 夢を見ていたのか?そうか。そりゃあそうだ。あんな突拍子もない事、あるわけがない。
 僕は、クツクツと笑った。
「どうしたの?」
「いや、何でも無いよ、翔子」
「お、起きたのか。食べられそうか?鹿肉が保存してあってな。納屋に」
 草津先輩の顔を、僕は愕然として見た。
「あの……ええっと、別府先輩は?」
「別府は、助けを呼びに、山を下りてみると主張してな。行ったよ」
 鹿の赤ワイン煮が、いい匂いをさせているのを、僕は凍り付いた目で見つめた。

 2周目は、僕が生き残れるのだろうか。それとも、これは、何週目の世界なんだろう……?
     







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