ギルティ・スノウ

JUN

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甦り

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 しかしそれも、2日、3日となれば、気味悪さが先に立つ。
「どういう事ですか」
 僕と黒川先輩、草津先輩は、ヒソヒソと話していた。
 別府先輩と翔子は、奇蹟の発見として戻って来たのだ。
 でも、間違いなく、僕達は2人を食べた。
「本当は、本当に鹿とうさぎだったんじゃないですか」
 言うと、2人は、
「バカ言え」
と言って来た。
「だったら、あの熊に食わせた頭や内臓はなんだよ」
「でも、現に2人はいるじゃないですか」
「それは……そうだけど……」
「でも、凍傷もケガも何もなしだぞ。あの吹雪の中で。おかしいだろ。何で皆納得してるんだよ」
 そこは、わからないところだ。
 そして、3人でひたすら唸る事になる。
 頭が変になりそうだ。
「どうしたの?変なの。
 お弁当、どうして食べないの?」
 翔子が首をかしげる。
「それは……ちょっと、食欲が」
「美味しいのに。一口食べてみる?香草焼き」
 途端に、気持ち悪くなってきた。
「ハンバーグもあるわよ」
 別府先輩が言って、黒川先輩と草津先輩も、青い顔をしている。
「いや、いい」
「気持ちだけで」
「ありがとうございます」
 別府先輩と翔子は、
「変なの」
と口を揃え、弁当を食べ始めた。

 あれは皆夢だったんじゃないか。そう思って、食べ物を口にしてみた。
 でもやはり、味は無い。では、あれはやはり本当にあった事だろう。
 では、あれは鹿とうさぎだったのか?行方不明になった罪悪感から、先輩達がそう思い込んでしまったのか?
 そうなると、ジャンパーも靴も無しで吹雪の中に放り出されて無事だったという事になってしまう。
 別荘の中に隠れていたというのか?リビング、キッチン、トイレ、寝室という間取りで、寝室はガラス窓を割ってしまったので気温が外並みで、隠れている事は不可能だ。庭の納屋も、凍死してしまうだろう。
「間違いない。あれは鹿でもうさぎでもなかった。そうだったらどんなにいいかと思うけど、料理した俺が言うんだから間違いない」 
 草津先輩が、苦渋に満ちた顔を歪ませる。
「俺だって、間違いなく、頭を捨てた。目が合ったんだぞ。間違いない」
 黒川先輩が言って、こめかみをもむ。
「じゃあ、あれは何です。死者が甦ったとでも?」
「そんなの、俺が聞きたい」
 僕達は重い溜め息をついた。
 あれは、罪悪感、罪の塊そのものだ。しかし、それが現実に肉体を持ち、これまでと同じように振る舞うのは、恐怖以外のなにものでもない。
 暴かれるのではないか。
 復讐しようとしているのではないか。
 わからない。あれが何で、何をしようとしていて、自分がどうすればいいか。
「どうしたのよ」
「変な男子」
 恐怖が、笑っていた。



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