オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
64 / 89

キメラの倒し方

しおりを挟む
 俺と采真はキメラと睨み合っていた。
「頭か体をやられると、入れ替わって、元気な状態になるらしいな」
「永遠に繰り返しかよ」
「同時にやればどうだ?」
「同時か。よし。担当はどうする?」
「牛の部分に氷は刺さったが、虎に風は効かなかったし、火は付いた」
「わかった。俺が牛だな」
「ああ。ホルモンは要らないから、遠慮なくやれ」
「わかった!」
 小声で打ち合わせ、ちょっと誘うと、キメラが走って来た。
 俺は虎の顔に火を叩きつけ、同時に采真が心臓に剣を突き立てる。
 キメラは一瞬硬直し、忙しく体色を替え、そして、虎の頭と牛の体で、どう、と倒れた。
「死んだか?」
「死んだぞ!」
「よし!」
 俺達はワッとキメラに近寄ると、虎と牛の縞模様になっている首の皮を剥がした。
「毛の下の皮もこの模様か」
 ちょっと眺めて、残りをボディバッグに入れてしまう。それから氷の壁を消した。
「やったのか?」
「あ!虎と牛の縞模様の皮!」
 探索者が采真の手の皮を指さし、盛り上がった。
 マリオ派のやつは、悔しそうにしているが。
「さあ、協会に戻るか」
 俺と采真はエレベーターへ向かった。

 ロビーで、俺と采真とリタとカルロスは、副支部長の言葉に耳を疑った。
「はあ?ダメって、何でです?」
 副支部長は縞々の皮とセイレーンの尾びれと将軍の人形を前に、言った。
「頭が虎で体が牛だった時かどうかわからないからだ」
 これには、唖然とした。
 副支部長の後ろで、マリオが薄く笑っている。
「録画をチェックすればわかるはずだ」
「映ってなかったぞ。機械が故障してたんだな」
 堂々と言った。
 なんてやつだ。
 取り囲んでいた探索者や取材陣は、ガッカリしたり喜んだり様々だ。
「副支部長。それでは彼らにあんまりです」
 カルロスが堪り兼ねて言うが、副支部長はカルロスに目もやらずに言う。
「事実だ。どちらが頭かで、動きも違うしな。それに機材の故障は、私が壊したわけじゃない。
 ああ、惜しかったな」
 マリオの方は、キメラの皮と人形が揃っている。お互いに残り1つを手に入れるなら、セイレーンの尾びれの方が確実に早い。
「副支部長のやり方には、公平性にも疑問があります。支部長に、いえ、探索者協会本部にこの件を報告します」
 カルロスが言うと、副支部長はカルロスを睨み、怒鳴りつけた。
「上司に逆らうのか!お前はクビだ!」
「横暴よ!」
 リタが怒るが、副支部長とマリオは涼しい顔だ。
「機械を壊したのは自分じゃないのかね。不正を隠蔽するために」
 俺は、はあ、と溜め息をついた。
 そして、ボディバッグから、キメラを出した。
「頭が虎で体が牛の状態でした。これでよろしいでしょうか」
 皆が、それを見つめる。
 そして、ボディバッグを見た。
「何で……」
「こんな事もあろうかと」
 本当は、食べようと思ったからだけどな。ああ。返してくれるかなあ。
「レコーダーも借りた時のままですよ。
 まあ、自前のレコーダーもありますし、討伐した時の目撃者もいますし、問題があるとは思えませんが」
 副支部長はうろたえ、血の気の引いた顔でマリオを見た。
 そのマリオも、唇を引き結んで、俺達を睨んでいる。
 が、ふっと肩を竦めて見せた。
「いやあ、大したもんだ。ガキだと侮って悪かった。
 それで、ああ、初めてのラブレターか?最後に洩らした時か?」
「いいえ。あなたは、同じ事を自分がされたら心から嫌だと思う事を人にしましたか」
 マリオは表情を消した。
 ザワザワとする。
 その中で、マリオは笑って見せた。
「無いとは言えないな。誰だってあるだろ?友達にイタズラしたりさ」
「死ぬ程嫌な事と聞いたんですがね。
 ヤコポはどうですか。あなたは、人をはめるのを見た事がありますか」
 ヤコポがビクッとして、マリオを見、慌てて目をそらす。それにマリオが、舌打ちをした。
「リカルド。あなたは卑怯な行いをするのを見た事がありますか」
 リカルドは、
「マリオさんは違う!」
と叫び、副支部長が口を出した。
「待て。なぜ彼まで」
「マリオのチーム、という事でしたので。
 ああ。ほかにもたくさん、迷宮内にいましたね。妨害も、将軍係も、キメラ探索も。記録もありますよ。
 そこのあなたは、不正の噂を聞いた事はありますか。
 あなたは、このチームが新人を未情報の魔獣に当てて先に情報を取るのを知っていましたか」
 悲鳴と怒号が沸き起こり、副支部長は震え、そこは混乱した。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...