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最悪の誕生日
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呆然というのは、こういう事か。
僕は彼女の別人のような様子を見ながらそう思っていた。
里中航平、高校2年生。成績は中の上、運動神経は普通、顔面偏差値は普通。埋没気味の、地味な男子だ。去年から何となく付き合っていた鈴木さんという人生初の彼女がいたが、今、別れを言い渡されたところだ。
「何で?」
「いつも、どうする?どうしたい?それでいいよ。主体性がないじゃない。このプレゼントだってそうよ」
鈴木さんが、ジッと店先で見ていたので、
「こういうの、好きなの?」
と訊いたら、
「うん」
と答えたではないか。
どういう事だ?
「それはね、本心ではないの。全然私の事わかってないもん。だめだと思うの。だから、別れましょ」
「ああ・・・うん。わかった」
それでまた鈴木さんは舌打ちしたようだったが、どうしろと?粘ったら今度はストーカー扱いされるだろ?
僕は彼女の為に買ったブレスレットを持ったまま、すごすごとその場を後にした。
ベンチに座って、溜め息をついた。
ブレスレットなんて、使いようが無い。母親だって使わない。ドラマなんかでは海に投げ捨てたりしているが、本当にやるのは、不法投棄だし、ブレスレットが高くて勿体ない。
「返品できるかなあ」
キラキラと光るそれを、眺める。
と、声がかかった。
「お。カワハギの仕掛けか?」
「は?」
横を見ると、若いのかそうでないのかよくわからな男が、僕の手元を覗き込んでいた。同じバスを待っている人らしい。
「いえ、あの・・・ブレスレットです」
「兄ちゃんがするのか?」
「いえ、プレゼント・・・にしようとしていたんだけど、振られていらなくなりました。返品できるかな、と」
男は一瞬黙って、次に、笑いながら肩を叩いて来た。
「気にするな。女なんて魚よりもわからん生物だ」
「魚?」
「おう。魚心はわかっても、女心はさっぱりだ。
よし、釣りに行こう」
「へ?」
「海はいいぞ。広大な海を眺めていると、悩みなんて吹き飛ぶさ。それに、釣りは人生と食卓を豊かにしてくれる最高の趣味だ」
「はあ」
「じゃあ、次の日曜日、ここで朝4時な。おにぎりかパンと、飲み物を忘れんなよ。じゃあな。遅刻厳禁」
「はい。・・・ええ!?ちょっと!?」
いつもの如く、流されるままに決まってしまっていた。
なんてこった。釣りなんてしたことが無い。金魚すくいとは違うだろうしな。
スタスタと去ってしまった男の後ろ姿を探したが、もうどこにも見えなかった。
こうして僕は、名前もしらない人物と、出かける約束をしてしまっていたのである。
僕は彼女の別人のような様子を見ながらそう思っていた。
里中航平、高校2年生。成績は中の上、運動神経は普通、顔面偏差値は普通。埋没気味の、地味な男子だ。去年から何となく付き合っていた鈴木さんという人生初の彼女がいたが、今、別れを言い渡されたところだ。
「何で?」
「いつも、どうする?どうしたい?それでいいよ。主体性がないじゃない。このプレゼントだってそうよ」
鈴木さんが、ジッと店先で見ていたので、
「こういうの、好きなの?」
と訊いたら、
「うん」
と答えたではないか。
どういう事だ?
「それはね、本心ではないの。全然私の事わかってないもん。だめだと思うの。だから、別れましょ」
「ああ・・・うん。わかった」
それでまた鈴木さんは舌打ちしたようだったが、どうしろと?粘ったら今度はストーカー扱いされるだろ?
僕は彼女の為に買ったブレスレットを持ったまま、すごすごとその場を後にした。
ベンチに座って、溜め息をついた。
ブレスレットなんて、使いようが無い。母親だって使わない。ドラマなんかでは海に投げ捨てたりしているが、本当にやるのは、不法投棄だし、ブレスレットが高くて勿体ない。
「返品できるかなあ」
キラキラと光るそれを、眺める。
と、声がかかった。
「お。カワハギの仕掛けか?」
「は?」
横を見ると、若いのかそうでないのかよくわからな男が、僕の手元を覗き込んでいた。同じバスを待っている人らしい。
「いえ、あの・・・ブレスレットです」
「兄ちゃんがするのか?」
「いえ、プレゼント・・・にしようとしていたんだけど、振られていらなくなりました。返品できるかな、と」
男は一瞬黙って、次に、笑いながら肩を叩いて来た。
「気にするな。女なんて魚よりもわからん生物だ」
「魚?」
「おう。魚心はわかっても、女心はさっぱりだ。
よし、釣りに行こう」
「へ?」
「海はいいぞ。広大な海を眺めていると、悩みなんて吹き飛ぶさ。それに、釣りは人生と食卓を豊かにしてくれる最高の趣味だ」
「はあ」
「じゃあ、次の日曜日、ここで朝4時な。おにぎりかパンと、飲み物を忘れんなよ。じゃあな。遅刻厳禁」
「はい。・・・ええ!?ちょっと!?」
いつもの如く、流されるままに決まってしまっていた。
なんてこった。釣りなんてしたことが無い。金魚すくいとは違うだろうしな。
スタスタと去ってしまった男の後ろ姿を探したが、もうどこにも見えなかった。
こうして僕は、名前もしらない人物と、出かける約束をしてしまっていたのである。
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