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簡単の極意
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おにぎり。ごはんを適量握ったものだ。このくらいどうってことないだろう。そう思っていたのだが、航平は首を捻った。
「何か違う」
自分でおにぎりを握ってみたのだが、母のと違い過ぎる。
これは塩を付け過ぎたし、こっちは固く握り過ぎたし、こっちは緩すぎてボロボロと崩れる。
「意外と難しいんだなあ。手順としては簡単なのに」
思わず言うと、母が、ドヤ顔をしていた。
「という事がありましてね」
僕は、悠介さんに言った。
「簡単に見える事でも、いろいろあるって事だな」
と悠介さんはうなずいてから、
「俺もこの間、アイロンで四苦八苦したぞ」
と言った。
「アイロン?」
「久しぶりに、ピシッとアイロンのかかったシャツとスーツで出かける事があってな。アイロンをシャツにかけようと思ったんだが、思ったよりも難しくて。本当に困った」
「アイロンですかあ。直後はかかってるように見えるんですけど、一回フワッとさせたらやっぱりだめだったりとか、アイロンで押さえて変なしわを却って付けたり」
「そうそう。俺は決めた。形状記憶のシャツしか、もう買わない」
「あれはいいですよね」
僕と悠介さんがうんうんと言い合っていると、早織ちゃんが溜め息をついた。
「ギョーザを包むのが難しいわ。簡単そうに見えるのに」
「ああ、ギョーザかあ」
「コツだよなあ、あれも」
僕達は、簡単に見えて難しいものについて話して盛り上がった。
そうしているうちに、船がポイントについた。
今日はタイラバ。丸っこいピンポン球くらいの錘にスカートといわれるビラビラしたものを付けて釣るやりかたで、近年人気が続いている。鯛を狙うものだったのだが、近頃では鯛以外も色々釣れると言うので「『タイの実』はタイのみにあらず」というキャッチコピーで売っているメーカーもある。
釣り方は至って簡単。底まで落として、ゆっくり巻くだけ。かかっても慌てず、合わせず、ただ、巻く。
僕も早織ちゃんもそれなりに釣ってはいるけど、悠介さんとかはもっと数を釣っている。
「何でだろう?」
「簡単の罠かしら?」
僕は上機嫌の悠介さんを眺めてみた。
「あ。スカートとか、ローテーションが早い」
「気付いたか、航平」
悠介さんはニヤリとした笑みを向けて来た。
タイラバの色、形、重さも色々なら、スカートの色、長さも色々だ。組み合わせはたくさんの数になるが、面倒がらずにローテーシュンする事が釣果アップにつながるらしい。
「へえ。簡単でもやっぱりあるんですねえ、こつが」
感心する僕だったが、早織ちゃんは口を尖らせた。
「早く教えてよお!何が何でも、マダイが欲しいんだから」
言って、継ぐ。
「ママの再婚が決まったの。それで、タイを釣って、あげたいの」
「へえ。きっと喜んでくれるよ。おめでとう」
「相手の河上さんは来年からアメリカに転勤になるんだよな」
「え!?」
それじゃあ、早織ちゃんとも、会えなくなるのか・・・。
だが早織ちゃんはあっさりと頷いた。
「そう。だから、再婚に反対してるわけじゃないですよーって、示す意味でもね」
「・・・?」
「早織はうちで暮らす事になった。大学にしろ、な」
悠介さんは、嬉しそうだ。
「英語も困るし、釣りだってね、やりたいもん」
「な、なるほど」
ホッとしたのをなるべく隠すようにして、言った。
「だから、本当に反対なわけじゃないってね」
「あれ?前は気に入らないみたいなこと、言ってなかったっけ?」
早織ちゃんは早口で、
「第一印象で決めるなって言われて、じっくり話してみたらいい人だったから。
さあ、そういうわけだから、釣るわよ!」
と、大漁を宣言したのだった。
一番いい型のをお祝い用にして、船型に乗せて別にした。
「かっこいいわ」
「やっぱり、日本人は祝と言えばタイだよな」
「ま、幸せになってくれりゃ安心だ。
さあ、俺達も食うか」
「はい!いただきます!」
揃って手を合わせ、箸をのばした。
『船盛り』
タイを3枚におろし、頭と尻尾のところで背骨を折る。そして、その間の部分
に刺身、ケン、アオジソを盛りつけただけで、豪華になるので、お祝いには、
どうせ刺身にするならこれで。船がなければ大皿で構わないが、お正月の睨み
鯛の船を置いておくと便利。
『鯛めし』
土鍋に研いだ米、酒を加えた水、塩、昆布を入れ、上にタイを乗せて炊く。ま
ずは強火。沸騰したら弱火にして14分。昆布を取って、軽く混ぜて14分蒸
らす。鯛を焼いてから乗せるやりかたもある。タイは適当にほぐして、骨を取
る。
「何か違う」
自分でおにぎりを握ってみたのだが、母のと違い過ぎる。
これは塩を付け過ぎたし、こっちは固く握り過ぎたし、こっちは緩すぎてボロボロと崩れる。
「意外と難しいんだなあ。手順としては簡単なのに」
思わず言うと、母が、ドヤ顔をしていた。
「という事がありましてね」
僕は、悠介さんに言った。
「簡単に見える事でも、いろいろあるって事だな」
と悠介さんはうなずいてから、
「俺もこの間、アイロンで四苦八苦したぞ」
と言った。
「アイロン?」
「久しぶりに、ピシッとアイロンのかかったシャツとスーツで出かける事があってな。アイロンをシャツにかけようと思ったんだが、思ったよりも難しくて。本当に困った」
「アイロンですかあ。直後はかかってるように見えるんですけど、一回フワッとさせたらやっぱりだめだったりとか、アイロンで押さえて変なしわを却って付けたり」
「そうそう。俺は決めた。形状記憶のシャツしか、もう買わない」
「あれはいいですよね」
僕と悠介さんがうんうんと言い合っていると、早織ちゃんが溜め息をついた。
「ギョーザを包むのが難しいわ。簡単そうに見えるのに」
「ああ、ギョーザかあ」
「コツだよなあ、あれも」
僕達は、簡単に見えて難しいものについて話して盛り上がった。
そうしているうちに、船がポイントについた。
今日はタイラバ。丸っこいピンポン球くらいの錘にスカートといわれるビラビラしたものを付けて釣るやりかたで、近年人気が続いている。鯛を狙うものだったのだが、近頃では鯛以外も色々釣れると言うので「『タイの実』はタイのみにあらず」というキャッチコピーで売っているメーカーもある。
釣り方は至って簡単。底まで落として、ゆっくり巻くだけ。かかっても慌てず、合わせず、ただ、巻く。
僕も早織ちゃんもそれなりに釣ってはいるけど、悠介さんとかはもっと数を釣っている。
「何でだろう?」
「簡単の罠かしら?」
僕は上機嫌の悠介さんを眺めてみた。
「あ。スカートとか、ローテーションが早い」
「気付いたか、航平」
悠介さんはニヤリとした笑みを向けて来た。
タイラバの色、形、重さも色々なら、スカートの色、長さも色々だ。組み合わせはたくさんの数になるが、面倒がらずにローテーシュンする事が釣果アップにつながるらしい。
「へえ。簡単でもやっぱりあるんですねえ、こつが」
感心する僕だったが、早織ちゃんは口を尖らせた。
「早く教えてよお!何が何でも、マダイが欲しいんだから」
言って、継ぐ。
「ママの再婚が決まったの。それで、タイを釣って、あげたいの」
「へえ。きっと喜んでくれるよ。おめでとう」
「相手の河上さんは来年からアメリカに転勤になるんだよな」
「え!?」
それじゃあ、早織ちゃんとも、会えなくなるのか・・・。
だが早織ちゃんはあっさりと頷いた。
「そう。だから、再婚に反対してるわけじゃないですよーって、示す意味でもね」
「・・・?」
「早織はうちで暮らす事になった。大学にしろ、な」
悠介さんは、嬉しそうだ。
「英語も困るし、釣りだってね、やりたいもん」
「な、なるほど」
ホッとしたのをなるべく隠すようにして、言った。
「だから、本当に反対なわけじゃないってね」
「あれ?前は気に入らないみたいなこと、言ってなかったっけ?」
早織ちゃんは早口で、
「第一印象で決めるなって言われて、じっくり話してみたらいい人だったから。
さあ、そういうわけだから、釣るわよ!」
と、大漁を宣言したのだった。
一番いい型のをお祝い用にして、船型に乗せて別にした。
「かっこいいわ」
「やっぱり、日本人は祝と言えばタイだよな」
「ま、幸せになってくれりゃ安心だ。
さあ、俺達も食うか」
「はい!いただきます!」
揃って手を合わせ、箸をのばした。
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タイを3枚におろし、頭と尻尾のところで背骨を折る。そして、その間の部分
に刺身、ケン、アオジソを盛りつけただけで、豪華になるので、お祝いには、
どうせ刺身にするならこれで。船がなければ大皿で構わないが、お正月の睨み
鯛の船を置いておくと便利。
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土鍋に研いだ米、酒を加えた水、塩、昆布を入れ、上にタイを乗せて炊く。ま
ずは強火。沸騰したら弱火にして14分。昆布を取って、軽く混ぜて14分蒸
らす。鯛を焼いてから乗せるやりかたもある。タイは適当にほぐして、骨を取
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