公安部公安総務課魔術係

JUN

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爆ぜる魔術士(9)実験室

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 意識が浮上する。しかし夢の中のように、現実味がない。
 それでも体を起こそうとしていると、段々と意識がハッキリしてきた。
「どのくらい経ったんだ」
 呟いた声は、風邪をひいたかのようにガラガラとしている。
 あまねは手錠を見下ろして、溜め息をついた。
「失敗した……」
 あんな風に何気なくひょいとやられたらなあ、と思い、いかんいかんと反省する。
 そして、手錠を外す事にした。これがあれば、何もできない。
 サイドテーブルに置いてあった眼鏡を取ってつるを引くと、針金が現れる。それを手錠の鍵穴に入れてちょっといじると、小さな音を立てて手錠が外れた。
 元通りに眼鏡をかけ、手錠をかけられていた両手首をさすりながら部屋の中を観察する。
 監視カメラが無いらしい事は、目が醒めた直後から確認している。窓はない。地下室だろうか。部屋は4畳半という程度の広さで、シングルベッドのほかにはサイドテーブルがあるだけで、眼鏡はここに置いてあった。ほかには、腕時計も置いてあったのでそれをはめる。
 3時間程経っていた。
 今度は唯一のドアに忍び寄り、そっとドアノブを回してみる。外から鍵がかかっていたが、またも鍵穴に針金を差し込んで開ける。
 鍵を開けるのも、公安の講習で習ったものだ。
「これを実地で使う日が来るとはなあ」
 あまねはどこか遠い目になってから、表情を引き締めて廊下に滑り出た。
 誰もいない。玄関や応接室とは違い、どこかの研究施設のような廊下だと思った。飾り気が一切ないコンクリート製だからだろうか。
 あまねのいた部屋側にはもう2つドアがあり、どちらも大きさは、あまねのいた所と変わらないようだ。
 廊下の反対側にあるドアは1つで、あまねはそこを覗いてみた。
 ひんやりとした空気が満ち、部屋の半分はただの床だった。そして残る半分には、手術台と手術道具としか見えないものが置いてある。
「何だ、ここは」
 無人の部屋に踏み込んで行く。薄気味は悪いが、ここが暴くべき秘密だというのはカンでわかった。
 デスクのパソコンを立ち上げ、パスワードには試しに深見の誕生日を打ち込んでみたが、弾かれた。
 次に、魔女の死んだ日を打ち込んでみたら、開いた。
 そこでファイルを見ると、数人の名前があり、その中に谷川大地とあったので開いてみた。
 薬の名前と量、時間。そして備考欄には、「火」とある。
 これは間違いなく、何らかの処置をした記録だろう。あまねはファイルをまとめて専用のパソコンに送った。
 送信終了を待っていると、感知の網に、誰かが近付いて来るのがひっかかった。2人。間違いなく、深見とあの女児だろう。
 静かに息を殺していると2人は通り過ぎ、どこかのドアを開ける音がし、そして、乱暴に別のドアを開ける音が続いた。
 そこでやっと送信が終了し、あまねは乱暴にパソコンの電源を切った。
 パソコンの画面が真っ黒になった時、この部屋のドアが開いて、深見とあの女児が現れた。
「ここにいたんですか、悠月君」
「刑事を監禁するとはね」
 女児は相変わらず無表情で、深見のそばに立ってあまねを見ている。
「ここは何ですか。手術室?ここで浅井や谷川の施術をしたんですか」
 深見は笑い、頷いた。
「ええ。ここがまさに、新技術の第一歩なんですよ、悠月君」
「人工的に、一般人を魔術士にする実験ですか?」
「ええ!彼女を見て、人類の進化形だと確信したんですよ!」
「あれは犯罪者だ。己の欲の為には他人を踏みにじっても何とも思わない。あれが人類の進化形だというなら、ヒトという種はロクでもないな」
 深見は嘆くように首を振った。
「進化に痛みは付きものです。
 ああ。悠月君も彼女を見ればわかりますよ。彼女がいかに美しいか!彼女は現代のイヴだ!さあ!」
 訝しむあまねの前で、深見は壁際のスイッチを入れた。
 するとどこかで機械の駆動音がして、何もなかったただの床だった部分がせり上がって来た。
「何を?」
 その床の下に何かがあるのが見え、あまねはそれが姿を現すのを待った。
 待って、吐きそうになった。
「これ!?」
 たくさんの水槽の中に、ヒトの脳が浮かんでいた。
「魔女の脳を解剖の時に手に入れて、クローニングで増やしているんだよ。
 人口魔術士の基礎はイヴなんだが、これでは不完全なんだ。浅井も谷川も、魔術をほんの数発撃っただけで、脳が負荷に耐えられないのか破裂してしまった。
 この実験体21号は自立して動けるし、連続して魔術も多少使えるが、失敗作だ。
 なぜか?ここにはアダムがいない。そう。悠月君の脳が必要なんだよ」
「はあ!?」
「魔術を発する事は魔女の脳で。演算と多様性は悠月君の脳で。2つの脳を組み込んでみたら、きっと素晴らしい、新しい人類が誕生するはずだ!
 悠月君。人類の祖になろうじゃないか!」
 深見は狂気を感じさせる笑顔を浮かべていた。




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