隣の猫

JUN

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プレゼント

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 完璧な女神様なんて、眺める分にはいいが、付き合うのは肩が凝る。そう思っていた。しかし、完璧な女神様だと思っていたのは勘違いで、不器用な所もあってかわいいものだ。そう礼人は考え、小さく笑いを浮かべた。
 が、皆には秘密にしておいてやろう。
 早く目が醒めた礼人は、そんな事を考えながら、暇なのでストレッチをしていた。
 今日は涼子は休日だ。
 起きて来た涼子の髪は寝ぐせでうねっていたが、ゴムでくくるとわからなくなった。
「手品みたいですね。
 ん?まさか髪がロングの訳って」
「寝ぐせをドライヤーで直すのが面倒臭いから。これだと誤魔化せて楽です」
 礼人は涼子の素の顔を知り、完全に肩の力が抜けた。どうしてあんなに完璧と信じていたのか。
 それから、朝からゆっくりとパンとコーヒーとゆで卵とトマトの乗ったコールスローサラダを2人で食べた――礼人の家で。
 掃除と洗濯の後は近所のパン屋へ行く。パンのいい香りがして、まだ空腹にはなっていない筈なのに、食欲が刺激された。
「美味そう。お勧めは?」
 既に敬語を使うのもバカバカしい。
「私が好きなのは、クロワッサンとクルミパンとパニーニと柚子胡椒チキンサンドで、これを基本、ローテーションしています」
「じゃあ、俺も食ってみよう」
 トレーに取って、レジで会計をする。
「今日は木村さん、お休みですか」
 涼子が訊くと、店主は困った顔をして言った。
「そうなんですよ。無断欠勤なんてした事無いし、真面目なのにおかしいんですよね。急病かと思って家にかけてみたんだけど出なくて。1人暮らし出し、倒れたりしてないといいけど……」
「行ってみましょうか」
「え。悪いですよ」
「いえ。もし倒れていたら大変ですから。
 あ。これでも医師ですので」
 家を教えてもらい、2人で向かう。
「木村さんというのは?」
「店員さん。よくお勧めの本の話とかをする人で……ああ、ここですね」
 小さい賃貸マンションだった。そこの102号室のドアをノックするが、出て来ない。
 ドアノブを掴んで回してみると、開いた。
「あら」
「木村さん、失礼しますよ」
 パンの入った紙袋を涼子に渡して、礼人は中に入った。
「木村さん。お邪魔します」
 涼子も後に続いた。
 入ってすぐはダイニングキッチンで、その奥に部屋が1つという間取りだ。その部屋とダイニングキッチンの間のガラスの扉を開ける。
 と、ベッドの上に青年が座っていた。
 ただし、首に包帯を巻き、靴下の足首から先を赤く塗られた姿で壁にもたれかかっているその木村は、どう見ても生きてはいないようだ。
 一応涼子が確認はしたが、やはり死んでいた。
「硬直具合からして、亡くなったのは零時から午前2時の間。死因は絞殺による窒息。後は解剖しないと。
 これは?」
 礼人が警察に電話を入れている横で遺体をざっと見ていた涼子が、遺体の足の上に置かれた白い紙片を見た。

   有坂涼子
     覚えているか

 礼人と涼子はそれを見て眉を顰めた。
「何の事かわかるか?」
「全然」
 言いながら、もう一度遺体を見る。
「わからないわ」
 そのまま同僚達の到着を待ったが、来た彼らは、並んで
「パンが潰れた」
「それどころじゃねえよ。
 ていうか、よくこれを見た後食べ物を見て平気だな」
「解剖直後に焼肉でもユッケでも食べられるのが一人前の解剖医です」
と言い合っている2人を見て、
「やっぱりそうなんだな」
と納得していた。
 わからない顔でキョトンとしているのは、当人2人だけだった。

 解剖の結果は検視の通りで、まずスタンガンで痺れさせてから絞殺したものと思われた。
 カードの文言については、涼子に心当たりは無かった。
「連続殺人か」
 礼人は難しい顔で言った。
「先生の周囲の人間を狙って来ましたね」
 晴真が言い、チラッと礼人を見る。
「何だ」
「いえ、あの……先生と木村さんの関係は……?」
「行きつけのパン屋の店員で、よく本の話をするらしい」
 答えながら、本当にそれだけなんだろうな、となぜかイラッとした。
「へえ。どんなパンが先生のお好みなんです?」
「クロワッサンとクルミパンとパニーニと柚子胡椒チキンサンドが好きらしい」
「へえ。ふうん。
 先輩。狙われるかも知れないので、気を付けてくださいね」
「行きつけのパン屋の店員が狙われるくらいだからな。隣の家の住人とかも狙うかもな。
 あ、ドラッグストアにもよく行くぞ。よっぽど危ないんじゃないか」
「流石、よく知っていますよね」
「ああ?勘違いするなよ」
「大丈夫です。単なる店員さんですよね。先輩とは違いますよ」
「ん……」
 礼人はもやもやした何かに、首を傾けた。







 
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