隣の猫

JUN

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コンタクト

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 翌朝、いつも通りに起き、寝ぐせの髪を括ってストレートに背中に垂らし、着替えて、栄養ブロックの箱を涼子は見た。が、食欲がなく、そのまま仕事に出掛けた。
 思い出せと言われてもよくわからない。遺体の状態から、首を絞めていたのと足首から先を赤く染めていたのがヒントなのだろうとは思うが、覚えていないものは覚えていない。
 自分のせいで木村が被害者に選ばれてしまったというのなら申し訳ないと思うが、遺族に会わない方がいいと釘を刺されている。ヘタをすれば、恨む人間を増やすだけだ。
 泣き崩れる遺族の声を聞き、せめて思い出そうと努力してみる涼子だった。

 夜、マンションに戻ると、着替えた涼子を礼人はそのまま自分の部屋へ連れて行った。
 そして手早く、チキンライスを作る。
「朝飯抜いて、昼もブロックをほんの2口齧ってやめただろ。倒れるぞ。残してもいいから、食え」
「いただきます」
 素直にスプーンをとり、向かい合わせで食べ始める。
「美味しい!ブロックがどうにも味気なくて食欲がわかなかったんだけど、美味しいです」
「そうか。それは良かった」
 食べ終え、お茶で一息つきながら話をする。
「まあ、木村さんは気の毒だったが、別に有坂さんのせいではないし、気にするな」
「はい」
「何か、思い出したか?」
「特にこれといって」
 涼子は言い、考えていると、涼子の電話が鳴り出した。
「はい」
『思い出したか』
 香田佳乃が殺された時に聞こえて来た、男の声だった。
「あなたはどなたですか」
 礼人は、犯人からと察して緊張した。
『公平であるべきだ』
 そう言って、電話は切れた。
「犯人からか」
「はい。公平であるべきだ、と。
 私は何か、不公平な事をしたんでしょうか。そのせいで、誰かが殺されるんでしょうか」
 涼子は首を傾けてそう言った。
 今もどこからか、自分を見ているのだろうか。自分はその人物と、知らず、会話を交わしているのだろうか。
 涼子は溜め息をついた。

 礼人はまだ見ぬ犯人の事を考えていた。
(どんなやつか知らないが、周囲の人間を襲うとはとんでもない話だ。恨むなら本人に言え。思い出してもらいたいなら、ちゃんと言えばいいだろう)
 腹立たしい思いを抱え、犯人に会ったらそう言ってやりたいと思っていた。
(しかし、あれだな。有坂さん、メンタル強いな)
 クールで、いつもの通りに見えた。
 
 監察医務院に出勤した涼子の様子を少し見る。
 周囲は腫れものを扱うように、恐る恐る挨拶だけして、そそくさと離れる。疫病神とか死神と思っているわけでもないだろうが、どう接すればいいのかわからないようだ。
 その中で、涼子はいつも通りに見えた。
「有坂先生、おはようございます」
 その涼子に、1人がピョコンと頭を下げる。いつも助手に付く事が多い、野原架純という女性だ。
「おはようございます」
「今日の最初の解剖は、火事の現場で見付かったご遺体ですね」
「そうですね。野原さん、よろしくお願いします」
 涼子は丁寧に返し、ニコニコする野原と解剖室へ歩いて行った。
「犯人、どこからか見ているんでしょうか」
 晴真が声を潜めて言った。
「そうだな。行きつけのパン屋の店員を狙うくらいだしな」
「早く見つけないと……」
「ああ。傍迷惑なやつだ」
 被害が広がって行かない内に、本人に危害が加えられない内に。

 


 
 
 

 
 
 
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