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海外出張(2)急襲

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 島中が犯罪者やその関係者だというこの島には、色んな人種がいる。共通点は、犯罪者か、その関係者か、という点だ。
 中心部へ足を踏み入れたモトとセレも、周囲からそう見られているという事だ。
 まあ、間違いではない。殺人という禁忌は何度も犯しているのだから。
 ここで殺す相手は、馬場マリカという女だ。この女は、いわゆる魔性の女という存在だ。小学生の頃は、男友達をその気にさせてお菓子を万引きさせる程度だったが、それがだんだんエスカレートしていった。その結果、20代半ばの今は、複数の男に横領させてでも貢がせ、邪魔な人間を排除させ、あるいは自殺させた。
 弁護士も検察官もその術中にはまり、マリカは逮捕を逃れてこの島に逃げ込んだのだった。
 マリカの家は、そこそこ広く、こぎれいだ。この島のベスト10に入る優良物件ではないだろうか。
「広いなあ。庭でテニスできそう」
 セレが言うと、モトは面白くないような顔で、
「自分で稼いでない金で、いい気なもんだぜ」
と言った。
 マリカの情報は公安からのもので、2人はマリカの家から歩いて2分ほどの所の安い食堂に入り、食べながら観察していた。
 テーブルの9割が埋まっているほどの人気店だけあり、味もいいし、値段も安い。
 ただ、ボリュームが多く、セレには少々持て余し気味だった。
「さて、どうしようかな」
 今回、今の所は2人とも手ぶらだ。武器は現地調達となっていた。
「適当に外にも出てくるみたいだしな」
「そこを狙うか。でも、ボディーガードがいるんじゃないのか?」
「狙撃の方がやり易いか。
 家の中に侵入できないか」
 時間制限もある。まだモトとセレが乗っている事になっている豪華客船は、この先3つの港を経由し、ゴールであるシンガポールへ到着する。シンガポールへ着く前に、船にこっそりと戻らないといけないのだ。
「もう少し観察しないと、何とも言えんか」
 小声で相談してそう決める。
 そして、まずは近くから見てみようかと店を出た。
 ブラブラと通りを歩く。
 それは突然だった。
 前から歩いて来る2人組の男が、セレとモトに目を合わせながらナイフを抜く。
 後ろを見れば、やはり2人組の男がナイフを抜いていた。
「知り合いはいないんだがな」
 モトが苦笑を浮かべる。
「大人しく付いて来てもらおうか。お前らが日本から来たのはわかってる」
「残念だったな」
 言いながら4人はモトとセレを前後から挟んだ。
 モトとセレは視界の隅で頷き合い、同時に動いた。
 廻し蹴りで前後の2人の内の片方の意識をまずは刈り取る。そして残るもう片方に対峙した。
「この!」
 突き出されるナイフを避け、肘の外側に払って、手首をぐるりと回転させるようにすると、相手の手首を握り込める。そうして手首を強く折り曲げると、
「痛い!痛い痛い痛い!」
と言いながら簡単にナイフを手放す。
 モトはそこから、相手のみぞおちを狙って殴り掛かる。だが、相手もそれを肘でブロックし、パンチを放って来る。
 それをやはりブロックし、蹴りも織り交ぜて攻撃した。
 何度かの攻防の後、モトの拳が相手の顎に入り、即、続けて膝をみぞおちに叩き込む。
 相手は体を二つ折りにしてその場に崩れ落ちた。
 モトは背後のセレを見た。
 セレもどうにか、相手の腕を背中に捻り上げ、肘を外したところだった。
「何だ、お前ら」
 モトが脂汗をかいて苦しむ男の顎をつま先で突いて訊く。
「マ、マリカを、捕まえる気か」
 モトとセレは、チラリと目を見交わした。
「ハッ!隠したって無駄だ。お前らが来る事は、わかってたんだぜ。ラビットにかかれば、警察だって丸裸だ」
 痛そうにしながらも、笑う。
(ラビット?ハッカーか?)
(公安から漏れたのか?)
 ならばどうしたものかと考えていると、殺気が飛んで来た。
 男の体を盾にして、素早く殺気の飛んで来た方向を見た。
 拳銃を構える男が2人いた。
 と、モトが目を見開いた。
「及川?」
 男が怪訝な顔をしてモトをじっと見、セレもその及川と呼ばれた男とモトを見た。
 モトは呆然としていたが、もう1人が発砲し、銃弾が腕をかすめた事で我に返った。
「行け!」
 モトはセレを脇の路地に押しやり、セレは取り敢えず離脱する事になった。
 背後で数発発砲音がしたが、周囲の人間はなれているのか、大した騒ぎにもならず、セレは離脱に成功した。

 

 
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