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因果応報(3)幽霊ビルの惨劇

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 手抜き工事というのは、往々にして、何か起こってから発覚するものだ。そしてその時には、既に施工した会社は無くなっているという事も少なくない。
 その男もそういう1人だった。しかも計画的に、手抜き工事をして、適当な頃合いを見て、財産を隠して計画倒産したのだ。
 補償を求めても、差し押さえる金銭がない。泣き寝入りだ。
「酷いな」
 リクはその話を聞いてそう言ったが、モトは、溜め息混じりに、
「だが、よくある話だ」
と応えた。
 セレは、
「計画倒産というのが悪質極まりないな」
と言って、ふと、このマンションは大丈夫かと辺りを見回した。
 それに薬師は目をやって、自身も天井をチラリと見上げてから口を開いた。
「この元社長を殺せ。手段は問わんが、事故が望ましい」
 それを聞いて、セレ、モト、リクは考え始めたが、リクが、
「因果応報な死に方がいんじゃないかな」
と、ニヤリと笑った。

 そのビルは倒壊の恐れがあるとして、テナントは全て退去し、立入禁止となっている。その上、ビルの前の歩道も、通行できないように看板を設置して塞いであった。
 おかげでそこは変に暗く、「幽霊ビル」と、まだ死人も出ていないにも関わらず呼ばれていた。
 そのビルの近くで、セレとモトは待っていた。
 と、人通りも車も途絶えた市道の向こうから、ヘッドライトが近付いて来るのが見えた。
『行ったぜ』
 イヤホンからリクの軽い声がする。
「見えた。リク、上手くやれよ」
 モトが言うのに、
『了解、了解』
とリクは答える。

 金光は、カーオーディオでかけた演歌に合わせて機嫌よく歌いながら、夜道を走っていた。毎週水曜日は秘書だった愛人のところに行くので、帰りはいつも、この時間、この道を通る。
 こぶしをきかせて歌っていると、幽霊ビルが近付いて来た。
 自分の会社がかつて手掛けたビルだが、基礎もいい加減だし、耐震補強も弱い。自分なら絶対に入りたくないと思っていたと、チラリと思う。
 ビルの手前から、工事中の看板が立ち、歩道側へ寄るよう誘導されていたので、そちらに寄る。
 と、信号が赤に変わり、歩行者信号を高校生らしき少年が歩いて渡るので、信号無視するわけにもいかずに金光は車をとめた。
 高校生はゆっくりと金光の車の前を通り、その途中で、金光をチラリと見た。
 金光の車は、真っ赤なオープンカーだ。風が気持ちいいので、天気のいい日はまず幌を開けていた。
「フフン、カッコいいだろう」
 高校生に小声でそっと自慢してみる。
 3000万円は下らない自慢の車だ。
 案の定高校生は車を見、そして次に金光を見、憐れむような顔をした。
「ん?何だ?」
 通り過ぎるその少年を見送った金光は、ふと、何かを感じて上を見た。
 何かというのは、視界の隅にあった信号機の赤いランプが隠れたせいだと気付けたかどうか。
 倒壊寸前とされていたビルの壁面が剥がれて、コントのようにそのまま車道の方に倒れて来ていた。
「え?ああ!?わああああ!!」
 グングンとせまるビルの壁は、容赦なく金光の車を押しつぶした。

 横断歩道を渡り切ったセレは、轟音が収まると、まだ土煙の立つ事故現場に戻った。
「車は完全に潰れてる。金光は直撃を受けて即死」
 そうマイクに言うと、
『よし。撤収準備だ』
と言うモトと一緒に、車線を規制していたコーンなどを歩道に戻し、工事中の看板に近付くと、その表面に張り付けていた紙を剥がした。その下には、『倒壊の恐れがあるので危険。立入禁止』という看板があった。
 そして素早く先に停めていた車に乗ると、そこを立ち去った。
 ビルの壁面が倒れるように爆薬を仕掛けて待ち、リクが信号に侵入して金光の車を止めて、倒れて来た瓦礫で圧死させたのだ。
 危ないのを辛うじて支えていた部分の隙間に、少量の爆薬を仕込んだコンクリート片を挟み込み、爆破したもので、この瓦礫の山からそれがたまたま見つかる事もないだろう。
「終わったな」
『パトカーが向かってるぜ。次の角を左折しろ』
「了解」
 モトはリクのナビに従って車を住宅街に向かわせ、しばらくすると、けたたましいサイレンを鳴らしたパトカーがバックミラーの中を横切った。
「因果応報か」
「これであのビルも、本物の幽霊ビルになったな」
 モトが言うのに、セレもリクも思わず笑った。


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