踏んだり蹴ったり殴ったり

JUN

文字の大きさ
10 / 22

歓迎会

しおりを挟む
 松園と女はもの珍しそうに支社の中を見回しながら、ダンボール箱を積んだ部屋へ行った。
 箱に書いた文字を見ながら、開けていく。
 着替え、CD、靴、カバン、そんな個人のものを詰めた箱をより分けた後、他の物にも目を留めた。
「あ。このスタンド欲しいな。店に飾りたい」
「あら。このリトグラフ素敵」
 額に入れていたそれを見付けて女が声を上げた。
 付き合っていた頃、初めての誕生日プレゼントに松園が買ってくれたものだ。好きな作品で、何より、私が欲しがっていると察してくれたのがとても嬉しかった思い出の品なので、ここに飾る勇気がなくて置いていた物だ。
「それは――」
「ああ。飾ってないんだし、いいよね」
 松園がなんて事の無いように言う。
「――!」
「確かボクがあげたんだったよね。せっかく買ってあげたのに、がっかりだよ」
 松園は悲しそうに言う。
 私は、ギュッと拳を握った。
 どうして飾れないのか、理由を言うと女々しく思われそうで、言えない。まだ未練があるとか思われそうだ。
 いや、ないのか?さっき声をかけられた時、どきっとしたのはなぜだ?そもそも、荷物なんて捨てれば良かったのだ。自業自得だ。何で持って来たのだろう。
 何も言えず黙っている私をよそに、楽しそうに松園と女は持ち出すものを選別していく。
 箱を松園が持って、女と2人で玄関を出て行く。
 そこで松園は振り返った。
「璃々。結局璃々は、泣きもしないし、取り乱しもしないね。流石に強いよ。いや、璃々もボクを愛してはいなかったのかな。
 さよなら」
「お邪魔しました」
 女は満面の笑みを浮かべながらもしおらしい顔付きでそれを覆い隠し、2人で支社の前に止めたレンタカーに箱を積み込み、車に乗り込むと、去って行った。
 カーブの向こうへ車が消えると、私は上がり框に座り込んだ。
 俯いて、サンダル履きの足を見下ろす。
「フ。フ、フフ、フフフ」
 恐る恐る、原山先生が声をかけて来た。
「片山さん?」
「大丈夫です。ええ、大丈夫。
 あれ。おかしいですね。雨漏りかな」
 足の上に、ポタポタと水滴が落ちた。

 私の事情は、村の皆に知れ渡った。歓迎会を本堂で開いてくれたのだが、皆が、慰めてくれたり、憤慨してくれたりした。原山先生は、お金を取り返して慰謝料も取るべきだと、弁護士になったという兄弟に連絡してくれた。
「あはは。ありがとうございます。もう、お金はないし、リフォーム代は会社から借金しないといけないし、左遷になるしで、どうなることかと」
 私は笑って、元気づけてくれる女性陣と乾杯を繰り返した。
 飲んで、飲んで、飲んで、忘れよう。
 そして酔いを醒ますと言って縁側に座って庭を見ていると、隣に永世君が座った。
「きれいな庭ですね」
「墓石が並んでるのが見えるだけだけどな。それもほぼ真っ暗だし」
「う」
「無理すんな」
 いい声だ。
「はは。大丈夫大丈夫!大……」
 視界がぼやけた。
「見ないでください。声だけはいいのに」
「なんだそれは」
「松園、イケメンって呼ばれてたんですよ。だから、顔のいい人は、現在、苦手です。でも、永世君は顔を見なければ声が良くて惚れ惚れします」
 永世君が苦笑する気配がした。
「本当は、松園って優しいんですよ。真面目だし。
 私は昔から、可愛げがないとか、しっかりしてるから1人で大丈夫とか言われてたから。
 あは。あの人、私とは全然違って、頼りなげな美人でしたよね。
 うん。私が勝てるわけないわ」
 私は笑って、月を見上げた。満月だった。
「あれは、優しいとは言わない。自分勝手なやつだと思ったけどな。あの女も、なかなかしたたかだろう?人に寄りかかって、自分本位なタイプだ。
 片山さんは、可愛げがないとは思わない。お化けにビビって平気なフリしてたところとか」
「む」
「しっかりしてる?結構じゃないか。
 仏は全てを見ている」
「フフ」
「片山さんも。だから、仏の前で、強がらなくてもいい。怒るのが当然だし、泣いても喚いてもいい。
 泣いて、喚いて、スッキリしたら、前を向けばそれでいいんだ」
 月の輪郭がにじんで大きくなった。
「いい声だから、なんか、沁みる」
「これから読経に力が入りそうだ」
 私と永世君は、フフフと笑った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

処理中です...