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歓迎会
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松園と女はもの珍しそうに支社の中を見回しながら、ダンボール箱を積んだ部屋へ行った。
箱に書いた文字を見ながら、開けていく。
着替え、CD、靴、カバン、そんな個人のものを詰めた箱をより分けた後、他の物にも目を留めた。
「あ。このスタンド欲しいな。店に飾りたい」
「あら。このリトグラフ素敵」
額に入れていたそれを見付けて女が声を上げた。
付き合っていた頃、初めての誕生日プレゼントに松園が買ってくれたものだ。好きな作品で、何より、私が欲しがっていると察してくれたのがとても嬉しかった思い出の品なので、ここに飾る勇気がなくて置いていた物だ。
「それは――」
「ああ。飾ってないんだし、いいよね」
松園がなんて事の無いように言う。
「――!」
「確かボクがあげたんだったよね。せっかく買ってあげたのに、がっかりだよ」
松園は悲しそうに言う。
私は、ギュッと拳を握った。
どうして飾れないのか、理由を言うと女々しく思われそうで、言えない。まだ未練があるとか思われそうだ。
いや、ないのか?さっき声をかけられた時、どきっとしたのはなぜだ?そもそも、荷物なんて捨てれば良かったのだ。自業自得だ。何で持って来たのだろう。
何も言えず黙っている私をよそに、楽しそうに松園と女は持ち出すものを選別していく。
箱を松園が持って、女と2人で玄関を出て行く。
そこで松園は振り返った。
「璃々。結局璃々は、泣きもしないし、取り乱しもしないね。流石に強いよ。いや、璃々もボクを愛してはいなかったのかな。
さよなら」
「お邪魔しました」
女は満面の笑みを浮かべながらもしおらしい顔付きでそれを覆い隠し、2人で支社の前に止めたレンタカーに箱を積み込み、車に乗り込むと、去って行った。
カーブの向こうへ車が消えると、私は上がり框に座り込んだ。
俯いて、サンダル履きの足を見下ろす。
「フ。フ、フフ、フフフ」
恐る恐る、原山先生が声をかけて来た。
「片山さん?」
「大丈夫です。ええ、大丈夫。
あれ。おかしいですね。雨漏りかな」
足の上に、ポタポタと水滴が落ちた。
私の事情は、村の皆に知れ渡った。歓迎会を本堂で開いてくれたのだが、皆が、慰めてくれたり、憤慨してくれたりした。原山先生は、お金を取り返して慰謝料も取るべきだと、弁護士になったという兄弟に連絡してくれた。
「あはは。ありがとうございます。もう、お金はないし、リフォーム代は会社から借金しないといけないし、左遷になるしで、どうなることかと」
私は笑って、元気づけてくれる女性陣と乾杯を繰り返した。
飲んで、飲んで、飲んで、忘れよう。
そして酔いを醒ますと言って縁側に座って庭を見ていると、隣に永世君が座った。
「きれいな庭ですね」
「墓石が並んでるのが見えるだけだけどな。それもほぼ真っ暗だし」
「う」
「無理すんな」
いい声だ。
「はは。大丈夫大丈夫!大……」
視界がぼやけた。
「見ないでください。声だけはいいのに」
「なんだそれは」
「松園、イケメンって呼ばれてたんですよ。だから、顔のいい人は、現在、苦手です。でも、永世君は顔を見なければ声が良くて惚れ惚れします」
永世君が苦笑する気配がした。
「本当は、松園って優しいんですよ。真面目だし。
私は昔から、可愛げがないとか、しっかりしてるから1人で大丈夫とか言われてたから。
あは。あの人、私とは全然違って、頼りなげな美人でしたよね。
うん。私が勝てるわけないわ」
私は笑って、月を見上げた。満月だった。
「あれは、優しいとは言わない。自分勝手なやつだと思ったけどな。あの女も、なかなかしたたかだろう?人に寄りかかって、自分本位なタイプだ。
片山さんは、可愛げがないとは思わない。お化けにビビって平気なフリしてたところとか」
「む」
「しっかりしてる?結構じゃないか。
仏は全てを見ている」
「フフ」
「片山さんも。だから、仏の前で、強がらなくてもいい。怒るのが当然だし、泣いても喚いてもいい。
泣いて、喚いて、スッキリしたら、前を向けばそれでいいんだ」
月の輪郭がにじんで大きくなった。
「いい声だから、なんか、沁みる」
「これから読経に力が入りそうだ」
私と永世君は、フフフと笑った。
箱に書いた文字を見ながら、開けていく。
着替え、CD、靴、カバン、そんな個人のものを詰めた箱をより分けた後、他の物にも目を留めた。
「あ。このスタンド欲しいな。店に飾りたい」
「あら。このリトグラフ素敵」
額に入れていたそれを見付けて女が声を上げた。
付き合っていた頃、初めての誕生日プレゼントに松園が買ってくれたものだ。好きな作品で、何より、私が欲しがっていると察してくれたのがとても嬉しかった思い出の品なので、ここに飾る勇気がなくて置いていた物だ。
「それは――」
「ああ。飾ってないんだし、いいよね」
松園がなんて事の無いように言う。
「――!」
「確かボクがあげたんだったよね。せっかく買ってあげたのに、がっかりだよ」
松園は悲しそうに言う。
私は、ギュッと拳を握った。
どうして飾れないのか、理由を言うと女々しく思われそうで、言えない。まだ未練があるとか思われそうだ。
いや、ないのか?さっき声をかけられた時、どきっとしたのはなぜだ?そもそも、荷物なんて捨てれば良かったのだ。自業自得だ。何で持って来たのだろう。
何も言えず黙っている私をよそに、楽しそうに松園と女は持ち出すものを選別していく。
箱を松園が持って、女と2人で玄関を出て行く。
そこで松園は振り返った。
「璃々。結局璃々は、泣きもしないし、取り乱しもしないね。流石に強いよ。いや、璃々もボクを愛してはいなかったのかな。
さよなら」
「お邪魔しました」
女は満面の笑みを浮かべながらもしおらしい顔付きでそれを覆い隠し、2人で支社の前に止めたレンタカーに箱を積み込み、車に乗り込むと、去って行った。
カーブの向こうへ車が消えると、私は上がり框に座り込んだ。
俯いて、サンダル履きの足を見下ろす。
「フ。フ、フフ、フフフ」
恐る恐る、原山先生が声をかけて来た。
「片山さん?」
「大丈夫です。ええ、大丈夫。
あれ。おかしいですね。雨漏りかな」
足の上に、ポタポタと水滴が落ちた。
私の事情は、村の皆に知れ渡った。歓迎会を本堂で開いてくれたのだが、皆が、慰めてくれたり、憤慨してくれたりした。原山先生は、お金を取り返して慰謝料も取るべきだと、弁護士になったという兄弟に連絡してくれた。
「あはは。ありがとうございます。もう、お金はないし、リフォーム代は会社から借金しないといけないし、左遷になるしで、どうなることかと」
私は笑って、元気づけてくれる女性陣と乾杯を繰り返した。
飲んで、飲んで、飲んで、忘れよう。
そして酔いを醒ますと言って縁側に座って庭を見ていると、隣に永世君が座った。
「きれいな庭ですね」
「墓石が並んでるのが見えるだけだけどな。それもほぼ真っ暗だし」
「う」
「無理すんな」
いい声だ。
「はは。大丈夫大丈夫!大……」
視界がぼやけた。
「見ないでください。声だけはいいのに」
「なんだそれは」
「松園、イケメンって呼ばれてたんですよ。だから、顔のいい人は、現在、苦手です。でも、永世君は顔を見なければ声が良くて惚れ惚れします」
永世君が苦笑する気配がした。
「本当は、松園って優しいんですよ。真面目だし。
私は昔から、可愛げがないとか、しっかりしてるから1人で大丈夫とか言われてたから。
あは。あの人、私とは全然違って、頼りなげな美人でしたよね。
うん。私が勝てるわけないわ」
私は笑って、月を見上げた。満月だった。
「あれは、優しいとは言わない。自分勝手なやつだと思ったけどな。あの女も、なかなかしたたかだろう?人に寄りかかって、自分本位なタイプだ。
片山さんは、可愛げがないとは思わない。お化けにビビって平気なフリしてたところとか」
「む」
「しっかりしてる?結構じゃないか。
仏は全てを見ている」
「フフ」
「片山さんも。だから、仏の前で、強がらなくてもいい。怒るのが当然だし、泣いても喚いてもいい。
泣いて、喚いて、スッキリしたら、前を向けばそれでいいんだ」
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「いい声だから、なんか、沁みる」
「これから読経に力が入りそうだ」
私と永世君は、フフフと笑った。
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