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うろ
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それは、ギターのピックだった。それと、どこかの神社のお守りと。
「ここ、音楽の神様を、祀ってあるところだ。そうだった。兄貴が死んだ山にあるんだった」
永世君の背中を叩いた時、ポツンと雨粒が落ちて来た。
雨は大雨になり、滝のように雨水が流れた。風も強く、屋根が吹き飛ぶんじゃないかと思うくらいに吹き荒れた。
夜中中そんな風だったので、心配でおちおち寝られない。
と思っていたのに、いつの間にか眠っていたらしい。
翌朝、いつものように読経の声で目が覚めた。
永世君は、スッキリした顔をしていた。
お兄さんは心配から反対しながらも、応援しようと、ピックを買い、音楽の神様にお参りもしてくれたらしい。
まあ、その帰りに遭難したというのは、永世君にとっては辛い事だろうが。
そう思い、心配していたのだが、その心配は無用のものだったらしい。
「兄貴が夢に出て来てな。『やっと渡せた』って、笑うんだよ」
そう、永世君は笑って言った。
「怒ってなかったのね」
ほっとしたのだが、永世君は首を振る。
「いや。自然体に生きろってさ。いつまでそこで立ち止まってるつもりだって」
「へえ。お兄さん、いい人ですねえ」
「ああ。自慢の兄貴だよ」
青空に目を向ける。
昨日の天気が嘘のような空だ。
「良かったです。
ところで、そうなると、やっぱりあのうろは……」
私は声を潜めて言い、永世君共々、頂上の木に目を向けた。
「異世界への扉?」
「今朝行ってみたが、何ともなかったけどな」
「時々、何かあるのかも」
2人でじっと見ていたが、そっと視線を外す。
「言わない方がいいな」
「そうね。騒がれて人が来るのは、ちょっと」
私達は目を合わせて頷いた。
それから、掃除に追われ、周囲を見回り、日常が戻って来る。
戻って来たある日、夏子から大量のアルコールと食べ物が届き、その後本人がやって来た。
「無事に、3000万円と共同名義の貯金の半分は取り返せたの?」
「ええ。原山先生の紹介してくれた弁護士のおかげだわ」
チーンと焼酎のグラスを合わせる。
「慰謝料も貰ったんでしょうね」
「それはもういいかなって」
「なんでよ。腹が立つでしょう?」
「まあね。でも、どうでもよくなったのよねえ」
笑って、ぐびりと焼酎を飲む。
夏子はどこか不満顔だ。
「人がいいんだから。あんな勝手で最低なやつ、取れるだけ取ればいいのに」
夏子の方が怒っている。
「夏子がそこまで怒ってくれるから、気が済んだわ」
笑うと、外からセミの声がした。
夏が近いようだ。
「まあ、ね。
で、どう」
「何が?」
「隣のイケメン僧侶よ」
「ああ。まあ、相変わらずいい声で、最高の目覚まし時計ね。
あと、顔も見慣れたわ」
夏子はニヤリとした。
「そう。フフ」
「見慣れただけ。何も言ってないでしょう?」
「あら。私も何も言ってないけど?」
私は肩を竦め、夏子が差し出すグラスのもう一度グラスをぶつけた。
そうして気持ちよく飲んでいると、買い物から帰って来たらしい永世君が窓から見えた。
「あ、おおーい!」
いきなり夏子が声を張り上げ、私も永世君もギョッとする。
「こんにちは!一緒にどうですか!?」
「ちょ、ちょっと、夏子!」
「いいじゃない、いいじゃない。目覚ましにもメンテナンスが必要じゃない」
永世君は何を思ったのかわからないが、苦笑を浮かべ、そのまま支社へ入って来た。そして、3人で飲み始めた。
「ん?これは」
見た事のある形に荷物に、目が行く。
「ああ。ギターだ」
「また弾くの。ロックコンサートとか本堂でするの」
「フォークギターだ。エレキじゃない」
夏子がニタニタとしているので、寺を継ぐ前はメジャーデビュー直前のバンドにいたとだけ言った。
「ふおおお!凄いじゃない!
へええ。まあ、似合うかもね」
「ゴシックだって」
「ゴシック……チョンマゲ?」
永世君はむせて、
「流石友達だな。発想が同じだ」
と呟いた。
「ああ、幸せだあ。ここに来て良かったぁ」
「左遷万歳ね」
3人で楽しく笑っていた。
が、人生、楽しい事ばかりは起こらない。来客が過去を運んで来た。
「ここ、音楽の神様を、祀ってあるところだ。そうだった。兄貴が死んだ山にあるんだった」
永世君の背中を叩いた時、ポツンと雨粒が落ちて来た。
雨は大雨になり、滝のように雨水が流れた。風も強く、屋根が吹き飛ぶんじゃないかと思うくらいに吹き荒れた。
夜中中そんな風だったので、心配でおちおち寝られない。
と思っていたのに、いつの間にか眠っていたらしい。
翌朝、いつものように読経の声で目が覚めた。
永世君は、スッキリした顔をしていた。
お兄さんは心配から反対しながらも、応援しようと、ピックを買い、音楽の神様にお参りもしてくれたらしい。
まあ、その帰りに遭難したというのは、永世君にとっては辛い事だろうが。
そう思い、心配していたのだが、その心配は無用のものだったらしい。
「兄貴が夢に出て来てな。『やっと渡せた』って、笑うんだよ」
そう、永世君は笑って言った。
「怒ってなかったのね」
ほっとしたのだが、永世君は首を振る。
「いや。自然体に生きろってさ。いつまでそこで立ち止まってるつもりだって」
「へえ。お兄さん、いい人ですねえ」
「ああ。自慢の兄貴だよ」
青空に目を向ける。
昨日の天気が嘘のような空だ。
「良かったです。
ところで、そうなると、やっぱりあのうろは……」
私は声を潜めて言い、永世君共々、頂上の木に目を向けた。
「異世界への扉?」
「今朝行ってみたが、何ともなかったけどな」
「時々、何かあるのかも」
2人でじっと見ていたが、そっと視線を外す。
「言わない方がいいな」
「そうね。騒がれて人が来るのは、ちょっと」
私達は目を合わせて頷いた。
それから、掃除に追われ、周囲を見回り、日常が戻って来る。
戻って来たある日、夏子から大量のアルコールと食べ物が届き、その後本人がやって来た。
「無事に、3000万円と共同名義の貯金の半分は取り返せたの?」
「ええ。原山先生の紹介してくれた弁護士のおかげだわ」
チーンと焼酎のグラスを合わせる。
「慰謝料も貰ったんでしょうね」
「それはもういいかなって」
「なんでよ。腹が立つでしょう?」
「まあね。でも、どうでもよくなったのよねえ」
笑って、ぐびりと焼酎を飲む。
夏子はどこか不満顔だ。
「人がいいんだから。あんな勝手で最低なやつ、取れるだけ取ればいいのに」
夏子の方が怒っている。
「夏子がそこまで怒ってくれるから、気が済んだわ」
笑うと、外からセミの声がした。
夏が近いようだ。
「まあ、ね。
で、どう」
「何が?」
「隣のイケメン僧侶よ」
「ああ。まあ、相変わらずいい声で、最高の目覚まし時計ね。
あと、顔も見慣れたわ」
夏子はニヤリとした。
「そう。フフ」
「見慣れただけ。何も言ってないでしょう?」
「あら。私も何も言ってないけど?」
私は肩を竦め、夏子が差し出すグラスのもう一度グラスをぶつけた。
そうして気持ちよく飲んでいると、買い物から帰って来たらしい永世君が窓から見えた。
「あ、おおーい!」
いきなり夏子が声を張り上げ、私も永世君もギョッとする。
「こんにちは!一緒にどうですか!?」
「ちょ、ちょっと、夏子!」
「いいじゃない、いいじゃない。目覚ましにもメンテナンスが必要じゃない」
永世君は何を思ったのかわからないが、苦笑を浮かべ、そのまま支社へ入って来た。そして、3人で飲み始めた。
「ん?これは」
見た事のある形に荷物に、目が行く。
「ああ。ギターだ」
「また弾くの。ロックコンサートとか本堂でするの」
「フォークギターだ。エレキじゃない」
夏子がニタニタとしているので、寺を継ぐ前はメジャーデビュー直前のバンドにいたとだけ言った。
「ふおおお!凄いじゃない!
へええ。まあ、似合うかもね」
「ゴシックだって」
「ゴシック……チョンマゲ?」
永世君はむせて、
「流石友達だな。発想が同じだ」
と呟いた。
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