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シェヘラザード(3)イカの誘い

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 まずは漁師に話を聞いてみようと、港へ行く。
 だが、朝の水揚げ時かと思いきや、閑散としていた。どういうことかとその辺の人を捕まえて聞いてみると、思わぬ答えが返って来る。
「怪物?」
「そう。怪物が出るから、危なくて漁なんて出られない。せいぜい陸から釣り糸を垂らす程度だね。だから漁師は皆、よそへ働きに出るか、転職して見習いの安い給料からやり直すか。それもできなかったやつらは、海賊行為をやるかだな。これも、いつ怪物にやられるかわからないだろうに」
「怪物・・・。それ、どんなヤツなんですか」
「ばかみたいに大きくて、ヌルヌルで、足がたくさんついていて、黒い毒を吐き出すらしいぞ。悪魔みたいなやつだな。坊主みたいなちびっこ、丸呑みにされるから気を付けろよ。はははっ」
 トビーはムッと眉を寄せたが、気を静めた。
「悪魔か」
 しかし3人は、何となく、思い当たるものがあった。
「それって、タコかイカ?勿論、バカでかいんだろうけど」
 貴音が言うのに、理生が、
「ダイオウイカとかは十分大きいけどね。そういうものかも」
と言うと、ミハイルは、
「タコだったら、山ほどたこ焼き食べ放題だよね」
と言う。
「タコ焼き?」
「外はかりっ、中はとろっで、タコの歯ごたえが最高。ソース、マヨネーズ、青のり、かつお節をかけて、火傷しそうなあつあつを・・・」
「ぼくはポン酢と山もりのネギも好きだな」
「ボクは、あっさり醤油だね」
「何にせよ、最高なんだよ」
 トビーが、ゴクリと喉を鳴らす。
「いや、イカかも」
「イカならイカ焼きだよ」
「姿焼きのイカ焼きもいいけど、大阪のイカ焼きも、これがまた。薄いもちもちの生地にイカゲソを入れて焼いてあるんだ。卵入りならデラバン。大阪にリサイタルに行ったら、大概食べるな」
「くああ、今度お土産に買ってきて、タカネ」
「それを持って電車に乗ったら、匂いがたまらないんだよ。テロだな、あれ」
 トビーは、わからないまでも想像して、かなり美味しい物らしいと思った。
「その怪物を退治できないかな。海賊問題も片付くし、美味しいものも食べられる」
 どちらが主目的か、わかったものではないが。
「そいつを捕獲ーーいや、討伐しよう」
 意見はまとまった。

 怪物について聞いて回ると、段々と正体がわかってくる。
「イカだな」
「イカだね」
「イカ焼き、イカリングフライ、刺身、ソテー、塩焼き、照り焼き、一夜干し」
「天ぷら、イカ焼きそば、お好み焼きのイカ玉」
「八宝菜、中華炒め、カレー炒め」
「もういいよ、お腹空くから。それより捕獲方法が先だろ」
 1番年下のトビーが1番苦労してきたからか、1番しっかりしていた。
「船を転覆させるほどか。今まで、釣りあげようとしたり、網で絡めようとしたり、銛で突こうとしたりはしたらしいな」
 真剣になる。
「カジキマグロってどうやって釣るんだっけ」
「電動リールと人力だよ。ちょっと無理かな」
「クジラは?」
「銛とか、追い込み漁ってあったっけな」
「だめかなあ。じゃあ、クロマグロは?」
「これはもっと大きい・・・そうか。電気ショックか」
 3人の頭の中には、テレビで時々やるマグロ漁師の特別番組が流れていた。
「いけるかな?」
「電気ってあるの?」
「電気・・・発電の仕方って?」
「電池もバッテリーもないな。
 ん?バッテリー?車に付いてるやつで無理かな。車はもう1度しまえば元に戻るし」
「・・・外してみるか」
 危険な実験が、スタートしようとしていた。









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