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強盗強要(3)強襲
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三津屋は車を別荘に着けると、転がるように飛び出した。そして、鞄を掴んで中へと急ぐ。
「茜! 博、どこだ!?」
奥のリビングのソファに、異母弟の博はいた。そばには、妹の茜もいた。
「茜!」
博は笑いながら、茜の首を突き付けたナイフでツンツンと突く。
それでも茜が何も言わないのは、難病で体の自由が利かず、喋る事もできないからだ。
「やめろ!」
外で車の停まる音がし、少しすると、男が入って来た。
監視していたやつだ。
「人質はあの2人組に連れて行かれた」
博は三津屋に訊いた。
「話したか?」
「いいや!」
それで、頷く。
監視者が鞄を持って博の所に行く。
「さて。次は、死んでもらおうか」
三津屋はそれでピクリと肩を揺らしたが、
「本当にそれで、茜の治療は続けてくれるんだな」
と言う。
「ああ」
誰でも、「嘘だ」と思うような顔と声音だ。
それでも三津屋は、従うしかないと思っていた。
「そこにロープがあるだろ。それで首を吊れ。そこの梁からな」
ダイニングの天井の太い梁からロープがぶら下がっており、イスまで丁寧に置かれていた。
三津屋はそれを見、茜と博を見、溜め息をついて、イスに足をかけた。
その時ドアが開いて、雅美が入って来た。
「こんにちは」
「え、何だ」
博が戸惑ったような顔をし、監視者が「あ」という顔をする。
しかしその時には、背後の窓を叩き割って湊が踊り込んでおり、博と監視者は、驚いて腰を浮かしていた。
湊が博のナイフを蹴り飛ばすと同時に、雅美は監視者にかかと落としを見舞っていた。そして、まだ呆然とした博を殴り、腕を背後に捩じり上げる。
そこへ、ビニールの結束バンドを手に駈け込んで来た涼真が、博の両手を背中で結束する。
それでようやく、博は声が出るようになったらしい。
「何だお前ら!」
「柳内警備保障秘書室別室」
湊が言い、玄関から弁護士が走り込んで来て、へたり込む。
「ああ、健人君!? 茜ちゃんも! 無事で良かった」
「先生!」
三津屋は彼のそばに駆け寄って、まずは謝った。
「すみません! すみません!」
そして、茜の所に駆け寄り、無事を確認して安堵の息をついた。
「さて。大体の所はわかっているが、説明してもらおうか」
湊が言うと、博がプイと顔を背ける。
かかと落としをくらって失神していた監視者は、気が付くと後ろ手に拘束されているので騒ぎかけたが、失敗を悟ったらしく、ふてくされたようにそっぽを向いた。
口を開いたのは、弁護士だった。
「そこの彼は三津屋家の二男で博君。この健人君と茜ちゃんは長男と長女で、その、非嫡子になります。
先日三津屋氏がなくなりまして、今夜遺言状を開示することになっていたのですが……」
次は、三津屋が言った。
「遺産は弟のものになると、義母からも聞いています。でも、妹の治療費だけは何とかしてもらえないかとお願いしました。そうしたら、先生を襲って鞄ごと遺言状を奪え。それで、茜の面倒は一生見てやると」
弁護士は頭を振った。
「そんなバカな話はないよ。遺言状は今夜公開する予定だったが、全てを本妻の子だからって博君に渡すなんて事にはならないんだよ。
むしろこんな事をさせて遺言状を奪わせたのは、博君が納得できかねる内容だと知っていたせいかな」
「それに、あなたに自殺させた後、茜さんも殺すつもりだったんじゃないのかしら? それこそ、あなたが茜さんを殺して自殺したように」
雅美が言い、分かり易く博は舌打ちし、監視者は狼狽えた。
警察に知らせて表で待っていた悠花が、警察官を伴って入って来る。
「警察が来ましたよ!」
後日、弁護士と三津屋から詳しい話を聞いた。
三津屋氏は遺言で、茜の医療費をずっと出すようにと言っていたらしい。その上、いい加減な博ではなく健人に会社を継がせようとしており、それを聞いていた本妻がそれを博にもらしたそうだ。
それで博は健人に嘘の内容を教え、茜の事で脅し、医療費と引き換えにと遺言状の破棄を謀った。遺言状に母の不貞の事を書かれていて、それを知られたくないからという理由だったそうだ。
そして仲間に健人を監視させて、茜を監禁したうえで、警察などに駆け込めないようにして実行を迫った。
「怖いなあ」
悠花がしみじみと言う。
「遺産か。うちはそんなものないから安心だな」
涼真が言う。
「揉める元ね」
雅美も言って、頷く。
「それより、皆さんも無事で何よりですよ」
錦織が言うのに、湊が思い出す。
「そうだ。
あの時、涼真までついて行く必要はあったのか?」
「だって、心細いかなって」
「説明する人間を残しておこうとか思わないのか」
「だから電話で知らせたじゃないか、湊に」
「危うく消されるところだったんだぞ」
「ははは。上手く助けてくれたよな。湊と雅美さんに感謝だな」
「驚きましたよ、本当に」
「……だめだ。わかってない」
雅美と錦織は、クスクスと笑った。
「今回は人のいい犯人だったから助かりましたが、確かに、考えてみるべきでしょうかね」
「ま、まあまあ。今日の所はめでたく終わった事で」
「そ、そうそう。ね」
そそくさと、涼真と悠花がコップと缶のノンアルコールビールを持って来る。
雅美は笑い、湊は嘆息し、各々コップを持った。
「お疲れ様でした」
「乾杯!」
別室のメンバーの息は、合っているようだった。
「茜! 博、どこだ!?」
奥のリビングのソファに、異母弟の博はいた。そばには、妹の茜もいた。
「茜!」
博は笑いながら、茜の首を突き付けたナイフでツンツンと突く。
それでも茜が何も言わないのは、難病で体の自由が利かず、喋る事もできないからだ。
「やめろ!」
外で車の停まる音がし、少しすると、男が入って来た。
監視していたやつだ。
「人質はあの2人組に連れて行かれた」
博は三津屋に訊いた。
「話したか?」
「いいや!」
それで、頷く。
監視者が鞄を持って博の所に行く。
「さて。次は、死んでもらおうか」
三津屋はそれでピクリと肩を揺らしたが、
「本当にそれで、茜の治療は続けてくれるんだな」
と言う。
「ああ」
誰でも、「嘘だ」と思うような顔と声音だ。
それでも三津屋は、従うしかないと思っていた。
「そこにロープがあるだろ。それで首を吊れ。そこの梁からな」
ダイニングの天井の太い梁からロープがぶら下がっており、イスまで丁寧に置かれていた。
三津屋はそれを見、茜と博を見、溜め息をついて、イスに足をかけた。
その時ドアが開いて、雅美が入って来た。
「こんにちは」
「え、何だ」
博が戸惑ったような顔をし、監視者が「あ」という顔をする。
しかしその時には、背後の窓を叩き割って湊が踊り込んでおり、博と監視者は、驚いて腰を浮かしていた。
湊が博のナイフを蹴り飛ばすと同時に、雅美は監視者にかかと落としを見舞っていた。そして、まだ呆然とした博を殴り、腕を背後に捩じり上げる。
そこへ、ビニールの結束バンドを手に駈け込んで来た涼真が、博の両手を背中で結束する。
それでようやく、博は声が出るようになったらしい。
「何だお前ら!」
「柳内警備保障秘書室別室」
湊が言い、玄関から弁護士が走り込んで来て、へたり込む。
「ああ、健人君!? 茜ちゃんも! 無事で良かった」
「先生!」
三津屋は彼のそばに駆け寄って、まずは謝った。
「すみません! すみません!」
そして、茜の所に駆け寄り、無事を確認して安堵の息をついた。
「さて。大体の所はわかっているが、説明してもらおうか」
湊が言うと、博がプイと顔を背ける。
かかと落としをくらって失神していた監視者は、気が付くと後ろ手に拘束されているので騒ぎかけたが、失敗を悟ったらしく、ふてくされたようにそっぽを向いた。
口を開いたのは、弁護士だった。
「そこの彼は三津屋家の二男で博君。この健人君と茜ちゃんは長男と長女で、その、非嫡子になります。
先日三津屋氏がなくなりまして、今夜遺言状を開示することになっていたのですが……」
次は、三津屋が言った。
「遺産は弟のものになると、義母からも聞いています。でも、妹の治療費だけは何とかしてもらえないかとお願いしました。そうしたら、先生を襲って鞄ごと遺言状を奪え。それで、茜の面倒は一生見てやると」
弁護士は頭を振った。
「そんなバカな話はないよ。遺言状は今夜公開する予定だったが、全てを本妻の子だからって博君に渡すなんて事にはならないんだよ。
むしろこんな事をさせて遺言状を奪わせたのは、博君が納得できかねる内容だと知っていたせいかな」
「それに、あなたに自殺させた後、茜さんも殺すつもりだったんじゃないのかしら? それこそ、あなたが茜さんを殺して自殺したように」
雅美が言い、分かり易く博は舌打ちし、監視者は狼狽えた。
警察に知らせて表で待っていた悠花が、警察官を伴って入って来る。
「警察が来ましたよ!」
後日、弁護士と三津屋から詳しい話を聞いた。
三津屋氏は遺言で、茜の医療費をずっと出すようにと言っていたらしい。その上、いい加減な博ではなく健人に会社を継がせようとしており、それを聞いていた本妻がそれを博にもらしたそうだ。
それで博は健人に嘘の内容を教え、茜の事で脅し、医療費と引き換えにと遺言状の破棄を謀った。遺言状に母の不貞の事を書かれていて、それを知られたくないからという理由だったそうだ。
そして仲間に健人を監視させて、茜を監禁したうえで、警察などに駆け込めないようにして実行を迫った。
「怖いなあ」
悠花がしみじみと言う。
「遺産か。うちはそんなものないから安心だな」
涼真が言う。
「揉める元ね」
雅美も言って、頷く。
「それより、皆さんも無事で何よりですよ」
錦織が言うのに、湊が思い出す。
「そうだ。
あの時、涼真までついて行く必要はあったのか?」
「だって、心細いかなって」
「説明する人間を残しておこうとか思わないのか」
「だから電話で知らせたじゃないか、湊に」
「危うく消されるところだったんだぞ」
「ははは。上手く助けてくれたよな。湊と雅美さんに感謝だな」
「驚きましたよ、本当に」
「……だめだ。わかってない」
雅美と錦織は、クスクスと笑った。
「今回は人のいい犯人だったから助かりましたが、確かに、考えてみるべきでしょうかね」
「ま、まあまあ。今日の所はめでたく終わった事で」
「そ、そうそう。ね」
そそくさと、涼真と悠花がコップと缶のノンアルコールビールを持って来る。
雅美は笑い、湊は嘆息し、各々コップを持った。
「お疲れ様でした」
「乾杯!」
別室のメンバーの息は、合っているようだった。
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