銀の花と銀の月

JUN

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高等学校

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 この世界には万物に魔素が宿る。その魔素を取り入れたものが魔力で、蓄積し、任意に放出できる者が魔術師である。
 魔術士の数は多くはない。しかも、力の強い魔術師は貴族が囲い、取り込むので、いつしか魔術師は貴族階級の者に発現することがほとんどになっている。
 成人の18歳は神に成人まで生きられた事を報告し、感謝する祝いがあるが、6歳の時にも、似たような行事がある。一応死にやすい時期を無事に乗り切って成長した事を神に報告し、感謝するという儀式だ。そしてこの時、魔術師の才能があるかどうか、テストする事になっている。
 大抵はその時に判明するのだが、まれに、弾みで魔術が発動して、先に判明する事がある。
 そう。ちょうどユーリのように。
 そんな魔術師の才能のある者は制御を覚えるために、15歳から18歳まで高等学校へ通うのが義務となっている。
 そしてこの高等学校は、貴族の子供も、貴族として最低限の事を学ぶために通うことが義務となっていた。
 あとは、裕福な平民の子供も通うことができる。
「ユーリが首席だと?平民のくせに!しかも花街の子のクセに!」
 同級生の、第三皇子であるナジムが地団駄を踏む。
 帝国は一応売春を禁じている。その中で唯一許された花街がセレムだ。このセレムで太夫になるには、貴族並みの教養が必要になる。特に、格の高い銀花楼では尚更で、ユーリも物心の付いた頃から、読み書き、計算、護身術、マナー、芸事、ダンス、外国語などを教え込まれてきた。
 なので、高等学校で教えられる事くらいは、入学前に叩き込まれている。
「おお、悔しそうだぞ」
 それを見ながら、カイが面白そうに言った。
 カイ・サ・レント。明るく単純でもある、男爵家の三男だ。魔術の才能は無く、剣が好きな事もあり、選択科目は武術をとっている。
「一応ナジム殿下は、入学前までは天才魔術師って呼ばれてたらしいよ」
 ジン・ホランド。おっとりとしていて食いしん坊な、大商会の二男だ。魔術の才能は無く、選択科目は武術をとっている。
「おい、刺激するなよ。全く」
 溜め息をついたのは、キリー・サ・ライト。頭がよく、クールに見えて面倒見がいい、宰相の二男だ。魔術の才能はなく、武術もまあまあ程度なために次席に甘んじている。
 この4人は入学以来仲が良くなったグループだ。以来何かと一緒にいる。
「でもさ。ユーリには帝国魔術団からスカウトが来たじゃないか。ユーリの魔術関連の成績は、首席ってだけに留まらず、歴史に残りそうだもんね。
 でも、殿下としては、帝国魔術団に1位の成績で入団したかったんだろうね」
 ジンが気の毒そうに言うのに、ユーリは面倒臭そうに答えた。
「俺は別に、魔術研究とか魔道具開発ができれば、どこでもいいんだけどなあ。それに一応、俺はセレムで過ごす事になってたからなあ」
「ああ。シラルさんから、受けろっていわれたんだって?」
 カイが言う。
「ま、当然かな。帝国魔術団は、エリート中のエリートだ。魔術師で天才と言われるなら目指さない方がおかしいだろう。
 おい、ユーリ。お前がおかしいんだぞ。面倒臭いとか言うな」
 キリーがそう言って、ユーリを揺らした。
「でもなあ。権力争いとか派閥とか面倒臭くないか?それに周りは貴族ばっかりだしな。ここ以上に露骨に嫌がらせされそうじゃないか」
 それにキリーが、
「嫌がらせを、平気な顔で嫌がらせ返しして来た奴がよく言う」
と呆れ、カイとジンが吹き出した。
 成績はどうこうできなくとも、授業の準備や食堂の座る場所や順番、掃除、行事など。細々としたところで「平民が」と言われ続け、忖度しろと求められて来たのだ。
 それにカチンと来て、行事でも何でも頑張ってしまったのも否めない。
「そういう意味では、あいつって成績アップに協力してくれたんだな」
 そういうユーリに、
「間違えても礼を言ったりするんじゃないぞ、おい」
とキリーが念を押し、カイとジンは笑い転げた。
「楽しかったけど、もう卒業かあ」
 ジンがしみじみと言った。
 ジンは実家の手伝いをする事になっている。元々、辺境や世界中に行商に行って美味しい物を食べたいというのがジンの夢で、そのために身を守る術を身に着けたいという意味もあって、武術を選択し、弓、ナイフ、罠や鍵の解除を専攻したのだ。
「早いなあ。出世頭はキリーとユーリになりそうだな」
 カイは自領の領兵になる事にしており、騎士となって独立することになっている。
「フン。私は官僚になるが、兄がいるしな。宰相は回って来ないだろう」
 キリーはそう言った。
「俺もわからないよ?あんまり面倒なら、辞めるかも」
 ユーリは笑ってそう言い、キリーが嘆息し、カイとジンは笑った。
 いつまでも続くと思われた学生生活も、もう終わりだ。
 そこで記念に、流行っている卒業旅行に行く事になっていた。キリーは家と仕事の事情で参加できないというので、3人ならばということで、魔獣狩りをしてキャンプをする計画を立てている。
「キリー、帰って来たら、魔獣の肉、差し入れるからな。楽しみにしてろよ」
 カイがニカッと笑うと、キリーは、
「気を付けて行けよ、お前ら」
と言いながら、
(卒業旅行って、確か観光旅行じゃなかったのかな)
と思っていた。
 これが運命の卒業旅行になるとは、誰も予想だにしていなかったのだった。



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