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面影(2)刺客
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慶仁は哲之助に、問い合わせの事を話した。
「何か、変だよな」
「ううーん。まあ、頼藤家だから、縁をつないでおきたいと思って、養子なり婿なりの話が出るのは普通だとは思うけど」
哲之助は、考えながら言った。
「でも、婿って年じゃないし、跡継ぎのいない家が養子に、というには同時に三家もだぞ。不自然だ。
しかも、三つ共、話を訊くだけ訊いてピタッとおしまいだ。その上、ハッキリとどこの家と言いもしなかったらしいしな」
「そう言われると、確かにな」
ううむと二人して考え込み、団子をパクパクと平らげる。
道場からの帰り道、供侍の青山が今日はいないのをいいことに、茶屋に寄り道をしているのである。今日はよその道場に出向いて交流試合をしたので、青山を付けていないのだ。
「用心した方がいいな」
「ん。そうだな」
「取り敢えず、出かける時は一人はやめとけ」
「ん……」
「こういう寄り道もどうかと思う」
「……」
「はあ。付き合うから、せめて供侍はつけろ」
「ん……わかった……」
それで、慶仁と哲之助は連れ立って家に向かった。
暮れかけた道は、やや田舎の方である事もあって、人通りが少なかった。
不意に、前方から傘を被った侍が三人現れて、無言で近寄って来る。そのままこちらも無言ですれ違って行こうとした時、こいくちを切る音と殺気を感じ、距離を取る。
偶然居合わせた通行人が、悲鳴を上げた。
「誰だ」
「頼藤慶仁様。お覚悟を」
「慶仁。言う気は無いらしいぞ」
言いながら、哲之助は刀を抜く。仕方なく、慶仁も抜いた。
「せめて名前を言うのは礼儀だと思うのになあ」
ぼやいていると、斬りかかって来る。
一人目の刀をひょいと避けて、突き出された腕を斬る。すると、刀を握ったままの右腕が落ちて、それを凝視した持ち主が、
「あ……ギャアアア!う、腕がぁ!」
と転がりながら叫んだ。
哲之助は胴を袈裟懸けに斬りながら、
「慶仁。却ってケガだと痛い」
と言う。
「ん、そうだな」
慶仁も答えながら、もう一人を肩から斬ろうとしたが、受けられ、突き離される。
が、即座に距離を詰めて胴を払って斬る。
刀の血を拭って鞘に納めながら、腰を抜かしている百姓に声をかけた。
「驚かせて申し訳ない。それと悪いんだが、役人を呼んでもらえないだろうか。後、こいつらから斬りかかって来た事を証言してもらいたいんだが」
「へ、へえ!わかりました!」
百姓は頭を下げ、走って行った。
それを見送りながら、慶仁は哲之助にぼやく。
「何なんだろうな、こいつら」
「さっき、『頼藤慶仁様、お覚悟を』って言ったよな」
「ああ……恨まれてるにしては、変だな」
「ああ。おかしい。やっぱり、供侍付きの寄り道なしだな」
「……仕方ないな」
きな臭い事に巻き込まれている気が、ハッキリとわかった瞬間だった。
素直に調べに応じ、問題なしとして放免されると、迎えに来てくれていた青山と鳥羽と一緒に帰宅した。
そしてすぐに刀を預けて、息をつく間もなく祐磨と佐倉に事の次第を説明する。
「そうか。『頼藤慶仁様、お覚悟を』と言ったのか」
難しい顔で祐磨が腕を組む。佐倉も、難しい顔で唸っていた。
「誰だろうね」
慶仁は言ってみたが、二人共、唸るだけだ。
と、若衆が部屋の外に現れて、来客だと告げた。
「岩代国の岡本様と竹下様とおっしゃる方が、殿と慶仁様にお会いしたいと」
「……お通しせよ」
「はっ」
若党が姿を消すと、祐磨と佐倉が顔を見合わせる。
「竹下?今日、道場に来なかったなあ」
「殿……」
「うむ」
しばらくして、客間の次の間に客が入ったと報告があり、三人は席を立った。
客間に行くと、次の間に控えていた二人が、扇子を前に置き、頭を下げた。
「こちらへ」
「はっ。失礼いたします」
侍が客間へ来、若党が茶と茶菓を運んで来る。
それが済むと、ようやく彼らは本題に入った。
「熊沢早紀殿とおっしゃる方の消息を探しておりましたところ、こちらの早苗殿と親交を深くしておられたと聞き及びまして」
「熊沢早紀殿。確かに、早苗様が嫁入りする前には聞いた覚えもございますなあ」
佐倉が斜め上を見ながら言う間、岡本は慶仁の顔を見ていた。
「慶仁殿でいらっしゃいますな。道場で、評判を聞き及んで参りました。お強くていらっしゃる上、学問でも優等であるとか」
慶仁は、うっかり照れそうになって、慌てて表情を引き締めた。
「それほどでもございません」
「それに、早紀殿を存じておりますが、まさに早紀殿によく似ていらっしゃる」
「ええっと、よく似た人がこの世には三人いるそうですよ」
岡本は、フッと小さく目元を緩め、祐磨を見た。
「お尋ねいたします。慶仁殿は、早紀殿のお子ではございませぬか」
慶仁は、怪訝な顔で祐磨を見、次に、竹下を見た。しかし竹下は真面目な顔を崩さず、助けてくれそうもない事だけは慶仁にもわかった。
「……慶仁は我が弟であるが……もしそうであったら、いかがいたす」
岡本と竹下は緊張しきった顔をして、意を決したように口を開いた。
「は。……熊沢家再興の為、お力を賜りたく」
祐磨と佐倉は岡本と竹下を無言で眺めた後、言った。
「どうやら、お人違いでござろう」
「……は。失礼仕りました」
岡本と竹下は頭を下げて、暇を告げた。
「何か、変だよな」
「ううーん。まあ、頼藤家だから、縁をつないでおきたいと思って、養子なり婿なりの話が出るのは普通だとは思うけど」
哲之助は、考えながら言った。
「でも、婿って年じゃないし、跡継ぎのいない家が養子に、というには同時に三家もだぞ。不自然だ。
しかも、三つ共、話を訊くだけ訊いてピタッとおしまいだ。その上、ハッキリとどこの家と言いもしなかったらしいしな」
「そう言われると、確かにな」
ううむと二人して考え込み、団子をパクパクと平らげる。
道場からの帰り道、供侍の青山が今日はいないのをいいことに、茶屋に寄り道をしているのである。今日はよその道場に出向いて交流試合をしたので、青山を付けていないのだ。
「用心した方がいいな」
「ん。そうだな」
「取り敢えず、出かける時は一人はやめとけ」
「ん……」
「こういう寄り道もどうかと思う」
「……」
「はあ。付き合うから、せめて供侍はつけろ」
「ん……わかった……」
それで、慶仁と哲之助は連れ立って家に向かった。
暮れかけた道は、やや田舎の方である事もあって、人通りが少なかった。
不意に、前方から傘を被った侍が三人現れて、無言で近寄って来る。そのままこちらも無言ですれ違って行こうとした時、こいくちを切る音と殺気を感じ、距離を取る。
偶然居合わせた通行人が、悲鳴を上げた。
「誰だ」
「頼藤慶仁様。お覚悟を」
「慶仁。言う気は無いらしいぞ」
言いながら、哲之助は刀を抜く。仕方なく、慶仁も抜いた。
「せめて名前を言うのは礼儀だと思うのになあ」
ぼやいていると、斬りかかって来る。
一人目の刀をひょいと避けて、突き出された腕を斬る。すると、刀を握ったままの右腕が落ちて、それを凝視した持ち主が、
「あ……ギャアアア!う、腕がぁ!」
と転がりながら叫んだ。
哲之助は胴を袈裟懸けに斬りながら、
「慶仁。却ってケガだと痛い」
と言う。
「ん、そうだな」
慶仁も答えながら、もう一人を肩から斬ろうとしたが、受けられ、突き離される。
が、即座に距離を詰めて胴を払って斬る。
刀の血を拭って鞘に納めながら、腰を抜かしている百姓に声をかけた。
「驚かせて申し訳ない。それと悪いんだが、役人を呼んでもらえないだろうか。後、こいつらから斬りかかって来た事を証言してもらいたいんだが」
「へ、へえ!わかりました!」
百姓は頭を下げ、走って行った。
それを見送りながら、慶仁は哲之助にぼやく。
「何なんだろうな、こいつら」
「さっき、『頼藤慶仁様、お覚悟を』って言ったよな」
「ああ……恨まれてるにしては、変だな」
「ああ。おかしい。やっぱり、供侍付きの寄り道なしだな」
「……仕方ないな」
きな臭い事に巻き込まれている気が、ハッキリとわかった瞬間だった。
素直に調べに応じ、問題なしとして放免されると、迎えに来てくれていた青山と鳥羽と一緒に帰宅した。
そしてすぐに刀を預けて、息をつく間もなく祐磨と佐倉に事の次第を説明する。
「そうか。『頼藤慶仁様、お覚悟を』と言ったのか」
難しい顔で祐磨が腕を組む。佐倉も、難しい顔で唸っていた。
「誰だろうね」
慶仁は言ってみたが、二人共、唸るだけだ。
と、若衆が部屋の外に現れて、来客だと告げた。
「岩代国の岡本様と竹下様とおっしゃる方が、殿と慶仁様にお会いしたいと」
「……お通しせよ」
「はっ」
若党が姿を消すと、祐磨と佐倉が顔を見合わせる。
「竹下?今日、道場に来なかったなあ」
「殿……」
「うむ」
しばらくして、客間の次の間に客が入ったと報告があり、三人は席を立った。
客間に行くと、次の間に控えていた二人が、扇子を前に置き、頭を下げた。
「こちらへ」
「はっ。失礼いたします」
侍が客間へ来、若党が茶と茶菓を運んで来る。
それが済むと、ようやく彼らは本題に入った。
「熊沢早紀殿とおっしゃる方の消息を探しておりましたところ、こちらの早苗殿と親交を深くしておられたと聞き及びまして」
「熊沢早紀殿。確かに、早苗様が嫁入りする前には聞いた覚えもございますなあ」
佐倉が斜め上を見ながら言う間、岡本は慶仁の顔を見ていた。
「慶仁殿でいらっしゃいますな。道場で、評判を聞き及んで参りました。お強くていらっしゃる上、学問でも優等であるとか」
慶仁は、うっかり照れそうになって、慌てて表情を引き締めた。
「それほどでもございません」
「それに、早紀殿を存じておりますが、まさに早紀殿によく似ていらっしゃる」
「ええっと、よく似た人がこの世には三人いるそうですよ」
岡本は、フッと小さく目元を緩め、祐磨を見た。
「お尋ねいたします。慶仁殿は、早紀殿のお子ではございませぬか」
慶仁は、怪訝な顔で祐磨を見、次に、竹下を見た。しかし竹下は真面目な顔を崩さず、助けてくれそうもない事だけは慶仁にもわかった。
「……慶仁は我が弟であるが……もしそうであったら、いかがいたす」
岡本と竹下は緊張しきった顔をして、意を決したように口を開いた。
「は。……熊沢家再興の為、お力を賜りたく」
祐磨と佐倉は岡本と竹下を無言で眺めた後、言った。
「どうやら、お人違いでござろう」
「……は。失礼仕りました」
岡本と竹下は頭を下げて、暇を告げた。
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