体質が変わったので

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百万両の夜景(5)お役目

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 その夜景スポットは元々家族やカップルに人気のスポットだったのだが、いつの頃からか暴走族が増えて占領されてしまい、その後猫の霊が出て暴走族を脅したせいで、再び家族やカップルの賑わう場所となった所である。
 クリスマスを直前に控えた今、ほとんどがカップルだ。
 そこへ着き、車を降りると、初音と静は歓声を上げた。
「まあ!何てきれいな!静様!」
「そうですね。流石は百万両」
 千穂と美里は、ひそひそと言い合った。
「百万両って、どのくらい?」
「さあ。ちょっと……」
 初音と静は仲良く寄り添って、夜景を見ていた。
「ありがとうございます」
 いつの間にか、執事がそばにいた。
 車はどこかに止めて来たのか、見当たらない。
「いいえ。喜んでもらえて、光栄ですわ」
 その時、タクシーがまた1台着いて、怜と直が降り立った。

 僕と直は、その夜景スポットに降り立った。
「ああ……」
 強い霊の気配が示す通り、そこには3体の霊が揃っていた。
 石碑に祀られていた、成城院の巫女と、執事。そして、青年将校。
「あの様子じゃ、あの青年将校も関係者みたいだな」
「だねえ」
 言いながら見ていると、美里と千穂さんがにこにこと手を振った。
「……何があったのかは凄く気になるところだな」
 溜め息を堪えていると、巫女と青年将校が、そばに寄って来た。
「こちらの方々は美里様と千穂様のお知り合いの方ですの?」
「御崎 怜、警視庁陰陽課の警察官で、霊能師でもあります」
「同じく、町田 直ですぅ」
「あら。では、こちらは千穂様の旦那様で、こちらは美里様のお付き合いなさっている方ですのね」
 巫女が、目を輝かせる。
「私、成城院初音と申します」
「三田園静。初音の許婚で、陸軍に所属しています」
「それと、執事の斎藤でございます」
 初音は申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい。どうしても、興味があって。少しの間ならいいかと……」
 執事は頭を下げた。
「いえ。私が付いておりましたのに、お諫めできませんでした。申し訳ございません」
「いえ。それは、もう。今夜中に戻れば、間に合いますし。
 それで、あなたは?」
「はい。この世で添う事ができず、探しておりましたが、初音の気配がしたので追って参りました。ご迷惑をおかけしました」
 静も、頭を下げた。
「いえ。そうでしたか。ならば、今度はご一緒にいらっしゃれば?」
 初音と静は顔を見合わせて笑い、それを見て、執事は目元を押さえた。
「それで、夜景は楽しんでいただけましたかねえ?」
「はい、とてもきれいですわね。流石は百万両の夜景ですわ」
 百万両?
 なぜか、美里と千穂さんは目をそらせた。
「では、心苦しいのですが、そろそろ……」
 言うと、美里と千穂さんが、反発してきた。
「え、ちょっと。どうして?」
「まだ来たばかりよ?」
 何と説明すればいいのやら……。
 僕と直が顔を見合わせていると、初音さんが美里と千穂さんに向き直った。
「もう十分ですわ。本当に、ありがとうございました。美里様、千穂様。叶わないと思っていたのに、こうして静様とガス燈見物までできました。異国の御姫様になったような食べ物も、とてもおいしゅうございました。私、このご恩は決して忘れませんわ」
「え、そんな。大げさよ、初音さん」
「そうよぉ」
「いえ。初音に良くしていただき、感謝しております。そして私自身も、この光景、忘れません」
 3人は深々と頭を下げ、美里と千穂さんは、戸惑ったような顔をしていた。
「御崎様、町田様。お手間をおかけいたします」
「ご配慮、感謝いたします」
 初音さんと静さんが言い、執事は無言で、こちらにも深々と頭を下げる。
「いえ。大変なお役目を押し付けるようで、申し訳なく思います」
 僕と直が頭を下げ、美里と千穂さんは、益々、怪訝な顔をしている。
 そこで初音さんはにっこりと笑った。
「美里様、千穂様から、とても安心できる気配を感じましたのは、御崎様と町田様のものだったのですわね」
 そして、静さんと顔を見合わせる。
「私、このお役目を果たしてご覧にいれましょう。これからは、斎藤さんだけでなく、静様もついていて下さるのですから」
「私も、ようやく初音さんの居場所がわかって安心した。一緒に、この美しい灯りがずっと続くよう、お役目を果たそう」
「ええ。斎藤さんも、よろしくね」
「はい、お嬢様――いえ、奥様、旦那様」
 そして3人は、石碑の中にあった小さな壺を直に差し出されて、その中に入った。
「え!?」
「どこ行ったの!?え!?」
 美里と千穂さんは、まだ気づいていないらしい。
「あのな……」
 僕と直は、簡単にあの3人の説明を始めた。

 美里と千穂さんに説明し、僕と直も説明され、お互いに絶句した。
「何と、まあ」
「だねえ」
 笑いがこみ上げて来る。
「偶然って怖いわねえ」
「ホントだわ」
 そして、電話で連絡したら来てくれることになった協会の職員を待つ間、夜景を眺めた。
「守護の、大切で大変な役目をしてくれる事に、感謝だな」
「そうだねえ。
 ところで気になったんだけどねえ。百万両の夜景って、何かねえ?」
 美里と千穂さんは困ったように顔を見合わせてから、噴き出した。
「また、今度ね」
 足元に広がる夜景を見て、クスクスと笑った。


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