体質が変わったので

JUN

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呪いの宝玉(4)呪い

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 直と、今日も一緒に帰る。照姉ーー天照大御神から色々届いたので、分けるのだ。
「そうだ。照姉達にも報告しないとなあ」
「そうだねえ」
「千穂さん、大丈夫かな」
「……慣れてくれないとねえ」
「いきなりはアレだから、少人数からでどうだ?それとも、神威を少しずつ浴びせて慣れさせてみるか?神の前に十二神将で慣れておくとか」
「十二神将じゃあ、神と大差ないねえ。多分」
「そうか。
 ん?」
 玄関の前で、それに気付いた。
 直と顔を見合わせると、直も緊張したような顔をしている。
「とにかく中へ入ろう」
 鍵を開けるのももどかしく、ドアを開けると、音で気付いた敬が、玄関まで出迎えに来てくれていた。
「お帰りなさあい!」
 そう言って飛びついて来るのを、取り敢えず一旦抱き上げて、下ろす。
「兄ちゃんは?」
「着替え中。直君、こんばんは!」
「こんばんはぁ、敬君」
 直はにこにことして返す。
「敬、今日は変わった事は無かったか?」
「お昼の天ぷらの乗ったおうどんが美味しかった!それとね、おにぎりも!」
「そうか」
「あとね、猫がいた!」
「へえ」
 聞きながら、気配の元を辿って行く。
「どんな猫だったのかねえ?子猫?」
 さりげなく直が訊いて、敬を札で守れるように近くに寄せる。
「うん!小さいの。このくらい……このくらい?」
 敬は一生懸命、記憶を頼りに猫の事を伝えようとしている。
 僕達は、リビングに入った。
「お帰りなさい。直君も」
 冴子姉が、部屋の方から入って来て言った。後ろに、着替えた兄もいる。
「ただいま」
「……何かあったか?」
 兄が訊き、直が苦笑した。
「流石だねえ」
「妙な気配がある。自殺直前に感じたのと同じ気配なんだ」
 兄と冴子姉の顔も引き締まる。
 気配の元は、敬のリュックだ。
「敬。今日、何かいいもの見つけた?」
 敬はぱあっと顔を輝かせて答えた。
「あのね、まん丸い石!ぴかぴかできれいだったから拾ったの!」
「どこにあったのかねえ?」
「猫のところ!」
 冴子姉が、付け加える。
「多分自転車置き場だわ。買い物から帰って来た時に子猫がいて、そばに敬もしゃがみ込んでたから」
「朝は無かったな。
 敬、見せてもらっていいか?」
「うん!お父さんとお母さんと怜に見せてあげようと思ったの」
 にこにこと笑う敬の頭を撫でて、直に預ける。兄と冴子姉も、察して直のそばに行く。
 リュックに手をかけ、チャックを開ける。
 ハンカチ、ティッシュ、バンドエイド、ウエットティッシュ。そして、丸い石。
「これだな」
 そんなに重くはない。大きさも、子供の握りこぶしより少し大きいくらいか。表面は磨かれたのかツルツルで、色はピンク。
 そんな見かけに反して、漏れだす気配は真っ黒だ。
「これが落ちてたのか?」
「そう!きれいでしょう」
「そうだな。ありがとう。
 でも敬、これは、落とした人が探してたものなんだ。返してあげないと」
「うん、わかった!いいよ。見つかって良かったね」
「そうだな。じゃあちょっと行って来る」
「すぐ帰る?」
「ああ」
 僕と直は、とにかくそれを持って、外へ出た。とにかく家の外へと急いだ。
「封印――まずいねえ!」
 直が札を出す前に、それは中から霊を出した。

     何だ、ここの空気は!消えるかと思ったわ!

「何だ、貴様は」
「ヘタな神域よりも清浄だから、悪い物にとっては地獄だねえ」
「なるほど、悪いヤツという証拠だな」
 家族が危なかったかもというので、僕は気が立っている。
 それは少し怯んだ様子を見せたものの、ニイッと嗤った。

     出してくれて礼を言おう
     美味そうな子供だと思ったら参ったわ

「お前は何者だ。何人もを破滅に追いやったのはお前か」

     ああ。石に封じられて聖域に閉じ込められていたんだがな。
     兵隊が出してくれた。
     そいつを殺した敵を、力が戻ってから殺してやった。
     それが最初か。人が空を飛ぶなんてなあ。

 最初のアメリカ兵は、戦地で日本兵からこれを奪ったらしい。
「お前の封じられていた聖域とは?」
 それは現地語で何か言った。
「どこだって?」
「南方だな。少数部族だろう」
 それは顔や腕に入れ墨を入れ、首から干し首を連ねた物をぶら下げ、頭にハチマキのような物を巻いていた。
「シャーマンか。部族間の争いに負けて、祟らないようにと封じられたのか」

     そうとも。あの時までは最強だったのに。
     殺せ、殺せ、殺せ!
     敵は殺し尽くせ!
     部族以外は皆敵!
     首を狩って、喰らえ!

 首狩り、食人の文化のある地域か。
「最強か」

     そうとも!

「負けたんだから、最強じゃないだろ」
 ムッとしたらしい。
「あはは。敬老精神だよぉ、怜」
「家族や友達に手を出そうとしたんなら、敵だ」
 右手に刀を出す。容赦してやる義理は無い。
「はいよ、怜」
 直も、臨戦態勢だ。

     面白い
     まずはお前らからか!

 クワッと歯を剥きだし、両手を組むと何やら唱えだした。
「遅いなあ。まあ、精一杯の敬老精神で、初手は譲ってやるか」
「遠くから来たようだしねえ」
 シャーマンは怒ったようだ。流石に、バカにされたとわかったらしい。

     うおおおおお!!

 力が叩きつけられて来る。
 が、直の札が、簡単に弾き返した。

     な、何!?

「じゃあ、今度はこっちだな。
 お前、力を根こそぎ無くした時のフラカンよりも弱いぞ」
 刀を振るう。軽い一撃で十分だ。

     おおおおお!
     おのれぇぇぇ!

 シャーマンは喚きながら、跡形もなく消え去った。
「何か、昔のシャーマンて凄いイメージがあったのにねえ……」
 直が、どこかがっかりしたように言った。

 直が神からのお下がりを下げて帰ると、夕食になる。
 キャベツとブロッコリーと和風ハンバーグきのこあん、小松菜と小がんもの炊いたもの、ひじき大豆、たけのこご飯、豆腐とあげとネギの味噌汁。
 ハンバーグなどは、ミンチの3分の1ほどを先に加熱して冷ましたものを混ぜてこねると、縮むのを押さえられていい。
 敬はご機嫌のうちに完食し、冴子姉とお風呂に入る。
 その間に、兄に報告だ。
「あの石は、南方の部族のものらしい。首狩りと食人の風習のあった所だな。そこであった部族間の争いに負けた方のシャーマンが封じられてたよ」
「そんなものがなぜ?」
「どうも、戦時中に日本兵がその石を聖域から持ち出したらしいな。その後、日本兵はアメリカ兵に殺されて、アメリカ兵はそれをきれいな石、戦利品として奪った。その後女優に贈られて、転々と持ち主を変えながら、ホープダイヤさながらに持ち主に不幸を与えながら、力を蓄えていってたらしいよ。
 もうただの石だけど、どうしよう。一応外務省に相談してみようかと思うんだ」
「そうだな。文化遺産と言えるしな。
 ありがとう。次のオーナーにうちがなるところだったな」
 兄が、ホッと息をつく。
「うちはその辺の神域並みには清浄だから、取り敢えず、出て来られなかったらしくて助かったよ。
 敬には、落とし物で、持ち主に返したと」
「そうだな。それが良さそうだ」
 敬がお風呂から上がって来て、
「牛乳飲むぅ!」
と言う声を聞きながら、改めて、無事に済んだ事に安堵した。




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