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呪いの宝玉(3)不幸続き
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僕と直は、思わず訊き返した。
「消えた?」
支倉さんの遺族に会って、支倉さんが執着していた宝玉の事を訊いたのだが、どこにも見当たらないという。家にも会社にも無いし、どこかに預けているとも思えないと。
「会社の社長室か自宅の床の間に飾っていたんですよ。死ぬ前も何か言いながら宝玉を磨いていて、そっとしておいたんですけど……」
妻が戸惑ったように言う。
「何か、謂れがあるものらしいですねえ」
直が訊く。
「はい。大女優が戦後アメリカ兵に貰ったものだとか。それが病気の治療費の為に売られたとか若い頃に聞きましたけど、偶然ツテがあって手に入ったんです。
見た目は、まあきれいな丸い石なんですよ。そんな大層な値が付くものとは思えないですけど」
「でも、お爺ちゃんはそれを物凄く大事にしてたわ」
孫が口を尖らせた。
「触りかけたら、怒られたの」
「どこに行ったんでしょうねえ。おかしいわねえ」
全く思い当たらないらしい。
僕と直は礼を言って、支倉さんの家を辞した。
「会社にもなかったしな」
「もしかして、自殺現場かねえ?」
「徹底的に鑑識が入ったけどなあ。
あ。一緒に落ちて、割れて粉々になったとか」
「……ああ……」
顔を見合わせて、困ったな、と思う。
来歴について軽く調べると、呪いのホープダイヤの冗談が、冗談でなくなるようだった。
まず、記録で追える最初はアメリカ兵だ。女優の加納真砂さんにプレゼントした直後、アメリカへ戻る飛行機が落ちて亡くなった。
加納真砂さんはその後、病気を抱え、苦しみ抜いて亡くなったという。
宝玉を買ったのは加納さんのファンだった百田原源蔵さんという石炭の会社を営む人物で、会社の景気はよかったのだが急速に悪化。列車に飛び込んで自殺している。
石自体は大したものではないらしく、ただ故人が大切にしていたからというだけで、息子の百田原正雄さんが石を受け継いだ。百田原さんは医者で、温厚な人だったらしいが、人体実験の噂が出たりと問題を起こし、服毒自殺をして亡くなった。
次にこれを手にしたのは加納さんのファンだという作家の小西克幸さんで、自動車事故にあって寝たきりになり、脳梗塞の末肺炎で亡くなった。
その次が友人の支倉さんだ。
見事に不幸な最期ばかりだった。
「どこにあるんだろうねえ」
「割れて効力も消えたんならそれでいいが、そうは行かないだろうなあ」
「たぶん、行かないねえ」
嘆息しか漏れない。
「何なんだろうな。そのアメリカ兵は、石をどこで手に入れたんだろう」
「戦時中だよねえ、手に入れたのは。戦地かねえ?」
「血を吸った石?危ないところを、その石で殴って敵を倒して命拾いしたとか。
あ、でも、アメリカ兵の敵なら日本の味方だな」
「日本人に祟るのは筋が通ってないねえ。まあ、区別がついてるならだけどねえ」
頭を抱えたくなる。
「まあ、どうしようもないな」
「こう言っちゃあなんだけど、話題が出なければそれでよし。出たらその時祓うしかないかねえ」
「だな。
そうだ。社宅跡がマンションになるって、正式に決定したらしいぞ。僕も申し込む事にした」
「へえ。場所はいいんだよねえ。実家に近いのは勿論だけど」
「駅にも近いし、幹線道路もインターチェンジも近い。駅から主要な大きい駅までも近いから、交通の便はいい。
なのに住宅街は静かで、店も多いから物価は安いし、病院なんかも近い」
「おまけに裏は警察署で治安もいいしねえ。
そうなると、問題は値段だねえ」
僕は給料以外にも、うっかりが元とは言え大会社の筆頭株主になっているので配当がかなりある。
「広告とか出たらすぐに知らせるよ。
とは言え、あそこにそんなバカ高いマンションは建たないだろ?」
「だといいんだけどねえ」
言いながら、歩き出した。
同じ頃、敬は冴子と買い物から帰って来ていた。背中にはお気に入りのリュックを背負っているし、この後のご飯は、天ぷらうどんと小さいおにぎりだ。機嫌良く、自転車から降ろされて、冴子が自転車をとめるのを待つ。
「あ、猫!」
ほんの小さい猫が自転車置き場の端にいたのを見付け、敬は近寄ってみた。
逃げようともせずに、猫は敬を見てニャアンと鳴く。子供同士とでも思っているのか。
「にゃあん」
敬は返事をして、猫と見つめ合った。
と、目の端で何かが光った。
拳くらいの大きさはある、まん丸い石だった。よくわからないが、つるつるしていてきれいだと思う。
「お父さんと怜にも見せてあげようっと」
敬はそれを拾い上げ、大事にリュックの中へと入れた。
「敬?」
「はあい!」
敬は元気よく返事をして、走って行った。
「消えた?」
支倉さんの遺族に会って、支倉さんが執着していた宝玉の事を訊いたのだが、どこにも見当たらないという。家にも会社にも無いし、どこかに預けているとも思えないと。
「会社の社長室か自宅の床の間に飾っていたんですよ。死ぬ前も何か言いながら宝玉を磨いていて、そっとしておいたんですけど……」
妻が戸惑ったように言う。
「何か、謂れがあるものらしいですねえ」
直が訊く。
「はい。大女優が戦後アメリカ兵に貰ったものだとか。それが病気の治療費の為に売られたとか若い頃に聞きましたけど、偶然ツテがあって手に入ったんです。
見た目は、まあきれいな丸い石なんですよ。そんな大層な値が付くものとは思えないですけど」
「でも、お爺ちゃんはそれを物凄く大事にしてたわ」
孫が口を尖らせた。
「触りかけたら、怒られたの」
「どこに行ったんでしょうねえ。おかしいわねえ」
全く思い当たらないらしい。
僕と直は礼を言って、支倉さんの家を辞した。
「会社にもなかったしな」
「もしかして、自殺現場かねえ?」
「徹底的に鑑識が入ったけどなあ。
あ。一緒に落ちて、割れて粉々になったとか」
「……ああ……」
顔を見合わせて、困ったな、と思う。
来歴について軽く調べると、呪いのホープダイヤの冗談が、冗談でなくなるようだった。
まず、記録で追える最初はアメリカ兵だ。女優の加納真砂さんにプレゼントした直後、アメリカへ戻る飛行機が落ちて亡くなった。
加納真砂さんはその後、病気を抱え、苦しみ抜いて亡くなったという。
宝玉を買ったのは加納さんのファンだった百田原源蔵さんという石炭の会社を営む人物で、会社の景気はよかったのだが急速に悪化。列車に飛び込んで自殺している。
石自体は大したものではないらしく、ただ故人が大切にしていたからというだけで、息子の百田原正雄さんが石を受け継いだ。百田原さんは医者で、温厚な人だったらしいが、人体実験の噂が出たりと問題を起こし、服毒自殺をして亡くなった。
次にこれを手にしたのは加納さんのファンだという作家の小西克幸さんで、自動車事故にあって寝たきりになり、脳梗塞の末肺炎で亡くなった。
その次が友人の支倉さんだ。
見事に不幸な最期ばかりだった。
「どこにあるんだろうねえ」
「割れて効力も消えたんならそれでいいが、そうは行かないだろうなあ」
「たぶん、行かないねえ」
嘆息しか漏れない。
「何なんだろうな。そのアメリカ兵は、石をどこで手に入れたんだろう」
「戦時中だよねえ、手に入れたのは。戦地かねえ?」
「血を吸った石?危ないところを、その石で殴って敵を倒して命拾いしたとか。
あ、でも、アメリカ兵の敵なら日本の味方だな」
「日本人に祟るのは筋が通ってないねえ。まあ、区別がついてるならだけどねえ」
頭を抱えたくなる。
「まあ、どうしようもないな」
「こう言っちゃあなんだけど、話題が出なければそれでよし。出たらその時祓うしかないかねえ」
「だな。
そうだ。社宅跡がマンションになるって、正式に決定したらしいぞ。僕も申し込む事にした」
「へえ。場所はいいんだよねえ。実家に近いのは勿論だけど」
「駅にも近いし、幹線道路もインターチェンジも近い。駅から主要な大きい駅までも近いから、交通の便はいい。
なのに住宅街は静かで、店も多いから物価は安いし、病院なんかも近い」
「おまけに裏は警察署で治安もいいしねえ。
そうなると、問題は値段だねえ」
僕は給料以外にも、うっかりが元とは言え大会社の筆頭株主になっているので配当がかなりある。
「広告とか出たらすぐに知らせるよ。
とは言え、あそこにそんなバカ高いマンションは建たないだろ?」
「だといいんだけどねえ」
言いながら、歩き出した。
同じ頃、敬は冴子と買い物から帰って来ていた。背中にはお気に入りのリュックを背負っているし、この後のご飯は、天ぷらうどんと小さいおにぎりだ。機嫌良く、自転車から降ろされて、冴子が自転車をとめるのを待つ。
「あ、猫!」
ほんの小さい猫が自転車置き場の端にいたのを見付け、敬は近寄ってみた。
逃げようともせずに、猫は敬を見てニャアンと鳴く。子供同士とでも思っているのか。
「にゃあん」
敬は返事をして、猫と見つめ合った。
と、目の端で何かが光った。
拳くらいの大きさはある、まん丸い石だった。よくわからないが、つるつるしていてきれいだと思う。
「お父さんと怜にも見せてあげようっと」
敬はそれを拾い上げ、大事にリュックの中へと入れた。
「敬?」
「はあい!」
敬は元気よく返事をして、走って行った。
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