勇者パーティーを追放、引退、そして若返った二度目の人生でも、やっぱり貴方の傍にいる

薄影メガネ

文字の大きさ
31 / 66
第二部

12 胸騒ぎの前夜

 ガロンが出ていった後の夫婦の寝室で、クーペを真ん中にルーカスとラーティと三人一緒に就寝したはずが、ルーカスは何やら胸騒ぎを覚えて夜中に目を覚ました。

 ラーティとクーペが寝ているのを確認すると、一人静かにベッドから出た。物音を立てないようスリッパを履いて、ベビーベッドで眠るナディルを確認する。

 よく寝ているのに安心してルーカスはそっと場を離れた。

 暗いバルコニーへ出ると、そこにいるガロンの使い魔──黄金の羽に頬っぺたは赤いチークをまぶしたようなプリティ系の魔獣、オカメンコインにガロンへの伝言を託す。

 サイズは大型のインコ程あるオカメンコインが、ルーカスの伝言をたずさえパタパタと星空を飛んでいく。

 普段はガロンの近くにいるか、屋敷の回りの監視に放たれているこの魔獣が、たまたまルーカス達のいる寝室のバルコニーにいたのは丁度よかった。

 オカメンコインはラスクールのご家庭に一匹はいて欲しい、伝書鳩ならぬ伝書インコだ。言ったことをそのまま伝えにいく。しかし難点なのが一つある。

 伝えにいく途中で他者の話を聞いてしまうと、内容がそれにり替わってしまうことがあるのだ。

 ちゃんと話が伝わるかは五分五分という伝言ゲームさながらの、可愛いけれどとっても刺激的エキサイティングな魔獣なのだ。

 一説によれば、このオカメンコインを使った魔獣使いのカップルが、破局を狙ったライバルに間違った伝言を刷り込ませられて、危うく破局しそうになったという。

 愛くるしい見た目からは想像もできない、三角関係のいわくつき。まさに今のルーカス達にぴったりの魔獣を使うのもどうかと思ったが、今は深夜だ。

 この時間帯なら途中で出会でくわす相手もいない。伝言を間違えることもないだろう。

 それになるべく早くガロンへ伝言を届けたかった。

 伝言を託してから程なくして、オカメンコインがガロンの返事を伝えにパタパタと戻ってきた。正確に伝わったのを確認したルーカスは室内へ戻る。

 子供達のいる室内に外気が入らないよう掃き出し窓をきっちり閉め、窓辺に立つ。

 腕を組み外を一望しながら、これまでの軌跡きせきを暫し思い起こしていると──声が掛かった。

「良かったのか?」

 ラーティが起きてしまった。

 すぐ後ろまできていることに気付かなかったのは迂闊うかつだったが仕方ない。相手は現在勇者だ。

 ルーカスより大きな体で軽やかな身のこなしのラーティに若さを感じる。

「良かったとは騎士の称号をクーペに渡したことでしょうか、それとも……」

 ラーティがルーカスを抜きにした、ウルスラとの二人きりの面会を承諾したことを言いたいのか。ルーカスは彼を振り返り、探る。

 今回聞かれているのはおそらく後者だったが、ルーカスはあえてその話題かられた。

「貴方は知りたいですか? 私の過去を」

 父セザンのことは、ラーティにも話していない。これほどの月日が経ち、当時のことを知っているのはもう、かつての勇者パーティーの仲間達くらいなものだろう。

 それに……そのことに触れるのなら、必然的にオルガノとの関係も話さなくてはならなくなる。

「ルーカス?」

「すみません。少し私は疲れているようだ」

 もう寝ましょう。

 らしくない。今は些末さまつなことに気を取られている時ではないと、ルーカスはラーティの隣を通り過ぎるところで──けれど足を止める。

「私は貴方を愛している。たとえどのようなことになろうとも、それは忘れないで欲しい」

 オルガノのときに痛感した。自分では足りないこともある。それを補うために必要だとラーティが判断したのなら、ルーカスは従う以外の選択肢を持たない。

 その場にひざまずく。

「貴方を主とし、生涯の忠誠を誓う従者であると同時に、私は貴方を夫と思っています。ですのでどうか、ウルスラ様を正妻に迎え入れることとなった折りには、まず私に教えて頂きたい」

 どうか心の準備はさせてほしい。

 懇願こんがんにラーティが瞠目どうもくする。見るのを避けるように、ルーカスは視線を床に落とした。





 ルーカスは自らが側室に追いやられるのを覚悟で、ウルスラの元へラーティを送り出そうとしている。

 ラーティは雷に打たれたような衝撃を受けた。

「……お前はいったい何の覚悟をしている?」

 狼狽ろうばいし明らかに強張ったラーティの声に、ルーカスがハッと身を硬くする。

 しまったと思った。責めるつもりなど毛頭なかったというのに。

 ラーティを夫と呼びながら跪き、うつむくルーカスの息を呑む気配。クーペとナディルが眠る静かな室内に緊張が走る。異様な空気にラーティは目をすがめた。

 二人が起きないよう互いに極力声を潜めるも、これは子供達のいる部屋でする話ではなかった。

 かといってルーカスを連れて第二の寝室へ行くには、今のルーカスはあまりに張り詰めた状態にある。

 陛下との過去があったから、今度は私に捨てられると思っているのか?

 ひたすら下を向き、ルーカスはラーティの反応を恐れている。側室に追いやられるなどと、何故そこまでのことをされると思っても、ルーカスは反論の一つもしないのか。

 怒らず、嫌だと感情をあらわにすることもしない。ひたすらに傍にいることだけに注力して、それではまるで……

 今までお前はどれだけ傷付いてきたんだ……?

 ラーティはグッと拳を握る。

 不甲斐ふがいない夫だ。

 窮地にある娘に会うななどと、ルーカスが相手を見捨てるような発言をけしてしないことは、分かりきっていたことだったではないか。彼はそういう男だ。

 だからこそ、ラーティはルーカスに心底惚れたのだ。だがそれによって自らが傷付けられることを前提としている妻に、ラーティは歯噛みする。

 何故もっとルーカスの心情を推し量ってやれなかったのだ。

 安易に信用しろなどと、とても言えない。ラーティは実際一度、ルーカスを追放という形で追いやり、捨てたも同然のことをした。

 傷付けたのはオルガノだけではない。ラーティ自身もルーカスに同じことをしたのだ。これ以上のミスは許されない。

「ルーカス、おいで」

 手を差し出す。辛抱強く待つと、やがてルーカスはラーティの手を取り、立ち上がると傍に寄った。

 ラーティより一回り以上小さな、もう戦士ではない細身の体を腕に抱く。

「お前に信用してもらうには、私はどうすればいい?」

 何を捧げればいいのかときながら、ラーティはルーカスの黒髪を丁寧にく。

 答えの代わりに困った顔をされて、ラーティはただ切なに表情を染めるしかできなかった。

 妻に信じてもらうには行動で示すより他はない。そうして妻を腕に強く抱き締めていたら、ツンツンと足元で服を引っ張られる感覚があった。
 
「ルーカス、クーペが起きてしまった……」

 寝ぼけているのだろう。眠そうに半目でうつらうつらしながら、ルーカスではなくラーティの服を引っ張っている。もしくはママ大好きなクーペは、ルーカスからラーティを引き剥がしたいのか。

 クーペが「きゅいっ」と寝ぼけまなこにずんぐりむっくりしたお手々を上げた。これは最近覚えたばかりの抱っこのポーズだ。

 ラーティがルーカスを抱く腕をゆるめると、ルーカスはクーペを抱き上げた。よしよしとあやしながら、その胸元に抱え入れる。

 ラーティが再びクーペごとギュッと強く抱き締めると……

 小声で「ラーティ様」とルーカスが呟く。

「すまない。強くし過ぎたか?」

 想いが募り、中にいるクーペを潰してしまったかとラーティは手を離そうとしたが、ルーカスは違うと首を横に振る。

「いえ、クーペが……ものすごく喜んでいる」

「ん?」

 いつもふんわり抱っこのルーカスから、外的な要因によって、未だかつてないぎゅうぎゅうと力のこもった抱擁ほうようを受けた。クーペはお口を大きく開けて、嬉しそうにおめめをキラキラさせている。

 思わず「良い子だな」と言うと、普段はパパ嫌いで触れただけで半眼になる息子が、ご機嫌に鳴いた。どうやらすっかり目を覚ましてしまったようだ。

 子供の夜更よふかしは体に悪い。ラーティは覚醒しておめめをキラキラさせている息子と、不安を抱える妻をベッドに寝かしつけることにした。

 恵まれた幸せの中にいる。

 ラーティは翌朝、ルーカスとの会話もそこそこに子供達との挨拶も済ませると、さっさとわずらわしい用事を終わらせてしまおうと城へ向かった。
感想 264

あなたにおすすめの小説

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。